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「ストイックな人は『ストイック』とは言わない」。錦織一清を支える哲学と恩師の言葉

中西正男芸能記者
俳優、そして演出家として舞台への思いを語る錦織一清さん

 1985年に「少年隊」としてデビューし、近年は演出家としても多くの舞台を手がけている錦織一清さん(57)。40年以上所属したジャニーズ事務所を2020年末で退所し新たな領域へと歩みを進めていますが、背中を押すのは恩師であるジャニー喜多川さん、そして、つかこうへいさんの言葉だといいます。

やってはいけないこと

 ずいぶん長く舞台をやってきましたけど、新型コロナ禍、これはね、本当にいろいろなことを考えさせられました。

 もちろん、感染対策をしっかりとやる。それが大前提だし、出演者も、スタッフさんも、みんな心がけています。全てにおいて最善を尽くし、公演ができる状況ならやる。行きつくところ、それしかないんですよね。

 そしてね、どこまでいっても僕らにできることは舞台しかない。それもコロナ禍で同時に思い知りました。

 去年の暮れに久本雅美さんらが出演されている「ワハハ本舗」の新宿公演を見せていただいたんです。コロナ禍で止まっていた中で久々の公演。出演者の方々も、お客さんも、その場を100%以上楽しもうとしてらっしゃいました。

 その姿を見せてもらってね、なんというか、やっぱりこれしかないんだと。そう背中を押してもらった気になったんです。覚悟が決まったといいますか。

 実際、コロナ禍で止まった舞台もありますし、いろいろ思案はしました。声を出しちゃいけないなら、役者全員がマスクをしてセリフは全部録音にする。そんなことも考えました。それが感染対策的には一番安全ですから。

 でもね、それがお客さんに対して一番失礼なことだと再認識もしました。そんな“絵に描いた餅”のようなことをやったら絶対にダメだし、演劇が演劇じゃなくなる。心底それを確認するきっかけにもなりましたね。

 というのはね、僕の中で肝に銘じてきた言葉があるんです。

 1999年、舞台「蒲田行進曲」出演を機にご縁をいただいた(演出家の)つかこうへいさんがおっしゃっていたことでね。

 「芝居なんてものは、けいこ場で作ったものを電子レンジで“チン”して出すようなものじゃない」

 役者さんたちが飲みに行くとよく出てくる言葉に「芝居は間だよ」みたいな話があるんです。確かに、それは事実だと思うんですけど、僕が考える間は役者同士の会話の間ではなく、お客さんとの間だと思っているんです。

 その日、見に来てくださっているのがよく笑うお客さんなのか。身構えてらっしゃるお客さんなのか。その間合いを見ながら芝居を進めていく。本当に大切なのはここの間なんだろうなと。

 だからこそ、けいこ場で作って冷凍しておいたものをチンするようなことでは成立しない。毎日マグロを運んできての解体ショー。それに近いんだろうなと。

ストイック

 つかさんからの教えもいただき、役者のみならず演出の立場で舞台に関わらせてもらうこともどんどん増えてきました。

 その中で感じるのはね、僕の友だちでダンスを教えている先生がいるんですけど、友だちが言うんですよ。「教えるようになってダンスがうまくなった」と。

 立場上、僕は役者さんの芝居にダメ出しをするというか、全体のバランスを見て話をさせてもらっています。ま、芝居にダメなもんなんてなくて、全ては個性なんですけど、あくまでも全体のバランスを見た上で自分の考えを言わせてもらう。

 そんなことを積み重ねていると、結果的にそれが自分の芝居につながっていくんです。それは感じます。

 教えることは学ぶこと。よく聞く言葉ではありましたけど痛感してますね。ま、こんなこと言ってて、僕の芝居がド下手だったらどうしようもないんですけど(笑)。

 皮肉なもんで、学生時代から一番イヤなことが読書感想文だったんですけど、そんな人間が、やれ脚本だなんだって、こんなに文章を書くようになりました。人生、本当に分からないものだと思います。

 役者として体を維持するトレーニングですか?そんなことやってたらね、具合が悪くなります。慣れないことをやっちゃダメなんですよ(笑)。

 役者の先輩方なんかムチャクチャですから。いい歳して朝まで飲んで酔っぱらって、遅刻しちゃいけないと思って劇場の植え込みに寝てたりね。

 ま、あと、こういう取材で「ストイックにやってます」と言ってない人が本当にストイックな人なのかもしれませんね。

 「僕はこれだけジムに通っています」とか「こうやって徹底的にセリフを頭に入れています」なんてね、人に言わなくてもいいじゃないですか。

 実際、よくいますけどね。人と会ってる時に本を読んだり、パソコンを打ったり。「今、それする必要あるか?」と(笑)。

 「ストイック」と言った時点で「ストイック」ではなくなるんだと思います。

 自分の評価は他人がするものですから。それはいつも思っています。だからね、これはどうしようもないんですよ。自分ができるのは一生懸命やることだけ。

 そして、もう一つ厳しいことを言うと、よくジャニー(喜多川)さんから言われていた言葉がありました。

 若い頃、練習をしてもうまくいかない。すると、ジャニーさんに怒られる。それが何回も続くと、こっちも気持ちが昂ってくるから「オレたちも一生懸命やってんだよ!」と言っちゃう。そしたらジャニーさんが言うんです。

 「“一生懸命”はお客さんには関係ないよ。お客さんが見るのは面白いか面白くないかだけだから」

 残酷なことを言えば、家族に不幸があってもそんなことお客さんには関係ない。ジャニーさんは厳しい人でしたけど、本当に本当のことを教えてくれていた。それを心底感じています。

 まぁ、結局やるしかないんですよ(笑)。そして、お客さんに楽しんでいただく。それをね、なんとか続けていきたい。ただただ、そう思うばかりです。

(撮影・中西正男)

■錦織一清(にしきおり・かずきよ)

1965年5月22日生まれ。東京都出身。小学5年でオーディションを受け77年にジャニーズ事務所に所属。「少年隊」のリーダーを務める。演者としてのみならず演出面でも才能を発揮、数々の舞台を手がける。2020年末で同事務所を退所後も「毒薬と老嬢」など多くの舞台を演出。作・演出を務め、出演もする舞台「サラリーマンナイトフィーバー」は8月27日の愛知公演(東海市芸術劇場)からスタート。石川公演(8月28日、金沢歌劇座)、埼玉公演(8月30日、戸田市文化会館)、福岡公演(9月3日、4日、水都やながわ白秋ホール)、大阪公演(10月28~30日、大阪松竹座)が行われる。出演は錦織のほか純名里沙、舞羽美海、惣田紗莉渚、渋谷天笑、室たつきら。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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