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オワコンと呼ばれた映画館ビジネスは、なぜ復活を遂げることができたのか

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:BE:FIRST公式SNSアカウント)

今年は、様々な映画の興行収入の記録更新のニュースが話題となっています。

昨年12月に公開された映画「THE FIRST SLAM DUNK」は、公開から約9か月という異例のロングランとなり、興行収入が157億を超え国内歴代興行収入ランキングで13位になったことをご存じの方も多いでしょう。

参考:映画『THE FIRST SLAM DUNK』、興行収入157億円で終映 異例のロングランで話題

また、4月に公開された映画「名探偵コナン 黒鉄の魚影」は、興行収入136億円でシリーズ歴代1位のヒットになりました。

参考:映画「名探偵コナン 黒鉄の魚影」シリーズ歴代1位ヒット “興行収入136億円”に高山みなみが驚き

さらに、おなじく4月に公開された映画「スーパーマリオ」は興行収入139億円と、2023年公開の映画で1位になっています。

参考:映画「スーパーマリオ」興収135.3億円。'23年公開作で1位に

映画「君たちはどう生きるか」も、宣伝なしにもかかわらず公開4日間で21億を超える興行収入を叩き出し話題になりましたし、映画「ミッション:インポッシブル」の最新作も興行収入50億円を突破し、昨年は2本しかでなかった洋画実写の50億円超えを、約1年ぶりに達成しています。

参考:トム・クルーズでも世界遺産は壊せない! 累計興収50億円突破『ミッション:インポッシブル』最新作

今までのところ、今年は、映画の当たり年という展開になっているようです。

コロナ禍に「オワコン」と呼ばれた映画館ビジネス

ただ、映画館における映画ビジネスは、コロナ禍において「オワコン」や「死ぬ」と報道されていた時期があったのを覚えていますでしょうか?

特に、2020年から2021年にかけては、ディズニーが配信サービスのDisney+の会員獲得の為に、映画館よりも配信を重視した関係で、ディズニーと映画館の間で冷戦が勃発。

参考:「ブラック・ウィドウ」をめぐる、ディズニーと映画館の「冷戦」の勝者は誰なのか

コロナ禍があけても、一度動画配信サービスでの映画視聴に慣れた視聴者は、映画館に戻らないのではないかという議論もされていたほどです。

しかし、蓋を開けてみると、コロナ禍が落ち着いてきた2022年は、100億円超えの映画が3本でるなど、日本における映画館の興行収入は急回復。

(出典:サンライズウェブサイト)
(出典:サンライズウェブサイト)

参考:【解説】2022年全国映画館の入場者数、興行収入は大幅に増大

今年に入っても既に100億円超えの映画が3本も生まれるなど、映画館ビジネスは再び活況になっているように見えます。

なぜ、映画館に人が戻るようになったのか?

その鍵は「体験」というキーワードに集約されるようです。

音楽のライブを「疑似体験」できる映画がヒット

近年の映画のヒットの傾向を見ていると、まず間違いなく大きい要素と言えるのが「音楽」、特に「音楽のライブ」です。

昨年、興行収入で197億円を超える大ヒットとなった映画「ONE PIECE FILM RED」が、すでに配信サービスで視聴することができるようになっている現在のタイミングで、映画館での異例の再上映が決まったことが象徴と言えるでしょう。

参考:映画『ONE PIECE FILM RED』10月に異例の再上映 1ヶ月限定で劇場鑑賞しなかった後悔の声などを受け実施

特にポイントになるのが、配信サービスで視聴した後に「映画館で見れば良かった」という声が多数聞かれたという点でしょう。

この映画は、ある意味ではウタの楽曲を歌ったAdoさんのライブを疑似体験できる映画とも言える構造になっており、ライブ代わりに何度も足を運ぶファンの人も多かったわけです。

さらに「音楽ライブ」をテーマにした映画というと、映画「BLUE GIANT」もジャズという一般的にはニッチなテーマにもかかわらず、実際のジャズのライブを疑似体験できる音楽のシーンが話題となり、10億円の興行収入を突破してジャズに詳しくない方にも注目されました。

参考:映画『BLUE GIANT』興行収入10億円&観客動員数69万人を突破。

音楽のライブも、映画館であれば大音量で疑似体験することができます。

ある意味、家では難しく、映画館でなければできない「体験」と言うこともできるわけです。

アーティストのライブを疑似体験できる映画もヒット

また、直近では、BE:FIRSTが公開したドキュメンタリー映画「BE:the ONE」が、上映館数が114館と、他の映画の3分の1程度にもかかわらず公開初週で興行収入ランキングの9位に入り、公開2週間で興行収入3億円を突破して大ヒット御礼イベントを開催していたのが印象的です。

参考:ボーイズグループ「BE:FIRST」がドキュメンタリー映画大ヒットに感謝、SKY―HIは「しゃべっていて泣きそうです」

BE:FIRSTのようなアーティストのライブチケットは、プラチナチケットと化して入手するのが困難になりがちですが、映画であればチケットが入手しやすい割に、実際のライブに近い大音量でライブを疑似体験することが可能です。

こうしたトレンドは日本だけのものではなく、テイラー・スウィフトが10月に公開予定のツアー映画は220億円以上の興行収入になる可能性が高いと期待されているそうです。

参考:テイラー・スウィフトの「ツアー映画」が興収220億円突破予測

アーティストからすれば、映画を通じて、ライブチケットを手に入れられなかったファンや、ライブ会場が遠いファンにもライブに近い体験を提供することができます。

それをきっかけに本物のライブに来たくなるファンも増えるはずですし、大きなメリットがあると言えるでしょう。

リアルな「体験」ができる映画がリピートされる

そう考えると、映画「THE FIRST SLAM DUNK」も、実際のバスケの試合を観戦しているような「疑似体験」ができるスポーツ映画になっていましたし、映画「スーパーマリオ」も観客がゲームをプレイしたり、ゲーム実況を視聴したりしているような「疑似体験」ができる映画になっていました。

昨年興行収入137億円超えの大ヒットとなった「トップガン マーヴェリック」も、実際の戦闘機を使って撮影したリアルな映像になっており、パイロットの飛行体験を「疑似体験」できる映画だったと言えると思います。

参考:「トップガン マーヴェリック」がトム様日本歴代興収1位に

ある意味、映画館がテーマパークのアトラクションのような位置づけになってきていると言えるかもしれません。

こうした映画館でなければ「体験」できない視聴経験を提供できる映画には、何度も足を運ぶリピーターが生まれやすいわけです。

一方で、ストーリー重視の映画が苦戦するようになっているのは間違いありませんし、映画業界の関係者に話を聞くと、大ヒットの映画は大きく伸びるようになっている一方で、中堅の映画がなかなか多くの映画館で上映してもらえる機会が得られにくくなっているという問題もあるようです。

ただ、若い世代に話を聞いても、今でも映画は特別な体験として足を運ぶ人が多いようです。

コロナ禍においては「オワコン」と心配された映画館ビジネスですが、映画館ならではの「体験」を提供する場所として、これからも私たちを楽しませてくれそうです。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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