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財産保全できない与党法案では、旧統一教会の持つ億単位の国内資産がすべて海外に流れる最悪のシナリオも

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影

今、まさに旧統一教会の被害者を救済するための法案について、与野党双方から法案が提出されて協議がなされています。

11月29日全国統一教会被害対策弁護団は、旧統一教会による被害者救済に向けた与野党の法案について、351名の連名で声明を出しました。

司法記者クラブで行われた会見からみえてくるのは、28年前にオウム真理教事件で起きた財産散逸を再び許してしまう法案になるのか、それを絶対に阻止させる法案になるのかの分岐点を迎えています。

被害者救済の法整備は国会自身の責務

村越進弁護団長は声明で「被害者救済は長年にわたり、旧統一教会による違法行為とその被害を放置してきた社会全体の責務」であり、「多くの国会議員が旧統一教会と関係を有してきた事実は無視できないもので、被害者救済の法整備は国会自身の責務でもある」と話しています。

自由民主党、公明党、国民民主党からの与野党案と、立憲民主党に日本維新の会からの法案について「両案は必ずしも排斥し合うものではなく、両案の積極面を生かして」「全会一致で法律を制定していただくことを希望する」としています。
弁護団としては、立憲・維新案の「財産保全の特別措置法により、少なくとも旧統一教会の財産を一定の範囲限度において保全することが必要」と考えていて、与党案における「被害者に民事保全手続を委ねることは、被害者にとって過大な負担となり余りにも酷です。被害者が高額な担保金を用意できるはずもなく、不可能を強いる」としています。

「民事保全法での対応は、実効性が乏しい」の指摘

阿部克臣弁護士は「民事保全法での対応は、実際上難しく、実効性が乏しい」と指摘します。「あくまでも民事保全法で仮差押えできるのは、特定の財産のみであり、それ以外の財産は自由に処分できてしまう」としています。

「現在、統一教会の資産が推定で1千億円くらいあるというふうに言われていますが、仮に被害者が10億円の財産を仮差押えをしたとしても(教団は残りの)990億円を処分できるということになり、海外に送金されたり、国内で関連会社や信者名義が移転されたり、現金が散逸する可能性が高くなる」としています。

しかも、仮差押えのためには、被害者の側で担保金(目的物の価額の15%から30%が相場)を準備しなければなりません。

「仮に、渋谷の統一教会の本部を仮差押さえをしたとしても、マスコミ報道では約7~8億円とか言われていますから、1億1400万円とか2億2800万円の金額を裁判所に預けなければならない可能性が高い」(阿部弁護士)

仮差押えは1人で行うわけですから、これだけの金額を根こそぎお金を奪われた被害者が用意できるはずもなく、被害者の負担は極めて大きいといわざるをえません。

弁護団からの提案も

立憲・維新の包括的な財産保全法案について、与党から「信教の自由への抵触や、具体的にどのような処分ができるのか等が条文上明確でないため、裁判所が決定をだせず、実効性にかけるのではないかとの懸念の声があがっている」との点について、弁護団は次のような提案をします。

「管理人の権限を明確化したり、管理の対象を重要な財産処分行為(海外送金・不動産の処分等)に限定したり、管理の対象から日常的な財産処分行為を外したり、保全の範囲を一定額、または一定割合に限定したりする」「所轄庁が財産状況についての報告を求め、必要に応じて裁判所が専任した調査委員(仮称)に財産状況を報告させて、財産散逸の恐れが認められた場合には、裁判所がさらに監督委員(仮称)を専任し、重要な財産処分行為に監督委員の同意を求めるとして、それでも実効性がない場合には、財産保全を求める、というような段階的な仕組みにする」

こうした点を加味しながら「実効性ある、被害の救済のための財産保全の特別措置法をぜひとも成立」を訴えます。

オウム真理教事件の時と、同じ過ちを繰り返してはならない

阿部弁護士は「1995年のオウム真理教が解散請求された時にも、財産保全の規定が議論の対象になったのですけれども、結局見送られてしまいます。1995年の3月に地下鉄サリン事件が起きて、6月に東京都などが解散命令請求を行い、12月にその決定が出て、12月に財産凍結されて財産散逸を教団側ができなくなりますが、この間の4ヶ月余りで多数の現金が散逸し、全国の不動産が関連会社などに名義が移転されていました。当時としても資産隠しが行われましたから、統一教会の場合も資産が隠される恐れが高いと思いますので、財産保全の特別措置法は必要なものだと思います」と話します。

紀藤正樹弁護士は「1995年10月15日に松本サリン遺族有志により出された声明は、今の統一教会の状況とほとんど変わらない」と話します。

筆者撮影・全国統一教会被害対策弁護団の資料より
筆者撮影・全国統一教会被害対策弁護団の資料より

「声明の1枚目の冒頭に『教団が自らの非を認め謝罪する気があるなら、私ども、遺族や他の多くの被害者に賠償すべきです』としていますし、最後の段落に『今回の一連のオウム真理教の事件が、関係諸機関の適切な法の執行が遅れたことにより発生したことに鑑み、今回のオウム真理教の動きについても捜査機関や所轄行政庁が厳正に対処されることを求めます』としています。今回の(弁護団の)声明とほとんど変わらない内容になっている」として「1995年当時、財産保全手続の議論がされたにもかかわらず、結果的にこの28年間放置されている。財産隠しの懸念が生じている中で、与野党の英知を結集して法案を作っていただきたい」と話します。

「オウム真理教よりも被害回復が難しくなる背景がある」の指摘も

日弁連消費者問題対策委員会の委員長でもある大迫惠美子弁護士は「財産保全というのは非常に重要な問題です。私どもが消費者問題として取り扱ってきた、ジャパンライフのような大型の消費者被害の場合でも、団体に規制をかけて、最終的に解決するまでのタイムラグ、この間の財産保全がその後の被害の回収、回復に極めて大きな影響を与えるわけです。ところがこの宗教法人の解散命令に関しては、財産保全の制度が組み込まれていない。これは急いでやらなければ大変な問題になる」と話します。

「一番懸念しているのは、オウム真理教の場合、ほとんどが日本国内だったわけですが、統一教会は国内にとどまらず、韓国に本部があり、アメリカにも大きな団体があり、そういったところへの財産流出があると、オウム真理教よりも被害回復が難しくなる背景がある」と大変な危惧を話します。

28年前の失敗を繰り返してはならない

オウム真理教の解散命令請求の時に起こった、財産散逸の再来が危惧されていますが、旧統一教会の財産状況はオウム真理教などとは比にならないほどの資産を有しており、28年前の失敗を繰り返してはならない状況です。

しかしながら、与党は、財産保全を行う形の野党案に歩み寄らず、との報道がなされており、非常に切羽詰まった状況となっています。

このままでは、日本にある教団のお金が海外にすべて送金されるという、最悪のシナリオを日本国民にもたらすことになりかねません。

今、文化庁の解散請求命令に対して、全面的に旧統一教会は抗う姿勢を見せています。こうした状況のなか、文化庁の指摘する「財産利得目的」のこれまでの手法を教団が改めるとは考えられません。

財産保全が十分にできない被害救済法となれば、今後も教団の被害の拡大を許すことになります。それだけは避けなければなりません。被害救済を長年行ってきた弁護士らの言葉、被害者の声を聞かない法案にだけには、絶対にしてはなりません。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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