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「加熱式タバコ」に逆風か、増税案の背景を考える

石田雅彦科学ジャーナリスト
加熱式タバコの売り場にて(写真:ロイター/アフロ)

 あちこちで「人気」という噂を聞く「加熱式電気タバコ(以下、加熱式タバコ)」に逆風だ。与党・自民党の宮沢洋一税制調査会長が、税制改革の一環として「加熱式タバコの増税を検討している」と発言したからだ。

 最近のタバコ規制強化の風潮を受け、それでもタバコを止められない人たちがこぞって加熱式タバコに切り替えている。だが、加熱式タバコから税を取っていたのか、取れるのか、と疑問を感じる非喫煙者もいるだろう。

タバコ葉を使う加熱式タバコ

 いわゆる「電子タバコ」や「加熱式電気タバコ」の範疇には、大きく分けて葉タバコを使うタイプと使わないタイプの2種類ある。人気の「iQOS」や「Ploom Tech」、「glo」は葉タバコを加熱して使用する。

 一方、VAPEというタイプは葉タバコを使わず、リキッドを霧状にして吸い込む。このリキッドにニコチンを添加して販売することは日本の薬事法で禁止されているが、個人通販などでニコチン添加リキッドが手軽に入手できるようだ。

 つまり、前者の葉タバコを使うタイプの場合、葉タバコからニコチンなどが出るため、タバコを吸っているのとほぼ同じ作用がある。喫煙者の多くはニコチン中毒なのでタバコを止められないが、煙がほとんど出ない加熱式タバコに切り替え、タバコの代替として吸うようになった喫煙者も少なくない。

 リキッドにニコチンが入っていないVAPEの場合は、タバコを吸うと言うより遊びや嗜好品としての使用が多いようだ。VAPEはヒップホップ系などのアーティストの間で流行り始め、盛大にスモークを吹き出すことがクールなどと言われている。

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一人あたり1万6800円の税収に

 さて、タバコに関する法律はいくつかある。日本には「たばこ税法」という財務省管轄の税があり、紙巻きタバコには1000本あたり1万2244円が課税されている。平成28年度予算のタバコ税収は2兆1328万円だ(※1)。

 これを国民一人あたりに換算すれば、一年間に約1万6800円の税を払っていることになり、国(たばこ特別税含む)と地方自治体でこの税収をほぼ折半していることになる。行政にとっては貴重な財源であり、受動喫煙防止強化などのタバコ対策が進まない一因になっている。

 紙巻きタバコ以外のパイプや葉巻の場合は1グラム1本、刻みたばこ、噛み用や嗅ぎ用は2グラムを1本とそれぞれ換算して課税している。iQOSやPloom Tech、gloといった葉タバコを使うタイプの加熱式タバコはパイプの範疇に入る。葉タバコの使用量は、商品によってまちまちだ。

 20本入りの紙巻きタバコの場合、1箱あたり約245円が課税されているが、加熱式タバコは約68円(1箱460円)から約226円(1箱460円)まで多様だ(※2)。なぜかJTのPloom Techのみ、外国製に比べて1/4から1/3の税率になっている。これはスティック(カプセル)の重量の違いによるようだ。いずれにせよ、これは紙巻きタバコより、かなり低い税率であるのは確かだろう。

 前述したように、タバコ税収は国や地方自治体にとって無視できない額のものになっている。これまでも財政的に何かあれば、タバコ値上げしてきた背景があるが、このまま紙巻きタバコから加熱式タバコへの切り替えが進めば、大きな減収につながりかねない。自民党や財務省が焦り始めているのがわかる。

 だが、財務省にとって、税収もさることながらタバコは財務大臣が33.35%もの大株主になっているJT(日本たばこ産業)からの株の配当が期待できる財源でもある。これが各省庁や族議員への「鼻薬」になってきた点は否めない。

 JTは加熱式タバコの市場競争で海外勢に後れを取ってきた。Ploom Techが売れ始めてはいるが、まだまだライバルを圧倒するだけの競争力を持ってはいない。加熱式タバコの税率でJTを優遇してきた財務省としても税収減は悩ましいが、ここでJTのビジネスに水を差すことも望んでいないだろう。政府与党と財務省との間で、何らかの綱引きが予想される。

値上げは禁煙率を押し上げる

 では、税を徴収される側はどうだろう。まず、デバイスを用意する初期費用がかかる。iQOSのスターターキットは9980円、Ploom Techのスターターキットは4000円、gloは8000円(それぞれ定価、期間割引などあり)だ。

 また、電気代以外のランニングコストも当然かかる。iQOSのヒートスティックはマールボロが20本入り460円、1本14回(紙巻きタバコ1本と同程度か)ほど吸引できる。Ploom Techの専用のカプセルが5個入り460円、1個のカプセルで紙巻きタバコで約5本分ほど吸えるようだ。gloのケントのスティックは20本入りで420円となっている。スティックだけをみれば、どれもほぼ紙巻きタバコと同じくらいの価格だ。

 だが、政府与党の思惑通りに増税されれば、おそらくスティックは値上げされるだろう。横並びの小売価格も変わってくるかもしれないし、国産品と輸入品とで課税率が異なることも問題になるかもしれない。米国では、ニコチンの量を規制する動きが出ているが、これも加熱式タバコへの過渡期だから、という話もある。

 筆者は韓国のタバコ事情を取材したことがあるが、韓国の喫煙者の多くは一度、加熱式タバコへ換えてから再び紙巻きタバコに戻ってきていた。その理由は、デバイスの持ち運びや充電の煩雑さもさることながら、紙巻きタバコとはやはり味わいも吸い心地も違うからだそうだ。スティックが値上げされれば、日本でも気軽に加熱式タバコに乗り換える喫煙者が減るかもしれない。

 紙巻きタバコの場合、タバコ価格の値上げは喫煙率を引き下げ、禁煙率を高める効果があることがわかっている。また段階的な値上げをすれば、タバコ税の減収をまねかず禁煙率も高めることが期待できるようだ(※3)。いっそ、この機会に加熱式を含めたタバコなど、面倒で人様の迷惑になる行為は止めてしまったら清々しいのではないだろうか。

※1:財務省の「たばこ税等の税率及び税収」より。

※2:2017年4月10日、第193回国会決算委員会第4号議事録より。「平成二十九年四月十日フィリップ・モリス社の一箱四百六十円の製品アイコスの例では二百二十六・三〇円が税でございまして、率として四九・二%、JT社の一箱四百六十円の製品プルーム・テックの例では六十八・三五円の税負担、一四・九%、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ社の一箱四百二十円の製品グローでは百五十一・一〇円の税負担で三六・〇%になります。」、「フィリップ・モリス社の製品アイコスの例ですと、これは十五・七グラム、それからブリティッシュ・アメリカン・タバコ社の製品グローの例では九・八グラム、JT社の製品プルーム・テックの例では二・八グラムと、各社の重量が異なることから税額が異なっている」との星野次彦・財務省主税局長の答弁がある。  

※3:吉田有里、跡田直澄、「たばこ税のシミュレーション分析」、甲南女子大学研究紀要第47号、2011

2017/09/10:12:20:「タバコ葉」を「葉タバコ」に換えた。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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