「西武・清原」のポスターはなぜ、都内のバス通りのガラス窓に貼られ続けているのか?
街には数多くのポスターが貼られている。それらは政治家や防災週間といった公共的なものや、コンサート、イベント、商品の宣伝など多岐にわたる。その多くが時期的な役割を過ぎるか、ポスター自体が劣化すれば姿を消していく。
しかし東京・初台(渋谷区本町)の水道道路と呼ばれるバス通りに面したガラス窓には、明らかに最近のものではないポスターが貼られ続けていた。それは西武ライオンズに在籍していた、若き日の清原和博選手のポスターだ。
巨人移籍後に軽い気持ちで…
その場所は楽器機材のレンタルや修理を行う、音楽業界では名が通った業者の機材置き場だった。尋ねるとポスターを貼ったのはギターが専門の小竹(こだけ)辰夫さん(55)だとわかった。
「なぜここにこのポスターがあったのか、誰かが持ってきたのかわからないんです。野球は大好きですが、西武ファンというわけでもありません。いつ貼ったのかもはっきりはしていませんが、2000年代に入ってからなのは間違いないので、15年以上は経つと思います」
筆者がこのポスターを初めて見たのは、新宿駅西口から中野駅に向かうバス車中からだった。おそらく十数年前だ。「Googleストリートビュー」を確認すると、最も古い2009年12月の撮影時点で「清原選手」の姿が確認できた。
しかし清原選手が西武に在籍していたのは1996年まで。小竹さんは清原選手が巨人に移籍していることを知りながら、西武・清原のポスターを貼ったことになる。
「ポスターを見つけた時にレア感があったのと、会社の名前にかけてわかる人にはわかるからとシャレで貼ったんです」
この会社の名前は『レオミュージック』という。
人をひきつける地元の顔に
「立ち止まって、『おっ!』と言って見る人も結構います」
小竹さんはポスターに反応する人の姿を何度も見かけたという。
近隣の不動産会社に勤める地元出身の30代の男性は「成人してからずっと貼ってあるので、17年は経つのではないか。みんな『どうして清原なのか』と気になっていると思う」と話した。
また近くの洋食店、キッチンキクヤで生ビールが入ったグラスを手にしていた常連客の女性もポスターのことを知っていた。そのお姉様は「レオだからライオンズでしょ?トラックにも書いてあるじゃない」と小竹さんの狙いがわかっていた。「初台の清原」は知る人ぞ知る、地元の顔だった。
姿を消した1年間
しかしそのポスターはこの1年程、姿を消していた。もしやあの事件が影響したのだろうか。小竹さんはポスターを外した理由をこう説明した。
「ポスターを貼ったところのガラスに物がぶつかって修理しました。その時に剥がして以来、ただそのままにしていたんです」
今年5月撮影のストリートビューを見るとポスターは窓に貼られず、90度回転した縦向きになってダンボールの間に挟まれていた。清原選手の顔は隠れ、胸の「Lions」の文字だけが外側に向いていた。
しかし小竹さんは今回の取材をきっかけに「一人でも喜ぶ人がいるんだから」とポスターを貼り直した。レオの清原は再びバス通りに向かってほほ笑んでいる。
現在、ガラスに貼られているポスターは清原選手とラウドネスの3年前のアルバムの2枚のみ。数々のポスターが入れ替わる中で、清原選手のポスターだけは残されてきた。
「これまで大掃除の時に『どうします?』と周りに聞かれながら何度も剥がそうとしたんですが、みんな私に気を遣ってくれてそのまま貼ってくれていました」(小竹さん)
清原の強い存在感はGt.Vo
小竹さんに「もし清原選手がバンドマンだったら、どのパートが似合うか」と尋ねた。小竹さんは「そんなこと考えたこともない」と苦笑しながら、「ボーカルは桑田(真澄氏)でしょう。清原は歌も歌う、前に出るタイプのギタリストじゃないですかね」と答えた。人をひきつける強い魅力は小竹さんの中で大物アーティストの姿と重なった。
ちょっとしたきっかけから貼られることになった清原選手のポスター。色彩は失われ日焼けによって色あせても、20年近く、街の顔として存在感を放ち続けている。