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福岡では今「つけ麺」も熱い。人気がリバイバルしたワケを歴史を振り返りながら考察する

上村敏行ラーメンライター
2024年2月デビューの「つけ麺 舎楽」はつけ麺の間口を広げた

時代と共に移り変わり、何周かまわってまたブレイクする。

そのような流行り廃り、いわゆるトレンドは何についてでもあるが、今回は「福岡ラーメン業界の昨今のトレンド」、特に「つけ麺人気のリバイバル」にフォーカスした話をする。こと福岡のラーメンにおいては文化的存在の豚骨ラーメンがどっしりと構える“豚骨王国”で、醤油、塩、味噌、スープOFFなど、時々の旬な非豚骨(豚骨ラーメン以外のジャンル)が台頭するという構図は昔から変わっていない。いかに、博多ラーメンのジャンルレス化が進もうとも、やはり直球豚骨ラーメンは根っ子に刻まれた特別な存在であることは福岡人、広く九州人であれば体感的に納得するだろう。そんな長年繰り広げられている“豚骨vs何々”の中で二郎系や横浜家系が昨今特に強い勢力であることは間違いないが、もう一つ、人気が再燃しているのが「つけ麺」だ。

「2024年、福岡のつけ麺が熱い」と言う理由の第一は、実力派の新店がいくつかオープンし、第2のメニューとして掲げるラーメン店も増えてきたからなのだが、まずは福岡においてのつけ麺の歴史を振り返り、その魅力を深めてみようと思う。

福岡のつけ麺ファンの間では語り草、2008年から2019年まで営業していた「博多元助」のつけ麺
福岡のつけ麺ファンの間では語り草、2008年から2019年まで営業していた「博多元助」のつけ麺

全国のつけ麺の元祖は東京「大勝軒」とされているが、福岡で初めてつけ麺を出したのは、2001年「博多一風堂西通り店」の2階にあった「五行」であったと筆者は記憶している。そして鮨割烹のラーメン部門「五味五感」のつけ麺も同年完成。ここで、触れておかねばならないのが、1980年より福岡市民に愛されている居酒屋「ふとっぱら」の「ラーソーメン」の存在だ。つまり“冷たいラーメンの細麺を冷たいダシにつけて食べるソウルフード級のメニューが根付いていた背景から、温かいダシに、冷水で締めた太麺をつけて食べる関東風のつけ麺には当初、筆者も含め多くの福岡人は違和感を覚えたはず。「麺は冷たくて、ダシは温かい。なんで?  でも、不思議とクセになる」というのが、2001年に筆者が初体験したつけ麺の感想であった。

そして2002〜4年あたりの福岡つけ麺草創期は、前述したつけ汁、麺とも“冷×冷”のラーソーメン、ざるラーメン系と、現在一般的になっている“温×冷”のものを総称して、つけ麺と捉えられるようになる。2002年に広島からやってきた「ばくだん屋」は冷×冷の辛いつけ麺。「麺劇場 玄瑛」の前身である「玄黄」の自家製麺を味わう限定麺「凛麺」もまた冷×冷。2004年、福岡市・平尾の「まるげん」のオープンあたりから、温×冷のつけ麺が少しずつ認知されるようになっていった。そして2008年が、福岡つけ麺の躍進のきっかけとなった年。「博多一幸舎」が手がけるつけ麺専門店「博多元助」がオープンし、キャナルシティ博多のラーメンスタジアムにはつけ麺の巨匠「大勝軒」「六厘舎」が期間限定で登場。さらに、現在も綱場町で人気を誇る「とまと家」がデビューしたのも同年で、スープは温かく、麺は冷水で締めた温×冷のつけ麺こそ本流、さらにスープ割や“あつもり”“ひやもり”、店によっては焼き石もある、という概念が福岡でも広がっていった。「博多元助」は卓上にIHヒーターを備えつけ汁を熱々にキープできるだけでなく、締めにセルフで雑炊を作る楽しみも提案。「元勲」「元蔵」「元桜」など“元シリーズ”を展開していくこととなる。また、2009年には「博多つけ麺秀」でのつけチャンポン、2010年には「博多新風」で「つけめんTETSU」「せたが屋」などを招いた福岡初のつけ麺イベントを開催。そして2011年には「つけめん 咲きまさ」が福岡市渡辺通に開店(2014年に熊本市へ移転)など。

