王道かつ、ベタじゃない。原点回帰の鹿児島ラーメン「元斗好軒」
いま、「鹿児島ラーメン」が沸いている。
今年2月に行われた「鹿児島ラーメン王決定戦」では3日間で約18万人を集客し、計7万8,000杯を販売。全国の麺イベントの中でも大成功と言える、この数字の高さからも鹿児島県民のラーメン熱が分かるだろう。豚骨王国・九州本土南端のご当地麺「鹿児島ラーメン」は1947年創業の「のぼる屋」(現在は閉店)を原点に九州で唯一、久留米ラーメンの影響を受けずに進化してきたジャンルだ。豚骨&鶏ガラのライトな肉系スープ、卵白も練り込まれた中太麺、黒糖などを用い甘く濃厚に味付けされたチャーシュー、モヤシなどの野菜、さらには大根の千枚漬けなど漬物が出されることなどが一般的な特徴である。「鹿児島ラーメン」も昨今、他エリアのご当地麺処と同じく、ボーダーレス化が加速。そして、新味が続々と登場する激流の中で、改めて存在感が増しているのが、やはり王道をゆく味わい。流行り廃りのない“THE・鹿児島ラーメン”というべき一杯だ。
「らーめん食堂 元斗好軒」(げんとこうけん)は、そんなオールドスタイルの鹿児島ラーメンを出す一店。場所は鹿児島市・山下町。繁華街・天文館からも徒歩圏内で、観光客も利用しやすい場所にある。
創業は2007年。店主の前田真宏さんが30歳の時に開業した。齢半世紀をゆうに超える老舗も多く残っている鹿児島ラーメンの中で、現在の「元斗好軒」はいわば“中堅どころ”の位置付けであるが、店主が若かりし時に、王道の鹿児島ラーメン一本に美学を見出した点が興味深い。そして何より、足を伸ばしてでも、絶対に!食べる価値のある、“わっぜうまか”(むちゃくちゃうまい)鹿児島ラーメンである。
1977年鹿児島市生まれの前田真宏さんは20代の半ば、鹿児島・天文館のカフェで働いていた。ラーメン道へ入門するきっかけになったのは、その店に決まってコーヒーを飲みに訪れていた近くのラーメン店「こむらさき」の店主。同店は、先に紹介した「のぼる屋」と並び、鹿児島ラーメンといえばの文化遺産級の名店である。
「常連さんであった『こむらさき』の社長にお声がけいただき、『ラーメンの経験はないけれど、やってみようかな』と、軽い気持ちで始めました。当時は自分のやりたい事が明確には定まっていませんでしたから。けれど今振り返ると『こむらさき』で修業させてもらえたのは本当にありがたく、ラッキーでしたね。鹿児島を代表する人気店につき、入店時からとんでもない忙しさでしたし、新店舗の出店も控えていた時期。製法、接客、心構えすべての面で鍛えられ、奥深いラーメンの世界へと一気にハマっていきました」と師匠への感謝を込めて話す前田さん。
約5年間の濃密な修業を経て、自身の店「元斗好軒」を2007年に開業した。
「元斗好軒」の一杯は修業先である「こむらさき」の製法を一部踏襲しながらも、前田さん自身が幼少時から親しんできた、さまざまな古き良き鹿児島ラーメンのイメージを落とし込んだもの。また異なる味わいのラーメンである。
スープは大きく、豚、鶏を1:1の割合で使用した肉系。白湯、清湯の中間を行くような半濁具合で、豚骨、豚足、鶏ガラ、鶏の手羽元が主な素材となっている。
「骨という表現より“骨のついている肉”とか“スペアリブ”といった方が良いかもしれません。髄からだけでなく、肉そのもののうまみ、そして黒豚豚足のコラーゲンも染み出しているのがウチのスープ。白濁させすぎないように各素材の特性を見極めながら時間差で鍋に投入。また、アクはきれいに取り除くのではなく、適度に残してさりげない力強さを出すのもこだわっている点です」と前田さん。
麺は鹿児島市の老舗「浜田製麺所」。鹿児島ラーメンの麺は中太の太さだけでなく、表面の光沢、ツルシコ感も特徴であるが、これは主に卵白が練り込まれていることに由来している。チャーシューは、鹿児島県産醤油と黒糖などで煮込まれていて、甘く、濃厚。ラーメンのあっさりとしたスープにチャーシューの旨味も染み出し美味。ネギ油の香ばしさ、モヤシのシャッキシャッキ、シャコシャコした楽しい食感と共に、口福に包まれる。
天文館エリアで王道をゆく鹿児島ラーメンが楽しめるのは、この「元斗好軒」のほかにも「ラーメン鷹」「くろいわ」「ふくまん」など。そのほか、ラーメンの印象はまた異なるが「小金太」や「のり一」なども“鹿児島ラーメンといえば”の存在となっている。鹿児島啜り旅の第一歩は、これらTHE・鹿児島ラーメンから始めてほしい。
【らーめん食堂 元斗好軒】(げんとこうけん)
住所:鹿児島市山下町8-6
電話:099-227-5705
営業時間:11:00〜15:30
休み:日、月曜
席数:9席(カウンターのみ)
駐車場:なし(近隣パーキング割引サービスあり)