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ハリル合宿のお手本は”バルサ対バイエルン”

清水英斗サッカーライター

12、13日に行われるサッカー日本代表のミニ合宿。その目的について、ハリルホジッチ監督は記者会見で、「より選手を知ること」「私のメッセージを伝えること」と説明した。アルジェリア代表の監督時代には、このミニ合宿から新しい選手を何人も発見している。

この指揮官は、新しい選手に何を要求するのか?

筆者にとって特に印象的だったのは、ハリルホジッチが会見で二度にわたって、チャンピオンズリーグ準決勝のバルセロナ対バイエルン・ミュンヘンの試合を例に挙げたことだ。

「彼らの戦う姿勢を見ただろうか?」

「彼らのタクティクス(戦術)を見ただろうか?」

「彼らのスピードを見ただろうか?」

天から降りてきたリオネル・メッシは、世界中にひとりしかいない。日本代表がそれを望むことはできない。しかし、スピードやアグレッシブさ、戦う姿勢、プレー強度において、「彼ら(日本の選手)が望むなら、それは向上できる」とハリルホジッチは断言する。

この指揮官が「トップ・オブ・トップのゲーム」と表現するバルセロナ対バイエルンの第1戦は、キックオフ直後から、鬼気迫るような集中力とアグレッシブさが感じられた。

その典型的なシーンは、前半3分にある。バイエルンのジェローム・ボアテングからレヴァンドフスキをねらった縦パスが、主審のニコラ・リッツォーリに当たり、こぼれ球になってしまった。ボアテングから主審までの距離は約20メートル。避けられないような弾道ではない。プレーを邪魔されたバイエルンの選手は、さぞや怒り心頭だろう……。

と思ったが、否。

リアクションで不満を示したり、抗議をする選手は、誰もいなかった。本当に、ひとりもいない。何事もなかったかのように素早くディフェンスに切り替え、すぐにポジションを取り直す。完全にプレーに没頭している。この「トップ・オブ・トップ」の振る舞いには、少し驚いた。

もちろん、不満がないはずはない。しかし、それを露わにできるような“ヌルい”試合ではないのだ。主審に当たってこぼれたボールが、MSN(メッシ、スアレス、ネイマール)にわたれば、もはや一刻の猶予もない。審判に向かってごちゃごちゃと不満を垂れて集中を欠けば、その背後を、一瞬で陥れられるかもしれない。その厳しいプレッシャーが、バイエルンの選手の目線を、ボールや相手選手から、主審にそらすことを許さない。

「彼らの戦う姿勢を見ただろうか?」

果たして、これほど勝負に徹し、これほどの緊迫感を生む試合が、Jリーグにどれだけあるのか。ハビエル・アギーレに「親善試合のようだ」と評され、ハリルホジッチにも「もう少し、やる気と力強さを見せてほしい」と言われたJリーグ。少しずつポジティブな変化も感じているが、海外サッカーと交互に見ていると、まだまだ物足りない。

同じような場面は、プレミアリーグ第33節のチェルシー対マンチェスター・ユナイテッドにも見られた。

前半9分、ゴールライン上にころころと転がったボールを、ブラニスラフ・イヴァノビッチと、アシュリー・ヤングが追いかけた場面だ。そのままボールを外に出そうと、体を入れてブロックしたイヴァノビッチだが、勢いがかなり弱く、ボールが止まりそうになる。

そして、ゴールラインをほんのわずかに越えたところで一瞬止まり、そこから芝に押し戻され、ライン上に戻ってきて止まった。ボールがラインを割ったことを主張するイヴァノビッチだが、審判の笛は鳴っていない。それでも、その間もチェルシーの選手は張り詰めた集中を切らすことなく、体を入れてブロックしたイヴァノビッチが縦にボールを蹴り、脱出に成功した。特に抗議もなし。たとえ外的要因に何かが起こっても、決して隙を見せることはない。

この場面から逆に思い出されたのが、今季Jリーグ第1節ガンバ大阪対FC東京の試合だ。前半終了間際、宇佐美貴史がコントロールしたボールがゴールラインを割ったとき、FC東京の大多数の選手は、セルフジャッジで手を挙げ、足を止めてしまった。その隙に、遠藤保仁のクロスからパトリックにヘディングシュートを決められている。外的要因に揺らされ、あっさりと集中を欠いてしまった。

もちろん、誤審自体は減らすべきものだが、一方で、人間がジャッジを行うと定められるサッカーにおいて、誤審を完全にゼロにすることはできない。必ず起こり得るものなのだ。その真理に対する理解と、選手のリアクションも、「トップ・オブ・トップ」とJリーグには大きな差がある。スピードやアグレッシブさ、戦う姿勢、プレー強度。ハリルホジッチが「彼ら(日本の選手)が望むなら、向上できる」と指摘するポイントは、このようなアクシデントに対する一瞬の振る舞いにも表れるのではないか。

技術や戦術をどんなに向上させても、上記で劣っていれば、いつどんなアクシデントで試合をひっくり返されるか、わかったものじゃない。それはACLの戦いでも痛感しているところだ。たった2日間のミニ合宿で劇的に伸びることは考えにくいが、変化が表れるとしたら、その後のJリーグだろう。このミニ合宿が、何かのきっかけを与えることを期待している。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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