【コロナ禍】急転直下に「収入激減世帯に30万円」から「一律1人当たり現金10万円」となったその背景
公明党が激変した
まるで急転直下のように決まった「一律1人当たり現金10万円給付」の件。そのきっかけは、山口那津男代表が4月15日午前に安倍首相と約20分間面会し、直談判したことだった。
「一律1人当たり10万円の給付、これを組み替えて実行すべし、と。1次補正として実行すべしということをご提案しているわけであります」
翌16日午前に開かれた同党の中央幹事会で、山口代表は安倍首相に求めた内容について説明した。この時の安倍首相の返答は、「方向性をもって検討する」。その翌朝に山口代表が電話した時、安倍首相は「引き取って検討する」と述べたという。
結果的に公明党の主張がまるごと通ったことになる。だが公明党は当初から、「一律1人当たり現金10万円」を主張していたわけではない。
同党の斉藤哲夫新型コロナウイルス感染症対策本部長兼幹事長らが3月31日に安倍晋三首相に申し入れた提言書には、「収入が大幅に減少するなど深刻な影響が生じている人に1人当たり10万円給付」と明記。斉藤幹事長は3月27日の会見でも、「安定した収入がある方は、今回は対象外」と説明している。
にもかかわらず、公明党は一気に「一律給付」に変容した。「山口代表が変わったからだ」と、公明党関係者は話す。「どうやら“線路の向こう”から相当強く言われたらしい」
“線路の向こう”とは支持母体の創価学会を意味する。創価学会の通称になっている中央線「信濃町」駅を挟んで、創価学会本部と公明党本部が位置するからだ。
連立解消も辞さない構えだった公明党
しかし自民党も抵抗した。1次補正予算は16兆8057億円で、その全額を国債の発行でまかなうことになる。「大幅収入減の世帯に30万円支給」なら約4兆円で足りるが、「国民全員に一律10万円支給」となると約12兆円の財源が必要。第1次補正予算を大きく組み替えなくてはならなくなる。
15日夜に自公の幹事長らが協議したものの、話し合いは付かず、平行線のままで終わった。そのため公明党は、16日午前の衆議院予算委員会の理事懇を欠席。一歩も引かないという意地を見せるととともに、最終的には山口代表の口から「閣外に出る」との言葉も出たという。
これには安倍首相もすぐに対処せざるを得ず、午前11時半に麻生太郎副総理兼財務相が太田充主計局長を呼び寄せ、お昼に二階俊博幹事長、林幹雄幹事長代理、岸田文雄政調会長と協議した。中でも注目されたのは、岸田政調会長の存在だ。
ポスト安倍の芽はなくなった?
岸田政調会長は4月3日に官邸で安倍首相に具申し、その後に記者団に「焦点となる個人への現金給付について、一定の水準まで減少した世帯に対し、1世帯30万円支給するべきであるということを申し上げた」と述べている。いわば「減収1世帯30万円支給」の発案者だ。
だが岸田政調会長は16日夜には、「皆様の暮らしを守るために、自民党としても当初から訴えてきた10万円一律給付を前倒しで実施することを総理が決断しました」とTwitterに書き入れ、立場を豹変させた。
問われるスピード感
補正予算は週明けに審議入りしするが、政府与党はできるなら22日に成立させ、5月内に現金を支給したい。しかしきちんと審議するなら、補正予算の成立は5月1日となる予定だ。
「その場合、給付されるのは6月以降になるだろう」
国民民主党の玉木雄一郎代表は給付の遅さを憂慮する。玉木代表が「一律1人当たり現金10万円支給」を提唱したのは3月9日で、永田町で最も早い。
「最も大事なのはスピードだ。だから私は早くから『10万円配れ』と提唱してきた」
さらにコロナ禍が長期化する場合、「景気が回復するまで、一律1人当たり月額3万円ずつ支給」も考えているという玉木代表は、すでに次のステップに進んでいる。果たして政府与党は、追いつけるのか。