「閉店セールは嫌」“今”を尊んでほしい城田優、10kg減も共演者の心遣いに「キュン」
ミュージカル俳優として花開き、『エリザベート』のトート役などで多くの賞を手にしてきた城田優さん。ステージで映える彫りの深い顔立ち、190cmの長身、艶のある歌声でミュージカルファンを魅了してきました。実は演じる側だけでなく、演出する側としても実績があるのです。今回は、人気ミュージカル『オペラ座の怪人』の怪人・ファントムの人間的側面に光を当てたミュージカル『ファントム』で、演出・主演・恋敵の3役を担います。
―初演(2014年)は主演のファントム。再演(2019年)は演出とファントム。今回は演出・ファントム・恋敵のシャンドン伯爵…まさに三刀流ですが、なぜそこまでするのですか?
自分でも分からないです。ただ一つ、僕がエンターテインメントの仕事をする上で決めていることがありまして、それは「挑戦」です。絶対できないであろうことをいかに努力してできるようになるか。当たり前のようですがとても難しいことで、演出も含めての3役は、さすがにいろいろな観点から考えましたし、悩みましたし、何人にも相談しました。最終的にたどり着いたのが、それで作品がよくなる可能性があるならば挑戦しようと。
―ヒロイン・クリスティーヌ役のお二人はどう選んだのですか?
最初に、(元「宝塚歌劇団」雪組トップ娘役の)真彩希帆(まあや・きほ)さんが決まって。そして、オーディションで合格したのが去年大学を卒業したばかりのsaraさん(「文学座」所属)です。素晴らしい人たちはたくさんいましたが、非常に難しい役で、選考は難航しました。
クリスティーヌの特徴の一つは“天使の歌声”ですから、歌は大変です。加えて、お芝居もダンスもかなりレベルの高いものが要求されます。さらには母性も必要で、ただ若くて可愛いだけでは務まりません。
正直に申し上げると、saraさんのクリスティーヌの“天使の歌声”は、現在絶賛訓練中です。それでも起用した理由は、可能性を信じたから。出来上がった完璧な人ではなく、僕の理想のクリスティーヌ像にとても近い原石だったということです。
ーファントムだけでなく、その恋敵であるシャンドン伯爵役も城田さんが演じることになった経緯は?
本当は別の方にお願いしたかったのですが、なかなかうまくいかず。僕にと言われた時も、最初は拒否しました。でも、死ぬほどカッコいいシャンドン伯爵を演じる自信はあります(笑)。
—2つの役、闇のファントムと光のシャンドン伯爵、切り替えはどうされますか?
僕は切り替えが上手な方で、引きずるタイプではないです。「ナルシスト」「王子様キャラ」と言われてきましたから、イメージを具現化することはできると思っています。
役が抜けないということもなくて、入りやすくて抜けやすいタイプ。電気のスイッチのように、パチッと点けたり消したりする感じですね。その感覚を身につけるまでは大分時間はかかりますけど、終わったらすぐ抜けるし、役を引きずるのは終演後数分くらい。お客様から拍手をいただいても、死んだようにドーンと落ち込んでいますが、楽屋に帰って数分経ったら戻ります。
―前回の公演(2019年)では、若干やつれていたような…。
普段は食べることが大好きで、どんな難役に挑んでも絶対食べますが、演出の時は1ヵ月半で体重が10kgくらい減ります。脳のカロリー消費がすごいんです。
稽古が始まると、城田優としての時間はほぼ皆無。「休憩10分です」となった瞬間、まず隣にいる演出助手から「城田さん、次の流れですが…」と言われ、さらにその間にも何人かが僕と話そうと待っているという(笑)。そこに役者さんも来て「今のシーンですけど」と相談されて、そうこうしているうちに「休憩終了!」と。
そんな状況が一日中続くわけです。トイレにも行けないレベルなので、ご飯も食べられるわけもなく…しかも脳をフル回転で動かしているので、どんどん瘦せていきます。
心配した(ファントム役Wキャストの)加藤和樹が、手作り弁当を毎日持ってきてくれるようになりました。「よかったら」と差し出されて「キュン」としましたね(笑)。煮込み、お肉、ハンバーグなど日替わりのお弁当で生き延びていました。今回も栄養面は和樹に期待します(笑)。
ー3つのうち、どれか1つを選ぶとしたら?
