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北朝鮮戦の本当の敗因。チームを修正できないハリルホジッチ

杉山茂樹スポーツライター

国内組で占められる今回のハリルジャパンは、7月29日にJリーグの試合を戦っていた。北朝鮮戦は移動込みの中3日。しかも現地、武漢は滅茶苦茶暑い。

ハリルホジッチは大会前から日程に苦言を呈し、苦戦を予言していた。試合後の会見でも再三、その点について言及した。

「スタートは良かったが、フィジカル的な問題を抱えていることは決定的だった。走れない選手が何人かいた。日本のサッカー界で責任ある立場にいる人は、今日、何が起きたかをしっかり見届ける必要がある。これが真実。日本サッカー界の現実なのです」

こんな日程でサッカーをやらせる日本サッカー界は低レベルだ。ハリルホジッチはそう言ったも同然の台詞を吐いた。

Jリーグの日程と折り合いをつけられなかった人たちを恨めしく思う気持ちは大いに分かる。そのとばっちりを受けることになったハリルホジッチがひと言、言いたくなる気持ちもよく分かる。

この日のスタメンを見れば、3試合で多くのメンバーをテストするつもりがあることが見て取れた。つまり、フィジカル的な問題を抱える中で、あえてコンビネーションに不安を抱えているメンバーで戦ったわけだ。

その結果、日本は1−2で北朝鮮に敗れてしまった。この現実をどう捉えるべきか。ハリルホジッチに同情したくなる気持ちは確かに湧く。だが、僕の目には、それが全てだとは映らない。もし外的要因が敗因の全てと言うのなら、「それは違うのではないですか」とハリルホジッチに言いたくなる。

程度で言うなら3割程度。7割は別に原因がある。直接的な原因はそちらにある。言い換えれば、フィジカル面が万全でも、あるいはコンビネーションが万全でも、僕は苦戦していたと思う。

2失点の直接的な原因はヘディングだった。高さに屈した。放り込み作戦に脆さを見せた、ということになるが、それを受けて「そういえば日本は昔から放り込みに弱かったな」という話で落ち着いたとしたら、これも本質から外れたものの見方である。

疲れた中で、あるいはコンビネーションに難を抱える中で、日本はできうる限り、ちゃんとした戦いをしたのか。良いサッカーをしたのか。問題の本質はここにある。

前の試合のシンガポール戦(6月・埼玉)。日本は弱小チームにホームでまさかの引き分け劇を演じた。ゲームはコントロールした。決定的チャンスは幾度となく作った。問題はゴールが決まらなかったことだけ。そうした方向で話は落ち着いていると思う。相手GKの健闘を思い切り称える報道も目についた。大きな問題として捉えている人は決して多くないと思う。ハリルホジッチの采配に矛先を向ける人は限られていた。

うっかりしていると、今回もそのパターンに陥りそうだ。これまで述べた外的要因が隠れ蓑になる危険がある。

ハイクロス、放り込みの連続は、格好のいい作戦ではない。お洒落さのかけらもない品のない作戦だとついバカにしがちだが、そんな北朝鮮にも見るべき点はあった。ボールの運び方、すなわち展開力だ。日本の嫌なところにボールを運んでいく「技術」だ。

選手ひとりひとりの技術で、北朝鮮は日本を大きく下回る。だが、その類の「技術」となると話は別。クロスを放り込むのに効果的な場所に、巧いことボールを運んだ。そうした意味でピッチを広く有効に使っているのだ。

サッカーは陣取り合戦だといわれるが、北朝鮮はクロスを蹴り込むために、サイドのある場所に再三にわたりポイントを築くことに成功した。そこでさしてプレッシャーを受けずに、中央に蹴り込んだ。

止められなかった理由は、疲れているから、暑いから、だろうか。それが全てではない。相手ボールに転じた時のポジショニングが悪いからだ。そういう意味での“集団美”に、日本はひどく欠けていた。

ポジショニングの悪さは、マイボールに転じた時にも露呈した。誰がどこにいるのか、上から見ていても、分からないのだ。その時その時でバラバラ。約束事が働いていないのだ。展開力という意味の「技術」を発揮する機会がないのだ。

したがって攻撃は、出たとこ勝負になる。頼るのは選手個人個人のフィーリング。よく言えば、あうんの呼吸だ。しかし日本は急造チームだ。このメンバーで戦ったことは、これまで一度もない。コンビネーションには基本的に大きな問題を抱えたチームなのだ。

そこで問われるのは何かといえば、約束事。ポジショニングはその最たるモノになる。これこそがハリルホジッチの一番の腕の見せ所であるはずだ。

にもかかわらず、それはそのまま日本の弱点になっていた。試合前、ハリルホジッチは、この急造チームに一体、どんな指示を与えたのだろうか。

サッカーで必要なのは、素早い攻守の切り替えといわれる。だが、それをスムーズに行なうためには、攻守が切り替わる瞬間を、それぞれの選手がどこで迎えるかが問題になる。攻守が切り替わった瞬間、相手ボールになった瞬間、各選手はどこにいたのか。マイボールの時間を、奪われることをある程度、想定しながら過ごす必要があるが、日本は全くそれができなかった。北朝鮮ボールになると、フィールドプレイヤー10人は、とたんにアタフタした。

暑いから。疲れているから。理由はそれだけには見えなかった。

長い目で見ると、日本選手のレベルはいま、右肩上がりにない。海外組も、そろそろ限界点を迎えようとしている選手で占められている。そうした中で、従来のレベルを維持しようとすれば、これまで以上に優れた代表監督が必要になる。W杯でベスト16以上を狙おうとすれば、「相当凄い監督」である必要がある。

ハリルホジッチはどうだろうか。まだ就任して間もないので、あくまでも直感的な見方になるが、僕の目には、「相当凄い監督」には見えてこない。大船に乗ったような気持ちにはまるでなれずにいる。

(集英社・sportiva web 8月3日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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