親は責任を取れる?子どもに言ってはいけない公的年金についての一言
後悔の元となる!公的年金未加入
時々思い出すのは、まだ駆け出しのFPだった頃に相談を受けた元自営業者夫婦のことです。戦争前後の混乱を体験し、国の制度への不信から「公的年金なんかアテにならない」と国民年金に未加入のまま60歳代になったのですが、まだまだ続けるつもりだった商売を健康上の理由から続けられなくなった方たちでした。
アテにならないと考えていた制度がまだ続いており、それに守られている人が大勢いる…。加入しなかったことをとても後悔されていた姿は、私にとって年金を含めた公的保障制度を考える原点となりました。
公的年金未加入者への救済策として、今年の8月から、年金を受給するのに必要な資格期間が10年に短縮されています。「資格期間」とは公的年金保険料を納付した期間のこと。a学生やフリーランス・自営業者が納める国民年金保険料の納付期間、bまた免除期間、c会社員などの厚生年金加入期間、d特例で認められているカラ期間、これらa~dを合算することができます。
改正までは25年以上の保険料納付期間が必要でしたから、10年でOKになったのは大幅な短縮です。それにより、無資格から有資格になって年金が貰えるようになった高齢者や、「今から加入しても間に合わない」と諦めていた40~50歳代の公的年金未加入者の救済になると思われます。
ただし、年金の受給資格が得られたとしても、年金額は実際に保険料を納付した期間を元に算出されます。20歳から60歳までの40年間納付した人と、ギリギリ10年間納付した人とでは、年金額は4倍違ってくるということです。「10年間だけ加入すればいい」との誤解もあるようですが、それでは老後の安心にはつながりません。
なぜこんなことを言うのかというと、現在も公的年金未加入者予備軍が少なくないからです。会社員や公務員など厚生年金加入者は給与天引きで厚生年金保険料を払っているため、未加入者となることはありません。一方、自分で国民年金保険料を納めるフリーランス・自営業者の場合、年金制度へのコミットメントの意識が低いと未加入者になりがちです。
しかし、未加入者となるのはとても「危険」で「ソン」! 現在未加入者の人は、将来後悔することのないよう、早急に加入しておくことをお勧めします。
老後の保障だけではないし、税金も投入されている
「危険」という大きな理由は、暮らしの安心のベースとなる公的保障を手放すことになるからです。
公的年金は3つの公的保障を担っており、大多数の人は「老齢年金(老後生活の保障)」として役立てますが、現役のうちに死亡した場合の「遺族年金(家族への保障)」と重い障害状態になった場合の「障害年金(収入の保障)」の機能も兼ね備えています。未加入者は遠い老後の保障だけでなく、目前に迫っているかもしれない遺族保障や障害保障まで放棄していることになるのです。
また「ソン」というのは、受け取る年金の財源は年金保険料だけでなく、税金が投入されているからです。国民年金加入者・厚生年金加入者とも共通の基礎年金については、1/2を国庫負担(税金)とすることが法律で定められています。
たとえ低所得なので所得税は払っていないという人でも、日々の支出で消費税は払っているでしょう。公的年金に未加入だと、払った税金を年金というかたちで還元されることはなくなってしまいます。
若いうちは老後へのイメージが持ちにくく、「公的年金は将来もらえなくなる」などのネガティブな情報と相まって、厚生年金加入者の中にも自分で貯蓄するほうが安心と考える人が少なくありません。しかし、生きている限り受け取ることができる公的年金と同等の資金準備を、自分でできる仕組みはないと考えたほうがいいでしょう。
もちろん、公的年金だけでゆとりある老後生活を送るのは難しいと思われ、自己資金の準備は不可欠です。また、年金財政をもたせるために今後も制度改正が行われるでしょうから、その影響で貰える年金額の水準が低下することも十分予測できます。つまり、自助努力は必要ですが、100%の自助努力はムリということ。公的年金への加入は「資金の運用対象のひとつ」と割り切るべきです。
20歳になった大学生の子どもに、「あなたたちの頃には年金がもらえなくなる」「社会人になってから入ればいい」などとアドバイスする親もいるようですが、親の責任としてこれらのことは言ってはいけません。
経済的に保険料支払いが厳しければ、在学中の保険料納付が猶予される「学生納付特例制度」もあります。もし、その手続きを怠って未加入者のまま障害者になることがあれば、障害年金をもらう権利はなくなります。
また、就職して厚生年金加入者になればいいですが、働き方の多様化でフリーランスとして働く人も増えると予測されます。そうすると未加入者のまま月日が流れる可能性も。誰も加入すべきことを教えてくれなかったとしたら、最初の親のアドバイスの影響は大きいと思われます。責任の取れない不用意な発言には十分に気をつけましょう。