Yahoo!ニュース

全米オープン:孤独なセンターコートから、仲間の居るダブルスへ。大坂を笑顔にした奈良の「関西パワー」

内田暁フリーランスライター

全米OPダブルス1回戦 ●大坂なおみ/奈良くるみ 36 36 ガルシア/ムラデノビッチ○

アーサー・アッシュ・スタジアムでの、あまりに辛い対M・キーズ戦の敗戦から、約2時間半後――。

奈良くるみと並んで13番コートに立つ大坂なおみの顔からは、終始笑みがこぼれていました。

1ポイントごとに大坂のもとに駆けよる奈良が、笑顔で一言二言かけるたびに、大坂の表情は明るくなります。チェンジオーバーの時には、並んで腰かけ2人が言葉を交わしていくと、日頃は「私、顔の筋肉があまり動かないの」と言っていた大坂の口角がみるみる上がり、目じりが下がりました。

「なおみちゃんも、シングルスがあって今日は凄くタフな精神状況のなか、よくあそこまでダブルスも頑張ってくれたと思います」

ダブルスの試合後に、奈良はしんみりと言いました。

「今日はなおみちゃんの試合の第3セットは見ていました。本当に悔しいだろうし、だから今日は、なおみちゃんと楽しんでできるようにというのは、皆からも言われていたので。関西の力を出して……なおみちゃんにもしゃべってもらおうかと、いっぱい話しかけました」。

2人の会話は、“日本語縛り”が暗黙のルール。

チェンジオーバーの時に、どんな何を話していたかと思いきや……

「なおみちゃんは北海道に行ったことがないと聞いたので、『北海道ご飯美味しいよ』という話をしていて。『刺身好き?』と聞いたら、『すごい好き』と言うので、『北海道すごい刺身美味しいんだよ』って言ったら、『マジィ? すごくお腹へった』って。それが今日一番ウケたところです」。

奈良が笑顔で、秘密の(?)会話の内容を明かしてくれました。

一方、ダブルスを終えた後にシングルスも含めた会見に現れた大坂は、「今日の敗戦は収穫か、あるいは失望か?」と米国人記者に問われた際に、次のように答えました。

「正直に言うと、今ダブルスをプレーしてきて、本当によかったと思っている。もしダブルスをやっていなかったら、もっともっとネガティブな気持ちでいただろうから。でもダブルスが物すごく楽しかったから、『テニスってゲームだ』って思うことができたの。だから今は、試合を楽しみ、どうなるかを見ていきたいと思えている」。

日本語で改めて「今日のダブルスは楽しかった?」とたずねると、すぐにパッと笑みを浮かべ、「うん」と首を縦にふります。

「『何食べた?』とか、くるみちゃんは大阪に住んでいたことがあって、私も大阪に居たことがあるとか……」、そんな会話を交わしたと言う大坂は、「くるみちゃん is really nice(くるみちゃんは、本当に良い人)」と言って、もう一度笑いました。

試合は、第1シードのガルシア/ムラデノビッチ相手に3-6、3-6で敗れましたが、大坂のパワーと奈良の機動力が噛みあい、練習ほぼ無しのぶっつけ本番とは思えぬ爽快なプレーも多く飛び出す好ゲームに。

それよりも何よりも、勝敗以上に大きなものを大坂も奈良もこの一戦で得たと思える……そして見ている方も終始笑顔になれる、そんな一戦でした。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookから転載。連日大会レポートやテニスの最新情報を発信中

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

内田暁の最近の記事