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20周年を迎え、さらに輝きを増すMISIA 「20年経ってやっとシンガーになれたと思えた」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「今は、私をシンガーにしてくれて、本当にありがとうございますという気持ちです」

20年間変わらない思いを歌い続けてきた――「“life is going on and on”であり、“music is going on and on”という思いにもつながる」

『Life is going on and on』(12月26日発売/通常盤)
『Life is going on and on』(12月26日発売/通常盤)

<求め続けてる この時代の中で 変わらない夢や愛を 歌い続けてる>――これはMISIAの、12月26日発売の3年ぶりのオリジナルアルバム『Life is going on and on』に収録されている「変わりゆく この街で」の一節だ。20周年を迎えたMISIAは、これまで様々な出会いを重ね、新たな音楽を生み出し、変わらない思いを歌い続けている。そしてそのストーリーは果てなく続く――そう感じさせてくれる言葉とメロディ、サウンドが『Life is going on and on』というアルバムにはパッケージされている。アニバーサリーイヤーに届けられた作品に込めた思いを、MISIAにインタビューした。

MISIAがインタビュールームに入ってきた瞬間、優しい空気に包まれた。そして一つひとつの質問に、思いを巡らし、言葉を選びながら丁寧に答えてくれる彼女は、凛とした空気を纏い、美しいオーラを放っていた。彼女が積み上げてきた時間が、美しさとなっている。彼女の体内に宿る魂と、言葉との交差点が歌だとすれば、それを20年間全身全霊をかけて届け続けてきた彼女は、輝いていた。

「自分の歌が、100年200年、1000年先も聴いてもらえる、永遠の命を与えられるのが夢」

写真提供/Ariora Japan
写真提供/Ariora Japan
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「今年は、4月に大阪城ホールと横浜アリーナで行った『20th Anniversary THE SUPER TOUR OF MISIA Girls just wanna have fun』から幕開けして、ステージ上からファンの方々に“デビューして20年経って、私はやっとシンガーになれたと思えるようになりました。私をシンガーにしてくれて、本当にありがとうございます”と、気持ちを伝えることができました。その言葉は20年でシンガーになれたという気持ちと、もうひとつは、自分の中で芽生えていた、私、多分このままずっと歌っていくんだなっていう気持ちが、言葉になって出てきたのだと思います。自分の歌っている歌が、100年200年、1000年先も聴いてもらえる、永遠の命を与えられるということが夢で、それはどのシンガーも同じだと思います。だから今回のアルバムを作っている時も、もちろん今までもそうでしたが、来年、再来年には聴かれなくなってしまう歌ではなくて、ずっと聴き継がれて、歌い継がれて欲しいという気持ちで、制作に臨みました。だから今回アルバムに収録されている楽曲達も、これからの私の歌手人生の中で歌い続けていくし、聴き続けてほしい楽曲なので、これからのみなさんの生活が“life is going on and on”であって欲しいし、ここに入っている楽曲も、これから続いていく音楽の中に、ずっと存在していてほしい、“music is going on and on”という思いにもつながります。ラブソングだけではなく、人生観や普遍的なものも歌っているアルバムなので、『Life is going on and on』という7月から行っているツアー『20th Anniversary MISIA 星空のライブX Life is going on and on』のタイトルになっているこの言葉がピッタリくるかなと思い、アルバムタイトルにしました」。

「このメロディにはこの歌詞以外考えられないと思わせてくれる「民謡」のような曲が、名曲。そういう曲が、聴き手の歌になっていき、聴き継がれていく」

今年、MISIAの代表曲のひとつになるヒット曲が生まれた。それがアルバムのオープニングナンバーでもある「アイノカタチ(feat. HIDE GReeeeN)」だ。ドラマ『義母と娘のブルース』(主演:綾瀬はるか/TBS系)主題歌として、ドラマをより感動的で印象深いものにし、ヒットの後押しをした。歌い出しの<あのね>というひと言から、温もり、切なさを感じることができ、胸に迫ってくる。節目の年に自分の元にやってきたこの曲については、どう思っているのだろうか。

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「ドラマに共感し、書き下ろした楽曲という部分がとても大きいのですが、自分の中で楽曲がどういう存在なのかは、きっと10年、20年後に見えてくると思います。ただこれまでありがたいことに色々なヒット曲と出会い、歌ってきましたが、その曲達に共通して思うことは、ジャンルという意味ではなくて「民謡」のようだということです。メロディと歌詞が運命的に出会い、「民謡」って、このメロディにはこの歌詞以外考えられないと、思わせてくれるところがあると思いませんか?そういう運命的な出会いをして、歌い手も、誰が曲を作ったのかもわからなくなっても、その曲が存在していくような楽曲ということです。自分の曲でもあるし、でもいつか「Everything」もそうですけど、人の曲になっていくのかなって。アニバーサリーツアーでは、過去の楽曲も色々歌いましたが、比較的最近私のファンになってくださった方が「これもMISIAの曲だったの?あれもなの?」って言ってくださることがあって、それがすごく嬉しいです。その曲が普遍的なものになっていることかなって思うんです。矛盾してるようにも聞こえるかもしれませんが、歌手として、あなたの歌じゃないって言われるのはどうなのって思われるかもしれませんが、歌手としての側面と、私は作り手としての面もあるので、そういう嬉しさもあります。普遍的なものを作ることができて幸せというか、だから今回のアルバムも、これからも歌い続けていく楽曲ばかりですし、歌い続けていこうと思う楽曲が、デビューして20年経ってもあるというのは嬉しいです」。

