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2017年 今年の3+2冊

寺沢拓敬言語社会学者

定形はご存知「今年の3冊」だが、5冊紹介したい都合で強引に上のようなタイトルにした。

今年出た本で読了しているものから4冊、是非紹介したいと思ったものをあげる(プラス自著1冊はご愛嬌)。

(※リンクはアフィリエイトではなく、出版社サイトなので安心してクリックしてください)

チャールズ C. マン『1493 入門世界史』(あすなろ書房)

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同著者のベストセラー『1493 世界を変えた大陸間の「交換」』を若い読者に向けてリライトしたもの。たしかに基礎知識が足りなくても読む進められるように、身近な話題を世界史のマクロな側面にリンクさせる工夫が随所にある。

1493年以後、つまりコロンブス以後の歴史を、疫病や交易品(たとえば銀やゴム)を軸にしながら論じたもの。人物中心・政治主体中心の世界史とは一味違った活き活きとした世界記述が楽しめる。

森元斎『アナキズム入門』(筑摩書房[ちくま新書])

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内容も面白いんだけど、それ以上に文体がふざけすぎている(笑)

これを出版したちくま新書編集部は英断だ。

著者はベテランかとおもったら年下の方でした。やばい。インスパイアされて次回からこういう文体で書きたくなった。やばい。やばい。

アマゾンで見たらあまり売れていないらしい。

実にもったいない。

テーマに親しみがなさすぎるのだろうか・・・。

アナキズムのアの字も知らなくても楽しめるのでぜひ読んでみて欲しい。

NHKが大杉栄で大河ドラマをやってくれれば(あり得ないだろうが笑)、大ベストセラーに躍り出るだろう。

意表をついて伊藤野枝を主役にした朝ドラででもいいかも(これもあり得ない笑)

NHKのみなさんご検討をお願いします。栄役はディーン・フジオカさんなんかどうでしょう?

野村康『社会科学の考え方:認識論、リサーチ・デザイン、手法』(名古屋大学出版会)

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応用言語学界でこの種の認識論的リサーチデザインの話(質 vs. 量とか)を真に議論できる人がおらず、私は孤独に考えてこざるを得なかった。私の独り善がり思考の多くが、この本に既に書いてあった。願わくば、あと3年早く出版してほしかった(笑)

方法論の概説書で認識論を全面に出す本は決して多くはないももの多少はある。しかし、本書の特にユニークな点は批判的実在論 (critical realism) を明示的に導入した点だと思う。

批判的実在論の哲学的位置付けについて賛否両論あるらしいが(よく知らない)、少なくとも私が片足を突っ込んでいる外国語教育研究業界・応用言語学業界ではこの概念を導入するとものすごく議論がクリアになる。

外国語教育研究の「(メソドロジー的に)意識が高い人」は、量的研究の背後にある認識論を意識せよ、質的研究の背後に(以下同文)と言うんだけれど、意識したとしてもメソッドと認識論が一対一対応しているような幻想を抱かせてしまったら元も子もない。そうした複雑な関係にきちんと補助線を引けるのが「批判的実在論」を導入するメリットだと思う。

加藤秀一『はじめてのジェンダー論』(有斐閣)

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ジェンダー論の入門書・教科書である。

特徴は、著者の立場に一切の妥協がないところである。

「教科書だから自分の主観を排したほうがいいのかな…」「両論併記しておいたほうが大学の授業で使いやすいのでは」といった日和った感じが一切ない。

その姿勢も、ジェンダー論という内容を考えれば当然といえば当然である。つまり、実践と表裏一体の学問である以上、現実にどう関わっていくかという点を明示的に出さなければ論じることはできないからである。

私もつい最近ある教科書の原稿の下書きを送ったところ、編者から「教科書だからもっと両論併記に配慮して欲しい」的なことを言われたのだが、(以下3000字怨嗟の声が続く

藤原康弘・仲潔・寺沢拓敬編『これからの英語教育の話をしよう』(ひつじ書房)

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自著なので最後にひっそりと紹介・・・。

本書で私は、2020年から教科化される小学校英語の問題点を、40ページにわたって徹底的に論じている。

自分で言うのもなんだが、特定の政策に限定して、分析的・理論的に問題点を検討したものはこれが初めてだと思う(既存の先行研究――というか先行的に行われた議論は、論点が拡散した心情的なものがほとんどなので)。

賛成派の方々、反論をお待ちしております。

言語社会学者

関西学院大学社会学部准教授。博士(学術)。言語(とくに英語)に関する人々の行動・態度や教育制度について、統計や史料を駆使して研究している。著書に、『小学校英語のジレンマ』(岩波新書、2020年)、『「日本人」と英語の社会学』(研究社、2015年)、『「なんで英語やるの?」の戦後史』(研究社、2014年)などがある。

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