安倍昭恵氏も関与する高校生未来会議は、本当に安倍政権の若者取り込み装置なのか?
文科省後援イベントで自塾への勧誘
2016年3月に首相官邸と参議院議員会館を会場にして開催された第1回全国高校生未来会議の場で、そのイベントを主催する一般社団法人リビジョン代表の斎木陽平氏が代表を務めるAO義塾というAO入試対策塾への勧誘チラシが配布されていたことを、2016年12月の週刊新潮が報じた。
第1回全国高校生未来会議は、全国から高校生が集まって政治について議論するということで、クラウドファンディングで約400万円もの浄財を集め、企業各社から協賛してもらい、文部科学省の後援まで付き、安倍首相や蓮舫議員をはじめとするそうそうたる政治家や茂木健一郎氏などの著名人までもが参加する形で実施された。
さらに週刊新潮は、今、森友学園問題で渦中にある安倍昭恵氏が、高校生未来会議開催に大きく関与していると認めていることも報じている。「なんのことはない、文科省が安倍総理に遠慮し、昭恵夫人が強く後押しして実現した全国高校生未来会議とは、“AO義塾の広告塔”だったのだ」というのが記事の結論だ。
ネット上では斎木氏が安倍首相の甥であるかのような情報が流れているが、デマである。彼は安倍首相の遠戚であると自ら語るが、甥ではない。実際は、遠戚であることよりも安倍首相の地元山口県の有力支援者の親族であることのほうが重要だ。安倍首相が斎木氏を利用しているのではなく、関係性はむしろその逆なのだ。
このイベントについて、SEALDsの高校生版だとか、安倍政権の若者取り込み策だとか、高校生版極右組織だとか言う人たちがいるが、どれもつじつまが合わない。全国の意識の高い優秀な高校生をAO義塾へ勧誘すること、およびAO義塾の生徒たちにイベント運営を手伝わせることで彼らがAO入試の自己PRに書くネタにするという意味はあるだろうが、もっと大きな目的はほかにあると私は考えている。それが何かは最後に述べる。
さて、今年も、第2回全国高校生未来会議が、3月27日と28日の2日間にわたって開催される。が、これまた不思議なことになっている。
3月24日、開催を直前にして、共同通信PRワイヤーというPR配信サービスを通じて、第2回全国高校生未来会議のリリースが配信された。その配信元はリビジョンではなくAO義塾である。第1回のときにAO義塾の勧誘チラシを配布したことが発覚しあれだけ批難されたが、今回は文科省の後援もなくなったため、開き直って、とうとう自ら全国高校生未来会議がAO義塾の広報イベントであることを認めたのだろうか。
にもかかわらず、今年もクラウドファンディングをやっている。決して安くはない有料のリリースサービスを利用する余裕があるのなら、それを運営資金にまわせばいい。しかも開催3日前というタイミングでリリースを配信して意味はあるのか……。何が何でも世間の注目を集めたいのだろう。
高校生未来会議のミッションステートメントは何か?