「私自身が10代の頃から経て、たどり着いたサウンドというか、全部影響を受けてきたんです!というのを今、堂々とやっている感じです」

『Life~』は、12曲で構成されている。20年というキャリアを総括するだけではなく、“その先”にあるものを、大いに感じさせてくれる内容だ。前半は進化を遂げながらさらに深く、“深化”しているMISIA流のポップスを聴かせてくれる。深化という意味では、このアルバムに深みを与え、MISIAのアーティストとしの懐の深さ感じさせてくれるのが、M5からM10 の、トランぺッター黒田卓也とのコラボから生まれた作品だ。MISIAと黒田は昨年、『MISIA SOUL JAZZ SESSION』という作品を作り上げた。いわゆるジャズアルバムではなく、ソウルミュージックや様々な音楽と、ジャズとが溶け合った音楽が生まれている、現在の音楽の潮流に対する探究心に満ちた一枚だ。その薫りが今回のアルバムにも漂い、クールなグルーヴを作り出している。

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「デビューアルバム(『Mother Father Brother Sister』)の時から私のジャンルってJ-R&Bといわれ、ヒップホップやソウル、色々なジャンルの音楽がアルバムの中に散りばめられていて、ひとつのジャンルに縛られない世代だと思っています。音楽シーンに色々なジャンルが溢れ出した世代というか、黒田くんもほぼ同じ世代なので、様々なジャンルの音楽を聴いていて、ジャズシーンにいながらもソウルやヒップホップ、ファンク、アフロビートなどがミックスした音楽を提示しています。それがまさに今の音楽シーンの音でもあるし、私自身が10代の頃から経て、たどり着いたサウンドというか、全部影響を受けてきたんです!というのを今、堂々とやっている感じです。なので黒田君とは、それを表現させてくれる人と出会ったという感じです。色々な音楽が溶け合った感じを、アレンジとして出せるかというのは、また別の話で、黒田君は素晴らしいプレイヤーであると同時に、素晴らしいアレンジャーです。今回アルバムを作るにあたって、彼に託した曲は多くて、ただ前回と違うところは、前回は自分の楽曲をリアレンジしてもらうということでした。オリジナリティを大事にするというよりも、ソウルジャズなサウンドに、黒田くんの色に好きに染めてください、という感覚でした。でも今回はオリジナルになるので、そこを突きつめるという作業は、前回とは違うアプローチでした。歌詞ともリンクさせる必要があるし、それに伴うやりとりがありました。特にオリジナル楽曲としては、「LOVED」と「SERENDIPITY」のようなミディアムテンポのバラードのアレンジは、今回が初めてだったので、彼のジャズのマナーの中でのカッコいいアレンジの部分を残しつつ、切ないポイントを残すには、どこが一番おいしいかというやりとりはかなりしました」。

「LADY FUNKY」はファンク、「変わりゆく この街で」はラテン、「LOVED」はスロージャズのバラードと、黒田の多彩なアプローチが、MISIAの歌に新たな表情をプラスさせ、輝かせている。「LOVED」と「恋人失格(feat.米倉利紀)」は米倉利紀、「LADY FUNKY」は伊秩弘将、「変わりゆく街で」は小島英也、そして「アイノカタチ(feat. HIDE GReeeeN)」はGReeeeNのHIDEと、多彩な作家陣がMISIAの歌、世界観に刺激を与え、さらに豊潤なものにしている。

「今回のアルバムでは、サウンド的にも年相応のことができたし、40歳なりのメッセージを伝えることができる歌い手でいたい」

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「20年も歌っていると色々なミュージシャンに出会うことができました。面白いなって思うのは、最初の頃は、その人のカラーを出すというよりは、この子(MISIA)にはどんな可能性があるんだろう、それを引き出してやろうって感じで、色々な曲を与えてくださいました。でも20年歌っていると、その書き手のカラーもどんどん出てきて、出すというよりも自分のカラーをMISIAにぶつけたら、どんなカラーが出てくるかなって、ぶつかり合いをお互いが楽しんでいる部分があると思います。米倉さんも、HIDEさんも、林田健司さんも、伊秩さん、色の濃いもの同士でガチンコバトル、みたいな(笑)。私も今年で40歳になって、自分が音楽を聴く上で、その年齢によって聴く音楽が変わってきているので、一緒に成長して、40歳なりのメッセージを伝える歌い手でいたいと思っていて。今のことは今しか歌えないし、そういう意味では、ガチンコでぶつかり合って、新たなもの生み出すって、大人な感じがするんですよね。私は私のままでいいし、あなたはあなたのままで大丈夫って、お互いが確立できていないとできないことなので。そういう意味ではサウンド的にも年相応のことができたし、メッセージも米倉さんやHIDEさんが書かれた歌詞は、私の言葉ではないけれど、同じように年齢を重ねてきた方達の言葉で、深みがあって私と同じような年齢の方や、もっと上の方にも聴いていただけるアルバムになっていると思います。年齢を重ねることって、自由になっていく感じがすごくします。そういう意味では音楽でもどんどん自由になっていると思うし、でも日本は特に女性が年齢を重ねるということを美徳とする文化がまだまだ薄いと思います。でも本当はとても素敵なことだし、それを美徳とする文化がある国は豊かだと思うし、日本もそういう国になって欲しい」。