福岡つけ麺界のキングオブキング「兼虎」の原点、福岡市・赤坂にあった時の外観。現在は天神エリアに本店を構える
福岡つけ麺界のキングオブキング「兼虎」の原点、福岡市・赤坂にあった時の外観。現在は天神エリアに本店を構える

さらには2013年、今では超行列店となった「兼虎」がお目見え。その後「古賀一麺庵」「がんつけ」「フジヤマ55」なども続いているが、昨今、つけ麺ブームは比較的落ち着いていた印象を受けていた。

熊本発「つけ麺 魚雷」が2024年1月、福岡に進出。麺は熊本「富貴製麺所」謹製。※「つけ麺魚雷」提供画像
熊本発「つけ麺 魚雷」が2024年1月、福岡に進出。麺は熊本「富貴製麺所」謹製。※「つけ麺魚雷」提供画像

しかし2024年に入り「つけ麺魚雷」(1月)、「つけ麺 舎楽」(2月)が立て続けにオープンし、豚骨、魚介系、醤油、塩ラーメン店でも第2のメニューとしてつけ麺を新たに出す店が増えてきている。「つけ麺魚雷」は熊本からの福岡エリア初出店で、「博多一幸舎」系列の「つけ麺 舎楽」は“ファミリーで楽しめるライトな豚骨魚介つけ麺”を掲げているのが特徴。どちらも新たな客層を取り込み、人気を博している。

なぜにつけ麺人気が再燃? これは筆者の意見だが、特に先の元シリーズが活躍した2008年から2019年の間(代表格の『博多元助』のオープンから閉店まで)に、福岡でつけ麺ファンは確実に増えていて、現に筆者の周りでも、“元助ロス”的な人はたくさんいた。もちろん、2013年から輝きを放ち続ける「兼虎」の存在はあるのだが、ラーメンに比べて店の選択肢があまりに少なすぎるという状況が続いたのだ。そんな潜在的な“つけ麺難民”たちの存在を肌で感じていた作り手、経営側が改めて勝負をかけてきたのが昨今。つけ麺の主流は“豚骨魚介”だが、醤油やスパイシー系など、ベースの味わいの幅も増えてきている。そして、福岡のラーメンが多様化してきた流れの中で、新しい味わいを積極的に試してみたいという食べ手の意識の変化も、つけ麺人気リバイバルの理由にあげられるだろう。

そのほか、作り手にとって麺の自由度が広がってきたことも大きい。九州の製麺所も豚骨ラーメン用の麺だけでなく、太さ、小麦の配合、加水率など細かいオーダーに応えてくれるところが増えてきたことも背景にあるのは間違いない。

どちらかというとコアなラーメンファン、ガッツリ派に支持されるイメージのあったつけ麺。いちファンとして、福岡でもより身近に、自由に、選択肢が増えてきたのは嬉しい限りだ。来福して真っ先に食べたいのは王道の博多ラーメンだろうが、福岡はつけ麺も美味い!ということも覚えていて欲しい。

ラーメンライター

1976年鹿児島市生まれ。株式会社J.9代表取締役。2002年、福岡でライター業を開始。同年九州ウォーカーでの連載「バリうまっ!九州ラーメン最強列伝」を機にラーメンライターとして活躍。各媒体で数々のラーメンページを担当し、これまで1万杯以上完食。取材したラーメン店は3000軒を超える。ラーメン界の店主たちとも親交が深く、ラーメンウォーカー九州百麺人、久留米とんこつラーメン発祥80周年祭広報、福岡ラーメンショー広報、ソフトバンクホークスラーメン祭はじめ食イベント監修、NEXCO西日本グルメコンテストなど審査員も務めてきた。その活躍はイギリス・ガーディアン紙、ドイツのテレビZDFでも紹介

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