Yahoo!ニュース

「住民の声聞かず廃線推進」北海道行政の大問題 「地域の知恵結集で地方創生」石破首相所信表明で浮き彫り

鉄道乗蔵鉄道ライター
衆議院本会議で所信表明する石破首相(写真:首相官邸)

 石破茂氏が第102代内閣総理大臣に就任してから2週間余りが経過した。石破氏は10月4日に衆議院本会議で行った所信表明演説で、「地方こそ成長の主役」として、これまでの成果と反省を活かし地方創生2.0を再起動することを表明している。そして、地域交通は地方創生の基盤であるとされ、これを実現するための重要なポイントが地域のあらゆる関係者が知恵を結集し地域の可能性を最大限に引き出すことが重要とされた。

 しかし、北海道にいたっては、こうした首相の所信表明とは対極の状況に置かれている。例えば、現北海道知事の鈴木直道氏が夕張市長時代に「攻めの廃線」を行った夕張市は、地方創生とは程遠い状況に置かれている。鉄道が廃止になっただけではなく、旧夕張駅前にあったホテルマウントレースイや市内中心部にあったホテルシューパロは2019年の石勝線夕張支線の廃線後に運営会社が倒産。現在まで営業が再開される気配はない。さらに、便利になったはずのバス路線網も廃止が進み、2023年10月1日には夕鉄バスの夕張と札幌を結ぶ路線バスが廃止に。さらに2024年10月1日には北海道中央バスも夕張から撤退し、札幌を結ぶ高速ゆうばり号のほか岩見沢を結ぶ路線バスも廃止となり、夕張と市外を結ぶ路線バスが全廃された。

道庁主導の密室協議が全てを決める

 このような知事が指揮を執る北海道行政であるが、北海道新幹線の並行在来線問題を始めとした昨今の鉄道の存廃問題では、北海道庁が主導する密室の協議会が全ての方向性を決めることから、地方創生に対する首相の所信表明とは真逆の対応を取り続けている。そして、こうした北海道の政策姿勢が問題を生み北海道の交通崩壊や物流危機が表面化している。

 まず、北海道新幹線の札幌延伸にともなってJR北海道から経営が分離される函館―長万部―小樽間のうち長万部―小樽間については、2022年3月に北海道庁が主導する密室の協議会で廃止の方針を決めてしまった。この協議会では、住民の声を聞かなかったばかりか地元のバス会社も呼ばれておらず、このとき筆者が沿線の余市町関係者からは「小樽市に本社を置く北海道中央バスが激怒しているようだ」という話を聞いている。

 そうした話を裏付けるかのように、その後の協議は難航。2024年8月に開催された協議会では初めて地元のバス会社が呼ばれたが、バスドライバー不足で減便を進めている中で、鉄道と同程度の輸送力をバスで代替するのは一様に困難であるという見通しを示した。なお、このうち余市―小樽間については輸送密度が2000人を超えていることもあり、本来であれば廃止の対象とはならない区間である。

 こうした状況に対して、北海道交通政策局の小林達也並行在来線担当課長が、2024年5月5日にBSフジで全国放送されたサンデ―ドキュメンタリー「今こそ鉄路を活かせ!地方創生への再出発」の中でインタビューに応じており、「鉄道の廃止は道庁が決めたのではなくみんなで決めた」という趣旨の発言をしている。しかし、協議会の中身は財政規模が脆弱な自治体が多い中で、鉄道維持のためにはそれらの自治体の財政規模を上回る負担を道側が求めるといったもので、小林課長の「みんなで決めた」という主張にはかなり無理があり、実際には道側が沿線自治体が飲めない条件を押し付けて鉄道廃止の同意を取り付けたということが実態である。

 北海道新幹線の並行在来線問題では、協議会での決定通りに鉄道の廃線を実行してしまえば、沿線には鉄道もバスもないという事態になりかねない。さらに、鉄道もバスもないということになれば、倶知安などの新幹線新駅からの2次交通の確保も難しくなり、新幹線の経済効果を沿線に波及させることはより困難となりかねない。

根室本線の分断廃止で物流危機も

 さらにこの3月31日限りで廃止された根室本線の富良野―新得間については、沿線自治体からの災害時の代替ルートや観光列車などの新たな観光ルートとしての可能性から存続を求める声もあった。しかし、密室協議の中では途中から鉄道廃止の影響が直接の沿線に限った矮小的な議論にすり替えられて廃線に追い込まれたという指摘も存在し、道庁幹部も根室本線の廃止については積極的に関わっている。

 根室本線の分断廃止については、2016年の台風により東鹿越―新得間が被災し不通となったことも要因であるが、この時、国会では全国の赤字ローカル線を激甚災害から救おうと鉄道の災害復旧を行うにあたって鉄道会社に対する公的な補助率を引き上げようという議論が進んでいた。しかし、北海道庁の担当部長はこのとき衆議院議員会館に法改正を進めようとしていた国会議員にクレームを付けに乗り込んでいる。そして、その改正内容について苦言を呈し「道で策定している計画内容に変更が生じ負担額が増えるようなことがあっては困る」と主張したという。

 根室本線の富良野―新得間については、石勝線が災害で被災した際に札幌方面と帯広・釧路方面を結ぶ代替ルートとして活用できる可能性があるルートであった。しかし、その路線を廃止してしまったことにより、この8月31日に石勝線が豪雨被害を受け4日間に渡って運休した際には、特急列車の代行バスは運行されず、貨物列車のトラック代行輸送も一部でしか行えなかったという事態が明らかとなった。この時期は、北海道十勝地方ではジャガイモの収穫期を迎えていた。

 北海道の政策姿勢は、「地域の知恵を結集し地方創生」をすべしとする首相の所信表明とは対極にある。「住民の声聞かず鉄道廃止の影響が直接の沿線に限った矮小的な議論にすり替えて廃線を推進」した結果が、この夏の石勝線の寸断で北海道の都市間交通や物流の危機を招きかねない事態となった。そうした首相の所信表明と対極にある北海道の政策姿勢は大問題なのではないだろうか。

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

鉄道乗蔵の最近の記事