大渕弁護士の言い分の謎と、弁護士に望むこと、私たちはどうすればいいのかについて。
大渕愛子弁護士が、本来、受け取りが認められていない弁護士費用を依頼者から受け取って5か月にわたり返金しなかったとして、東京弁護士会が業務停止1か月の懲戒処分にしたという(やっと悪事が報道された大渕愛子、知っていて使い続けた日テレの罪)。大渕弁護士が数々の訴訟を受けてきたことは、少なくとも私のような人間ですら知っていたので、やっとかというのが正直な感想だ。
大渕さんの件に関しては、幾重にも許しがたい点がある。謝罪会見の服装がミニスカートだったとか、そういうことはどうでもいい。弁護士さんは、本来であったら社会的な弱者のために、少なくとも法の下で正義のために働いてもらえるのではないかという、私たちの期待を裏切っているからだ。
まず、訴訟の相手や今回の懲戒処分の件の関係者の多くが、決して裕福ではない、まったく弁護士とは縁なく生きてきた女性であり、法の素人であるという点である。今回の懲戒処分の場合は、依頼者は夫から養育費を受け取れず困窮したシングルマザーである。女性が法テラスの代理援助制度を利用した。つまり「法テラスを利用できる」収入しかない、経済的な弱者である。法テラスを利用したこの依頼人から、依頼人から7万3500円を着手金として追加で取り立て、さらに毎月2万1千円の顧問料を5か月間徴収し、合計17万8500円を受領していた。しかも弁護士会の説得に応じた同年10月までのおよそ5カ月にわたり、返金を拒否していたという。養育費を受け取れないシングルマザーにとっての18万円弱の値打ちは、おそらく大渕弁護士のそれとは大きく異なっている。大渕さんにとっての「たった18万円」は、依頼者にとっては大金だっただろう(元「行列」住田弁護士 後任・大渕氏の返金裏側明かす 月額顧問料もバッサリ)。
一般の素人にとって、弁護士費用のことはよくわかりにくい。弁護士とは無縁に生きてきているひとが大半だろう。大渕さんは、「法テラスの制度をよく知らなかった」というが、知らなかったでは済まないのではないか(少なくとも本当に知らなかったのなら、すぐに返金すべきだろう)。
弁護士費用のわかりにくさは、規制緩和の流れを受けて、2004年4月から弁護士報酬が自由化したことと無縁ではない。それでも愛知県弁護士会(をはじめいろいろなところの)HPには、弁護士報酬の説明責任について明記されている。
当の弁護士が支払いについて把握していないというのであったら、どうすればいいのか。また、大渕弁護士は顧問料を取っている。「顧問料を取るシステムになった」と後から請求をしたりもしている(大渕弁護士「認識不足」に依頼者が反論 法テラス「使えない」と説明受ける)。法テラスについて「知らなかった」といっているのに、「使えない」と説明したという。
このような案件で「顧問料」をとる弁護士など、少なくとも私の知る限りでは聞いたことはないので、心底驚いた。尋ねたどの弁護士さんも、「一般的ではない」と返答している。つねに対応してほしい案件が生じる可能性がある企業なら、理解できる。普通は着手金と成功報酬で対応するべき案件を、顧問料をとるならば、何もしなければしないほど、お金が発生することになっていしまう。また「委任契約書を作ることが弁護士の義務になっています」(愛知県弁護士会HP)というのに、要求されても契約書を作成しないことをはじめとして、知れば知るほどわからないことばかりだ。
大渕弁護士のようなケースはおそらくまれで、多くの弁護士さんは、良心的にお仕事をしてくれているのだと思う。しかし素人にとって、弁護士報酬はたいてい想像している以上に高額で、よくわからないものである。ぜひ丁寧に説明をしてくださるとありがたい。弁護士が移動する時間まで、タイムチャージなら課金されることなど、一般の人間には想像もつかないところから、弁護士探しをしなくてはならないのだ。
またわたしたちもどの弁護士に依頼していいのかなど、まったくわからない。「インターネットで」「知り合いの紹介で」と安直に選びがちである。しかし弁護士費用は、自由化されてから、それなりに平準化されているとはいえ、それでもかなりの差があるというのが正直な印象だ。いくつかの弁護士事務所を回って、納得がいくまで費用のことを聞き、比較の上で決めたほうがいい。また丁寧に話を聞いて気持ちに寄り添ってくれる弁護士がいいのか、実務的にゴリゴリと押してくれる弁護士がいいのか、自分自身にも聞いてみるべきだ。きめ細やかな事務所がいいのか、大手の安心感がいいのか。その分野についての知識や実績はどうなのか、どのような見通しを示してくれるのか。また何よりも人間あってのことなので、弁護士との相性はどうなのか。自分が信頼できると思える相手なのか。少なくとも弁護士に、証拠書類原本や物品を返してもらえないことなどがあれば、もう次の弁護士に依頼することすらできなくなってしまうのだから。