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新型コロナウイルス感染症はなぜ厄介か? 季節性インフルエンザやSARSとの違い

山本健人消化器外科専門医
(写真:アフロ)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、毎日様々な情報が飛び交っています。

そもそも、COVID-19はどういう病気で、何が原因でこれほど大きな問題を引き起こしているのでしょうか?

改めて知識を整理するため、今回は、感染症危機管理専門家(IDES)として世界各地で活動経験を持ち、現在厚労省クラスター対策班の一員として情報発信されている、米国感染症内科専門医・米国予防医学専門医の神代和明医師にお話を伺いました。

神代和明医師(新型コロナウイルス厚生労働省対策本部クラスター対策班、筆写撮影)
神代和明医師(新型コロナウイルス厚生労働省対策本部クラスター対策班、筆写撮影)

(※本インタビューでは、クラスター対策班としての発言ではなく神代和明個人の意見として発言しております)

COVID-19は季節性インフルエンザのような毎年流行する感染症と何が違うのでしょうか?

季節性インフルエンザは、高熱や鼻汁、のどの痛み、関節痛など、割としっかりした症状が目に見えて現れる患者さんが目立ちますよね(1)

しかも、感染したのち短期間で症状が出ることが多く(2)、広がりが見えやすい。

例えば、学校でAさんがインフルエンザにかかり、同じ教室にいた人たちがたくさん感染してしまう。1、2日くらいすると多くの人に症状が出て、どんどん広まっていく。

すると、学級閉鎖のような方法が役立ちます。

また、検査をしなくても、周囲の流行状況や典型的な症状を見て医師が診察すれば、「これはインフルエンザだ」と判断しやすい

「じゃあ学校に行くのをやめよう」

「仕事を一旦休もう」

といった対策で、ある程度感染の広がりを抑えられるわけです。

ところが、COVID-19は、なかなかそういうわけにはいきません。

症状がごく軽かったり、ほとんど症状がなかったりする人が一定数いて(3)、そういう軽い症状を持つ人が大勢に感染させてしまう例があります。

また、感染してから症状が出るまでに時間がかかる例があるのも厄介です

ある患者さんが発症して他の人に感染させ、次の患者さんが発症するまでの時間を「世代時間」といいます。

例えば、2009年に流行した新型インフルエンザ(H1N1型インフルエンザ;現在は季節性インフルエンザの一種として扱われている)は、これが1日から数日以内ですが、COVID-19は約4〜8日とされ、インフルエンザよりも長めです(4)

例えば、同じ居酒屋で食事をしていた人たちの間で感染が広がったとしても、ある程度時間が経っていると、場所やメンバーをなかなか思い出せませんよね。

「どこで感染が起こったか」が追いにくくなってしまうのです。

しかも、症状が出る前から他の人への感染力があります(5)

先ほどの例で言えば、「学校で感染したAさん」は、症状が出るまでの間に色々なところに遊びに出かけたり、旅行に行ったりするかもしれません。

結局、「コミュニティが散った後に発症する」というのが、非常に厄介な点ではないかと思います。

こうした観点から、インフルエンザは「面で広がる」、COVID-19は「点で広がる」と説明されることもあります。

そこで、点から感染の場となった場所や状況(クラスター)を探し当てるのに、積極的疫学調査を通しての「クラスター対策」が有効である、と言えます。

新興感染症の大流行という意味では、SARS(重症急性呼吸器症候群)が引き合いに出されることもあります。

SARSと異なる点は大きく2つあります。

まず、SARSは、感染した人の大部分が重症化し、重い肺炎を起こします(6)

すると、そういう重症者をしっかり隔離してしまえば、感染の広がりを抑えられます

しかも、ほとんどの患者さんの症状が重篤だから、感染者も特定しやすいし「どこで感染したか」も調べやすい。

ところが、先ほど説明した通りCOVID-19は軽症や無症状の例が比較的多い。

私の友人が「ステルス感が半端ない」と表現していましたが、言い得て妙だと思います。

感染した人全員を特定して隔離する、ということ自体がそもそも難しいのです。

それから、SARSの原因となったウイルス(これもコロナウイルスの一種ですが)は主に下気道(肺)で増えるのですが、新型コロナウイルスは「上気道(のど)でも下気道(肺)でも増える」という違いがあります。

東北大学押谷仁教授から許可を得て掲載。一部改変
東北大学押谷仁教授から許可を得て掲載。一部改変

ですから、SARSは、病院で人工呼吸器につなぐ前に挿管(気管にチューブを入れる)したり、痰の吸引などをしたりする際に、特に感染リスクが高まります。

直接肺からの粘液に触れたり、そこに含まれるウイルス(エアロゾル)を吸い込んだりするからです。

一方、新型コロナウイルスは上気道(のど)でも増えるため、大声で話したり、歌ったりといった行為だけでも周りの人に感染させてしまいます。

その上、下気道でも増えるから、肺炎といった重症化にもつながってしまう。

重症化を引き起こす上に、軽症例でも感染力が強い、これがCOVID-19の特徴と言えるのです。

第2回に続く

(聞き手・編集:山本健人、協力:石黒義孝;本情報は4月27日時点での情報に基づいています。)

消化器外科専門医

2010年京都大学医学部卒業。医師・医学博士。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、内視鏡外科技術認定医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、1200万PV超を記録。時事メディカルなどのウェブメディアで連載。一般向け講演なども精力的に行っている。著書にシリーズ累計21万部超の「すばらしい人体」「すばらしい医学」(ダイヤモンド社)、「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)など多数。

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