演出!自分が演出することに対しては、変な自信があるんです。出演者の皆さんを、今までのどの作品よりも輝かせる自信があるし、今まできっとされてこなかったであろう表現の幅を広げる自信しかないです(笑)。
ファントム役は相当キツいし、自分のファントムに自分でディレクションしているわけで、この世界に正解・不正解がないにしても、自分好みの作品を作ることができたとしても、100%客観的にはなれないです。
僕の中では、これが最後のファントムです(笑)。でも、「最後なので観に来てください」みたいになるのは嫌なんです。僕は今まで「これが最後です」と明言したことはありません。『エリザベート』『ロミオ&ジュリエット』も、卒業公演などはやっていません。
最後でも最後でなくても、観たい人が観てくれればいいし、閉店セールみたいになるのは嫌なので。僕の中でのミュージカルの醍醐味はそこです。最後だからではなくて、シンプルに“今”という尊さをお客様に味わってほしいです。
―前回の反省点は?
一方的なコミュニケーションになってしまった、という自覚があります。押し付けてしまっていたのではないかと…もっとしっかり話すべきだったし、もっと自分が控えるべきだったと思っています。
―普段はどんなコミュニケーションを?
「僕はこう思うけどあなたは?」というやり取りをきちんとしたいです。仕事以外だと、僕の評価は両極端だと思います。“すごくいい人”か“感じ悪い人”ですね。自分なりに理由はあるし、そう思われても仕方がない態度を取っている自覚もあります。
例を挙げると、接客をするお店ですましているだけの人を見ると、もっと積極的にエンターテインメントしてほしいと思うんです。人を楽しませるという意味では同業者だと思うので、「プロ意識が欠けている」と感じると態度に出てしまい、そういう人には、きっと「城田優は感じが悪い」と思われています(笑)。
―2019年は初めて『ファントム』の演出をした年で、お仕事が充実されているように感じました。「2020年には兄たちに続いて結婚します!」とおっしゃっていましたが。
2019年は確かに充実の年でした。仕事モードはずっと続いていて、毎年ペースを落とそうとしているのに、結果やってしまうという状況です。そして、確かに結婚に関しても興味はありましたが、今は皆無です。「結婚します」と言ったのは、リップサービスですね(笑)。
僕はこの3年で、生きるということに対しての価値観がガラッと変わりました。恋人という定義も、結婚のような形式に囚われた契約を結ぶことにも、魅力を感じないです。
ネガティブな話ではなく、ポジティブに素敵な関係性が築けるパートナー、というのはありです。もし結婚するとしたら女性としてではなく、人としての部分が大事です。この人と子育てをしてみたい、とかですね。ちなみに、ヤキモチを焼かないので、お互いの行動を制限したり束縛したりすることは無駄だと思っているタイプです。
―城田さんが“城田優”を説明するとしたら?
ハイテンション、うるさい、喋り過ぎ、頑固、しつこい(笑)。
今は、僕の挑戦によってエンターテインメントに携わっている人はもちろん、足を運んでくださるお客様が「城田がこれだけのことがやれるなら、自分もできるかもしれない」と希望を持っていただけるように、演出・ファントム・シャンドン伯爵、すべてにおいて誰よりも輝き…これは自分で鼓舞しています(笑)。本当に素敵なキャストたち、愛のあるスタッフたちに囲まれながら、なるべく皆様にご迷惑をかけないように頑張っています。
■インタビュー後記
恵まれた容姿に歌声、長らくミュージカルの舞台に立つべき人だと思っていましたが、2019年の『ファントム』演出を観てからは、もしかしたら演出にこそ彼の才能が発揮されるのではないかと思うようになりました。今回お話を伺ってその思いはますます強くなり、出演者への課題の投げかけ、ワークショップの開催など、演出家として他の全出演者を輝かせようと心を砕いているのが伝わります。手作り弁当でサポートする加藤和樹さんのことも、強く心に残りました。
■城田優(しろた・ゆう)
1985年12月26日生まれ、東京都出身。2003年、ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』で俳優デビュー。ミュージカル『ファントム』では主演・演出を務める。ミュージカル『エリザベート』トート役、『NINE』グイド役などで、読売演劇大賞を始め数々受賞。テレビ・映画・舞台・音楽など幅広く活躍。最近の主な出演作品に、ドラマ『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)、『カムカムエヴリバディ』語り手(NHK)、映画『コンフィデンスマンJP英雄編』『バイオレンスアクション』などがある。ミュージカル『ファントム』は7/22~8/6大阪・梅田芸術劇場にて、8/14~9/10東京国際フォーラムにて公演予定(演出・主演・シャンドン伯爵)。