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二人三脚で掴んだ金メダル 乾友紀子は福岡で再び世界の頂点へ

田坂友暁スポーツライター・エディター
恩師の井村コーチと二人三脚で歩んできた 写真:高須力

 2009年から日本代表として活躍し、長く日本アーティスティックスイミングを牽引してきた乾友紀子。前回の世界水泳ソロで得意な足技と表現力を生かし、歴史上初となるソロで世界の頂点に立った。今大会では2大会連続金獲得の偉業を狙う。

史上初の偉業となった

世界水泳ソロ2冠

 ハンガリー・ブダペストの青い空の下、日本の鳳凰が世界を席巻した。

「心から憧れていた金メダルを首から提げていて、今その重みを感じています。とてもうれしいです」

  2022年世界水泳ブダペストのアーティスティックスイミング(以下AS)ソロテクニカルでライバルたちを蹴散らし、日本AS史上初となる金メダルを獲得した乾友紀子はそう話した。

写真:森田直樹/アフロスポーツ

 乾は2009年に代表入りを果たして以来、チームの要として常に全ての種目に出場してきた。2011年の世界水泳上海からはソロにも出場しており、2019年の世界水泳光州では乾1人で10種目に出場。それだけの数の振り付けと練習をこなさなければならないその負担たるや、想像を絶するものがあった。しかし、五輪はデュエットとチームしか行われない。五輪でメダルを狙うには、チーム種目に出ざるを得なかったのだ。

 東京五輪を終わったあとに乾は幼少期にその才能を見いだしてくれた恩師である井村雅代コーチに「もう、五輪でやることはやりきりました。今度は、自分1人で世界に評価されたい。結果が良くても、悪くても、私1人で評価をされたいんです」と伝えた。

 デュエットやチームはもちろん、ソロでも世界で活躍できる逸材であると手塩にかけて育ててきた井村コーチだからこそ、乾のこの言葉は心に響いたという。

「乾の決意が生半可なものではないことはすぐに分かったので、それなら私もその挑戦に乗ろう、と思いました。挑戦する場所がある私は、なんて幸せなコーチなんだろうって思います」(井村コーチ)

最高のパフォーマンスを

多くの人に届けたい

「今までは世界水泳でメダルが獲りたいとか、五輪でメダルが獲りたいという感じでした。でも、今回の世界水泳は、福岡で開催されるということ自体が、私の大きなモチベーションになっているんです」(乾)

 乾は2001年の世界水泳で、立花美哉、武田美保のデュエットが金メダルを獲得した姿を鮮明に覚えている。このふたりの姿に憧れて、乾はASの世界に足を踏み入れた。

「ふたりのフリールーティンの演技はすごく憧れで、小さいときにマネをしてやっていたのをすごく覚えています」(乾)

 乾がそうだったように、次世代の選手たちに自分の演技を観てもらい、自分と同じようにASを頑張ろうと思ってくれる選手がひとりでも増えたらうれしい、と話す。前回大会で世界一に輝きながらも、もう一度世界の頂点を目指すモチベーションは、ここにある。

「自分の演技の中では難易度とか表現力とか目指すものはあるんですけど、やっぱりたくさんの人に見てもらいたいなっていう思いがいちばん強いんです。なので、私の最高のパフォーマンスをたくさんの方に観てもらいたいです」(乾)

写真:高須力
写真:高須力

 今大会では、テクニカルルーティンの演目を変更。「水のゆくえ」がテーマだ。

「一滴の水が地上に落ちて川になり、海になって広がっていくという水の流れを表現する演目です。そこに、自分が水に出会って今に至る水泳人生を重ね合わせて表現できるようにしたいです。フリールーティンは変わらず『大蛇』がテーマ。間が途切れず動き続ける激しい演技が見どころなので、ぜひ観客の皆さんに観てもらいたいですね」(乾)

 新ルールへの戸惑いはあるが、それも井村コーチとなら乗り越えられると信じている。二人三脚で、再び世界の頂点へ。

世界水泳福岡2023ガイドブックで担当執筆した原稿の抜粋、加筆修正版です。記事の全文、そのほか世界水泳情報は本誌でさらにお楽しみいただけます

スポーツライター・エディター

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かして、水泳を中心に健康や栄養などの身体をテーマに、幅広く取材・執筆を行っている。

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