大谷翔平をサポートするウィル・アイアトン氏は二番セカンドだった
今季の開幕直後に起きた大谷翔平の周辺でのアクシデントは、捜査も進んで新たな事実が明らかになっている。そんな中、一躍スポットライトを浴びたのがロサンゼルス・ドジャース球団職員のウィリアム・オーグスティン・アイアトン氏だ。
1988年の東京で、日系2世の父親とフィリピン人の母親の間に生まれたアイアトン氏は、中学までを日本で過ごしたあと渡米し、メジャー・リーグ球団でのインターンなどを経て、2016年にドジャースと契約した前田健太(現デトロイト・タイガース)の通訳として採用される。2019年から取り組んだデータ分析でも高い手腕を発揮し、現在は大谷をサポートしている。
球団職員としての能力の高さをはじめ、礼儀正しく、物腰の柔らかさで誰からも親しまれる存在。そんなアイアトン氏の仕事ぶりは「プレーヤーとしての経験が生きている」と言われるが、178cm・75kgのアイアトン氏はどんな選手だったのだろう。
大学を卒業した2012年、アイアトン氏はフィリピン代表のトライアウトに合格。11月15日から4日間、台湾の新荘棒球場で実施された第3回ワールド・ベースボール・クラシックの予選3組に臨む。8対2でタイに快勝した一回戦では出番がなく、チャイニーズ・タイペイに0対16と完敗だった二回戦では代打起用されるも凡退。ちなみに、この試合は中日の小川龍也(母親がフィリピン人で代表入り)が先発している。そして、6対10でニュージーランドに敗れた敗者復活二回戦でも出番はなかった。
アイアトン氏は予選後もチームに残り、11月28日から同じ台湾の台中市で開催された第26回アジア野球選手権大会に出場。そこで、歴史に残る経験をする。この大会はホストのチャイニーズ・タイペイをはじめ、日本、韓国、中国、フィリピン、パキスタンがエントリー。1回総当たりのリーグ戦に5連勝した日本が優勝した。JR東日本の田中広輔(現・広島)や富士大3年の山川穂高(現・福岡ソフトバンク)らアマチュアで編成した日本は、プロを擁するチャイニーズ・タイペイと韓国を倒して話題となったが、5試合の中で最も苦戦したのがフィリピン戦だった。
第1戦は早稲田大1年だった吉永健太朗(元・JR東日本)の好リリーフでチャイニーズ・タイペイに2対1、第2戦では九州共立大3年の大瀬良大地(現・広島)が9連続奪三振の快投などでパキスタンに13対0と連勝した日本は、フィリピンとの第3戦を迎える。国立台湾体育運動大球場で午後2時開始の予定も、朝から雨が降りやまず、学生たちが懸命にグラウンドの水抜きを続ける。ようやく小雨になった午後5時にプレイボールされると、日本の打線はすっかり湿ってしまう。
対するフィリピンは、韓国に3対6、チャイニーズ・タイペイには1対12で連敗していたが、日本人の板倉国文監督の下で投打に堅実なプレーを見せており、アイアトン氏は二番セカンドでキーマンとなっていた。この試合、バットでは二ゴロ併殺、三振、投ゴロの3打数無安打だったものの、守りでは水を含んだ人工芝でスリップするゴロを確実にさばき、スコアレスの展開に貢献する。果たして、日本が何とか6回裏に1点を先制すると、フィリピンが7回表の攻撃を終え、試合が成立したところでコールドゲーム。日本が1対0で辛勝し、フィリピンの健闘も大いに称えられた。
翌2013年限りで現役を引退したアイアトン氏は、フィリピン代表のフロントを皮切りに、球団スタッフとして選手のサポートを続けている。データ分析の面でも大きな力になり、調子を上げてきた大谷が打者に専念するシーズンも目立つ数字をマークすれば、アイアトン氏の評価もさらに高くなるはず。大谷が躍動する舞台裏での、アイアトン氏の活躍にも期待したい。