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アルバム後半の「AMAZING LIFE」は、ストリングスとゴスペルコーラスの美しい響きに乗せて、<いくつもの奇跡が繋がり ここにいる>という、20年間変わらないMISIAのメッセージが伝えられる。この曲は「THE GLORY DAY」(1998年)をはじめ、数々の傑作を生みだし、MISIAが「現代のモーツァルト」と尊敬する、鷺巣詩郎が20年ぶりにアレンジを手がけた。ロンドンでのレコーディングでは「THE GLORY DAY」に参加したミュージシャンとの再会を果たし、改めて音楽を一緒に作り上げていく喜びをわかち合った。

なお「AMAZING LIFE」は、『ダーウィンが来た!生きもの新伝説』(NHK総合)のテーマソングにもなっていて、さらに映画『劇場版 ダーウィンが来た! アフリカ新伝説』(1月18日公開)のエンディングテーマにも決定した。「元々大好きな番組で、世界中で放送されていて、英語で放送される時のタイトルが『Darwin’s Amazing Animals』なんです。それで鷺巣さんが、「アメイジングという言葉をコーラスに入れたい」と言ってくださって、そこから「AMAZING LIFE」という言葉が生まれました。ゴスペルの言葉でもあるし、驚くべき、素晴らしい、奇跡的な命を表現しました」。

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アルバムの最後を飾る「SUPER RAINBOW」でも、<雨上がりに 虹が見えるものでしょう 涙は終わりじゃないから 明日へ進もう>と、美しく前向きな言葉で、背中を押してくれる。それはまるで聴き手の肩を抱きしめながら寄り添い、一緒に歩いてくれているようだ。MISIAの歌は、言葉の力を実感する瞬間でもある

「デビューの時から日本語にこだわりたいとずっと思っていて、J-R&Bというのは日本語で歌いたいという思いの表れなんです。今回のアルバムも、デビュー当時からやってるサウンドから、新しいサウンドまで出てきますが、そこでも日本語で伝えるという意志は貫かれています。そういう意味ではアレンジャーさんもみんな洋楽が好きな方が多いですが、子供の頃から聴いていたJ-POPのメロディや言葉が、やっぱりDNAにある人たちなので、日本語が潰れないというか、それはすごく感じます」。

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このアルバムの中で、特に思い入れが強い曲を教えて欲しいという、ちょっと意地悪な質問をぶつけてみると――。

「シングルとして発表した楽曲を除いて、20年という時間を考えて、自分の中で印象深いのは「変わりゆく この街で」です。どの楽曲にも思い入れがあって、特別な存在ですが、20年という時間を経て、デビュー当時の私が見ていた街と、今も私が見ている街と思いというのがリンクしているという意味では、この楽曲を今このタイミングで歌えたことが、すごく嬉しくて。まだライヴで歌っていないのですが、走馬灯のように流れる過去を振り返り、今を見つめ、未来のベクトルを決め、歌っている自分の姿が想像できます」。

社会貢献活動に注力した20年。その行動、音楽に込めるメッセージ、発言に一切のブレがない

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MISIAの20年は、社会貢献活動の20年でもあった。特に子供教育支援に尽力し、2008年には世界中の子供の教育を目的とした非営利団体『Child AFRICA』を立ち上げ、さらにと発展途上国への支援活動にも力を入れ、2010年に “Child AFRICA”の取り組みを引き継ぎ、音楽とアートの力で世界規模の課題に取り組む団体「一般財団法人mudef(ミューデフ)」を設立。様々なアーティストとともに財団の理事を務め、社会貢献活動により一層力を入れる。同年、『生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)』の名誉大使を務め、来年開催される「第7回アフリカ開発会議」の名誉大使にも就任した。音楽に込めるメッセージ、インタビューなどでの発言、そしてその行動に一切のブレがなく、一貫している。人のことを思い、喜びと悲しみをわかち合い、人との出会いに感謝するその人間性全てが、歌に表れている。

圧倒的な「柔軟性」でどんどん新しい音楽の道を切り拓き、人々に感動を与え、そして「強い意志」を持って人道支援にあたり、その思いと時間が作り上げた20年は、かけがえのないものだ。しかしまだ20年。「どんどん自由になっている」MISIAが作り上げた『Life is going on and on』というアルバムを聴いて、もう次のアルバムが聴きたくなってしまった。MISIAの30年、40年と果てなく続くストーリーがますます楽しみだ。

MISIA オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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