その意味で、3月23日の斎木氏と茂木健一郎氏のツイッターでのやりとりが興味深い(時系列は下から上)。
叩かれがちな斎木氏を擁護しながら、茂木氏はこうつぶやいた。「議員会館とか首相官邸とかの舞台装置は(中略)アイデアの本質には全く関係ない。そういうのをありがたがる世間が馬鹿だと昨年参加した時はっきり言った」「本質は、安倍昭恵さんや首相がいらっしゃることでも議員会館を使うことでもないはず。要するに実質的なアイデアと議論が大切。主催の斎木陽平はおっちょこちょいで、そういうのに意味を持たせているように見えちゃう」「mission statementを明示することが大切」。
至極まっとうな意見だと思う。しかし斎木氏はこう返す(時系列は下から上)。
「そういうのに意味を持たせているように見えちゃう」のではなく、実際に「意味を持たせている」と断言するのだ。茂木氏が言うところの「そういうのをありがたがる(世間が)馬鹿」も対象にしているイベントなので、「わーい!あのテレビの茂木さんに会える!」と高校生の胸をときめかせる意味で、首相官邸や議員会館という舞台にも、そこに登場するそうそうたる著名人たちにも、「手段的価値」があると。
ここでいう「手段」とは、高校生を集めるという「目的」に対する「手段」としか読解できない。茂木氏は高校生たちに、舞台装置をありがたがるのではなく本質的な議論をしなさいと檄を飛ばした。にもかかわらず斎木氏は、完全に斜め上から、茂木氏を含めた著名人や国政に関わる場所を、高校生を集めるための手段として利用している面があると、悪びれることもなく言ってのけるのだ。
舞台装置が派手で華やかなほうが注目されやすい
しかし「目的」はそれだけではないだろう。それが、冒頭で触れた「もっと大きな目的」と重なる。「もっと大きな目的」とは、純粋に、政治家になり総理大臣になることを目標としている斎木氏自身が、世間の注目を浴びることではないか。本人が自覚しているかどうかは別として、それが実態になってしまっているのではないだろうか。
それ自体は何ら悪い目的ではない。が、その目的のために選ぶ手段が、本質を外していたり、社会通念的にグレーもしくはアウトだったりするのだろう。安倍昭恵氏の振る舞いにもどことなく似ている。そこが怖い。
彼の高校生時代からのambitionはAO義塾のHPに掲げられている。これによれば、安倍首相の主張する憲法改正は、福澤諭吉の「独立不羈」に通じるものであるらしい。また、法学部を志願するにあたり、大病院を経営する親を説得するために、将来女医と結婚すると約束したとも書いてある。
http://aogijuku.com/message/free_description
ちなみに、優勝賞金100万円がもらえるNES(高校生の起業家講座)も、AO義塾代々木校を会場として、ほぼ同様のスキームでリビジョンが主催している。こちらは元文科副大臣の鈴木寛氏が発起人とされており、森友学園問題で渦中の経産省職員谷査恵子氏も過去には参加している。「NES2017」の賞金100万円の勝者は、全国高校生未来会議の翌日3月29日に発表される予定。
議員会館という舞台も、安倍首相や蓮舫議員や茂木氏のような登場人物も、それらをありがたがる高校生たちも、そして将来結婚相手になる女医も、すべては斎木氏自らが主役を演じるための舞台装置としての役割を果たすことになる。
そこに加わりたい者は加わればいい。しかし舞台装置になることに無自覚なのだとしたら、斎木氏がどのようにしてこのド派手で壮大な舞台装置を手にすることができたのかという点と、自分自身が意図せず果たしてしまう役割の意味を、もう一度よく考えたほうがいい。
ミッションステートメントを明示しなくてもこれだけ大がかりな舞台装置を手に入れることができた“奇跡”の背景に安倍昭恵氏の関与があったことは週刊新潮の記事が伝える通りだ。斎木氏が、そのような力を借りず、七転八倒しながらこのようなイベントを時間をかけて育ててきたのなら、舞台装置は小さくみすぼらしくても、そのプロセスの中で当然のようにミッションステートメントは確立していただろうし、自らももっと大きく成長できただろう。すぐに手を貸してしまう過保護な大人たちが近くにいたことは、彼自身にとって、実は不幸なことだったのかもしれない。
<関連リンク>
・文科省に圧力電話する「安倍昭恵」は私人か! 実績なきイベントに官庁後援がついたワケ
・これでも私人? 安倍昭恵、自身が応援するイベントに「大臣賞」を出すよう依頼
・安倍昭恵が“圧力”支援のイベント、主催団体代表は「総理親族」「有力支援者子弟」
・「首相夫人はバックドア」安倍昭恵女史の懸念と「AO義塾」の後始末
・「安倍総理」親族だから文科省がエコヒイキするAO義塾代表のペテン
・音喜多駿さま・斎木陽平さま 騒動から考える民主主義とは何か。