草むらに潜んで人やペットを狙う? 吸血「マダニ」から身を守る方法
「マダニ」という虫の名前、聞いたことはありますか? ダニと付いているので、文字通りダニの一種ですが、以前に紹介した家の中にいるダニと違い、野外に生息している大型のダニで、動物や人に寄生して吸血します。刺されることによって、皮膚炎を起こすだけでなく、さまざまな感染症が媒介されることがあります。感染症にかからないためには「刺されない」ということがいちばん大切です。今回は、マダニの生態と刺されないようにする対策をお教えします。
どんな場所に生息しているの?
マダニは、吸血源であるシカやイノシシなど野生生物が出る環境に多く生息しているのですが、民家の裏庭や裏山、畑など身近なところにも生息しています。実際、この4月に近くの道路脇の草むらでマダニを探したところ、葉っぱの裏にマダニがいました。また、土に産卵しているマダニの成虫も見つけました。そんなに山の中ではない草むらにもマダニは生息しています。
マダニの一生
マダニは春と夏~秋に産卵し、ふ化後は幼虫→若虫(わかむし)→成虫の3つのステージで1回ずつ吸血します。
幼虫はネズミなどの小型ほ乳類に寄生して約3日間、若虫はウサギなどの中型ほ乳類や鳥類に寄生して約1週間吸血し、それぞれ満腹(飽血<ほうけつ>と言います)になると地面に落下して脱皮します。成虫になるとシカやイノシシなどの大型ほ乳類に寄生して約1~2週間吸血し、何千という卵を土に産み付け最期を迎えます。
これがマダニの一生です。大きさ約3mmの成虫なら吸血によって1cm程度に膨れ上がり、吸血前の幼虫と比べ体重は4,000倍以上にもなります。
どんな時に刺されるの?
マダニは草むらなどに潜んで、吸血できる動物や人を待っています。視力としては、暗いか明るいかぐらいしかわからないようですが、前脚2本が触角の役割をしていて、空気中の二酸化炭素を探知できます。動物や人が近づくと、呼気を感知し、草の先に移動し、動物や人に素早く乗り移ります。そして、何日間も吸血するので、落ち着いて吸血できるところを探すために這いまわり、いい場所を見つけると口器を皮膚に刺し吸血します。
マダニに刺されても痛くない
マダニに刺されても自覚症状がほとんどなく、気付かないことがほとんどのようです。犬を飼っている方なら、満腹して大きくなったマダニが犬の顔周りに付いているのを見たことがあるかもしれません。吸血前は3mm程度で小さかったものが、吸血して1cm程度になってようやく気付くことがあります。ペットも痛くないので、気付いてないのでしょう。人も同じです。最初は小さいので気付かず、ある程度大きくなって初めて気づくという場合が多いようです。
マダニは感染症を媒介します
マダニは、日本紅斑熱、Q熱、ライム病などさまざまな感染症を媒介します。中でもSFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、2011年に中国の研究者から報告された新興感染症です。日本では2013年に初めてSFTS患者が出て以来、毎年10名程度の方が亡くなっています。また、犬や猫もSFTSに感染し、感染した犬や猫から人に感染した例も報告されています(※)。
マダニから身を守る方法
感染症から身を守るには、「刺されない」ことがいちばん大切です。マダニに刺されないよう、山や草むらなど野外へ行くときは、長袖、長ズボンを着用し、首にはタオルなどを巻いて肌の露出をできるだけ少なくしてください。マダニは衣服に付いて、首筋や足元の隙間から入ってくることがあります。そのような場所には市販の虫よけ剤を使用すると効果的です。購入の際は適応害虫にマダニが記載されているかを確かめてください。また、汗などで流れるので、汗をかいたら塗り直しをしてください。その時は日焼け止めの後に塗らないと効果が半減しますので塗る順番には注意が必要です。
外から家に帰った時には衣服や持ち物にマダニが付いていないかどうかを確認してください。万が一、すでにマダニに刺されていても自覚症状がほとんどないので、身体に付いてないかどうかをチェックしてください。ペットを連れていた場合はペットも見てあげてください。マダニを見つけて刺されている場合は、無理に取り除こうとすると、ちぎれた口器が皮膚の中に残る可能性が高いので医療機関に行くことをお勧めします。
最後に…
虫のことを嫌いな方は多いかとは思います。私も元々は虫が嫌いでした。家の中に虫が出ると家族を呼んでいたタイプです。でもこの仕事に就いてから、虫のことを詳しく知ることができて、きちんと対処ができるようになりました。
これから夏に向かってキャンプなどで野外へ出かけることが多い季節になってきます。自分の身を守るためには、「嫌い」と思うだけではなく、虫の生態を知って正しい対処をしていただきたいと願います。