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レジェンド羽生善治九段(51)王将戦リーグ白星スタート! 絶好調の新鋭・服部慎一郎四段(23)を降す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月19日。東京・将棋会館において第72期ALSOK杯王将戦・挑戦者決定リーグ▲羽生善治九段(51歳)-△服部慎一郎四段(23歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は16時58分に終局。結果は79手で羽生九段の勝ちとなりました。

 王将位通算12期を誇る羽生九段。久々の七番勝負登場に向けて、幸先よく開幕戦を制しました。

羽生九段、辛抱を実らせ勝利

 羽生九段先手で、戦型は相掛かり。後手の服部四段は飛車のはたらきで羽生陣の歩を2枚取ります。両者ともに途中までは予定通りで、前例のある進行となりました。

 羽生九段は相手が端(9筋)に跳ねた桂を目標に攻めていきます。

羽生「予定の作戦だったんですけど、攻めさせられる形になってしまって。つまんない展開になってしまったと思いました」「端で桂を取りにいって。桂を取ってみたものの、あんまり。ちょっとそうですね、自信のない展開になってしまいました」

 観戦者の目には、羽生九段苦戦を思わせる中盤戦となりました。一方で服部四段もそれほど自信はなかったようです。

服部「こっちも桂馬を取られるので、けっこう難しいとは思ってました」

 両者ともに相手玉の側面から防壁を突き崩していく進行。難しいながらも、攻めが早いのは服部四段の側にも見えました。

羽生「けっこう悲観して指してました」

服部「(58手目、銀取りに)△3七香と打ったあたりは、▲8一歩成が間に合う前に、その間に攻めることができたな、とは思ったんですが」

 62手目。服部四段は持駒の銀を羽生陣に打ち込みます。迫力のある攻め方ですが、これが重い手で、駒が渋滞してしまったようです。

 羽生九段はひらりと飛車を浮きます。これが相手の馬(成角)取りで、自玉の逃げ道を広げる一石二鳥以上の好手でした。

服部「△3七銀と打った手が相当ひどい手だったと思います。▲8六飛車(と中段に)浮かれてしまって、馬取りが味のいい受け方がわからなかったので。△3七銀の一手でダメにしたっていうか。(▲8六飛は)盲点に入ってしまってました」

 羽生九段は相手の馬を追いながらポイントをあげ、相手に金を取らせて手を稼ぎ、棋勢を好転させました。

羽生「▲8一歩成が回ってきて、こちらも攻める形になったんで」「ずっとそれまでは、とにかく(▲8一歩成が)回ってくるまでは、ひたすら辛抱で」

 羽生九段に攻めのターンが移ると、服部陣の金銀銀の防壁は見る間に突破されていきます。

 79手目。羽生九段は中段に桂を打ち、服部玉に詰めろをかけました。攻防ともに見込みのなくなった服部四段。3分弱考えて次の手を指さず、そこで投了を告げています。

 持ち時間4時間のうち、残りは羽生51分、服部55分。比較的早い終局で、本局が終わって少ししたあと、17時に防災無線で流れる「夕焼け小焼け」のメロディーが聞こえてきました。

羽生「作戦的にかなり問題があって、反省材料も多い一局でした」

 局後、羽生九段からはそんな言葉も聞かれました。しかし結果としては勢いに乗る新鋭を降し、幸先のよい白星スタート。久々のタイトル戦登場に堂々たる一歩を踏み出した形となりました。今年度勝率は7割台をキープしています。

服部「今日はのびのび指そうと思ったんですけど、最後△3七銀でひどいうっかりがあって。もうちょっと熱戦にしたかったです」

 服部四段も当然まだまだ、挑戦のチャンスは残されています。リーグの相手はすべて上位者ですが、変わらずのびのび指して、旋風を期待したいところです。今年度成績は依然、対局数、勝数、連勝部門でトップです。

 激熱の王将戦リーグ。次は9月21日に△永瀬拓矢王座-▲糸谷哲郎八段戦がおこなわれます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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