東京国際映画祭、観客賞「また日本映画」は内向きの結果か、仕方ないか。劇場公開のタイミングは最高だが
11/1 に終幕した第36回東京国際映画祭。最高賞の東京グランプリ/東京都知事賞(“都知事賞”という名が冠される是非は別として)には中国映画の『雪豹』が選ばれ、観客賞は日本映画の『正欲』が受賞した。
グランプリや観客賞といった主要な賞は、コンペティション上映の作品から選ばれる。今年はコンペの対象が15本。そのうち中国と日本が3本ずつエントリーしていた。
グランプリに関しては毎年、さまざまな国の作品が受賞している印象だが、観客賞に関してはここ数年、日本映画の独壇場である。
2023年『正欲』
2022年『窓辺にて』
2021年『ちょっと思い出しただけ』
2020年『私をくいとめて』
2019年『悪なき殺人(映画祭上映時『動物だけが知っている』)』フランス/ドイツ製作
2018年『半世界』
2017年『勝手にふるえてろ』
と、過去7年で6回が日本映画。
それ以前も2014年『紙の月』、2012年『フラッシュバックメモリーズ3D』、2008年『ブタがいた教室』、2005年『雪に願うこと』と、2〜3年に1回は日本映画が受賞していたが、近年の偏りはちょっと異様。過去6年の受賞作のうち3本が稲垣吾郎の出演作(『正欲』『窓辺にて』『半世界』)などという話題も出ているが、それも何だか極端な話だ。
そもそも観客賞の現在の定義は「コンペティション上映の一般観客を対象に投票を募り、もっとも多くの支持を得た1作品」というもの。基本的に海外のコンペ対象作は、日本ではまだ知名度の高くない監督、キャストのパターンが多く(今年は中国映画『西湖畔に生きる』の主演ウー・レイが熱狂的ファンに迎えられたりしたが)、一方で日本映画は、人気俳優が出演している作品もあり、東京国際が「お披露目の場」としてレッドカーペットや舞台挨拶などでメディアに大きく取り上げられる。キャストのファンも一般公開の前にイチ早く観られるチャンスということで、上映の集客力も備える。必然的に観客賞投票における評価も高くなっていく。
『ちょっと思い出しただけ』は池松壮亮、伊藤沙莉。『私をくいとめて』はのん、林遣都。『勝手にふるえてろ』は松岡茉優、北村匠海の出演作であった。
仕方ないこととはいえ、国際映画祭と銘打ちながら「内向き」な印象が拭えないのも事実。ここ7年で、日本映画が観客賞を逃した2019年は、コンペ作品に日本映画が『喜劇 愛妻物語』(水川あさみ、濱田岳の主演)のみだった。いろいろと観客賞の「意義」も考えさせられるが……。
ただ、今年の観客賞『正欲』は、監督賞も受賞している。審査員側も高く評価した作品ということを証明した。そして『正欲』は、11/10に日本で劇場公開される。東京国際での受賞が11/1だから、最高のタイミングだ。このパターンは昨年の観客賞『窓辺にて』も同じで、11/2に受賞、11/4に劇場公開という流れだった。
作品の興行収入にも追い風になるのかーー。
米アカデミー賞やカンヌ国際映画祭など、世界的に知名度の高い映画賞・映画祭については、そこで話題になりそうな作品の日本での劇場公開が、その時期に合わせて設定されることが間々ある。
昨年のアカデミー賞作品賞受賞作『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は、授賞式が3月12日で、日本公開が3月3日。作品賞を競った『フェイブルマンズ』も同じく3月3日の日本公開。受賞の話題とともに映画館への集客が狙えるわけで、この効果は年々薄れていると言われつつ、『エブエブ』などは「アカデミー賞、取れるかも!?」というネタがなければ、明らかに興収は低くなっていたはず。アカデミー賞に絡みそうな作品は、早い段階から公開時期を射程に入れ、劇場をブッキングする。
同じように今年、是枝裕和監督の『怪物』は日本での公開が6月2日。同作がカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞したのが5月27日なので、大きな話題になった直後という最高のタイミングだった。もちろん受賞してすぐに劇場を押さえることは不可能。是枝監督の最近の作品は、カンヌへの出品や受賞も視野に入れて、2022年の『ベイビー・ブローカー』が6月24日、2018年の『万引き家族』が6月8日など、日本の公開日が早くから決められ、明らかに「カンヌ効果」に期待しているのである。
ただ、東京国際映画祭の場合、受賞結果が日本での興行収入に結びつくかどうかは、現状では何ともいえないところ。むしろ、あまり関係がなさそうなのが現実。昨年の『窓辺にて』も受賞直後のタイミングでの公開が、成績の追い風になったとは感じられず……。『窓辺にて』も今年の『正欲』も東京国際でのコンペ上映を射程に入れつつ、公開時期が決められたと考えられるし、たしかに映画祭での上映や受賞で認知度が上がったのは間違いないが。
『正欲』は稲垣吾郎のほか、新垣結衣、磯村勇斗らが、「欲望」に対する多くの人の価値観を壊そうとするセンセーショナルな物語。朝井リョウの同名小説を原作に、多様性という今っぽいテーマを、より深淵に切り込もうとしているので、東京国際での受賞が劇場公開の成績に少しでもつながってほしいと感じる。