ついに公開・映画「スラムダンク」これまでとの“違い”はどう落とし込まれているのか
原作者・井上雄彦氏が監督・脚本を務める映画「THE FIRST SLAM DUNK」が、先週末いよいよ公開されました。
大人気作品がおよそ四半世紀ぶりに映像化されるということで発表時から注目が集まっていた本作。
その一方で、テレビシリーズ等とはガラッと雰囲気の変わった3DCG的な描写やキャストの一新といったこれまでの映像作品との“違い”には、人気作品ゆえの不安の声も少なからず挙がっていました。
では実際に公開された作品の中で、そうした“違い”はどのように落とし込まれているのでしょうか。
- ※以下核心的なネタバレはありませんが、内容についての言及を含みます
■その表現が選ばれたことの説得力
本作では、全体的に3DCGが駆使されることで、主に手描きで制作されてきたこれまでの映像作品の面影はやはりほぼありません。
しかしその一方で、逆に手描きでは難しい映像描写によって、本作の物語を描くためにこの方法が選ばれたことへの確かな説得力が感じられるものともなっています。
本タイトルが描いてきたスポーツ・バスケットボールは、試合中選手やボールが常に動き続けている競技。
そのため従来のアニメでは、画面内全ての動きを常に描き続けるのも難しいため、止め画等も効果的に交えることで、手描きアニメらしい緩急やメリハリの効いた映像となっていました。
一方本作では、全体的に3DCGが駆使されることで、画面内の選手や流れる汗、ボールの動きまでもがとても写実的です。
そのため、そこで描かれる試合もまるで実写のバスケの試合のようで、たとえ結果を知っていても(知らなければなおさら)、現実のスポーツ観戦同様の、ラスト一秒まで手に汗握り見守ってしまう臨場感を持ちます。
それでいて、そこに限りなく井上先生タッチのまま動くキャラやアニメならではのカメラワーク、BGMといった演出が加わることで、実際のスポーツ観戦ともまた違う、この物語を味わううえではこれ以上の方法はないと思えるような映像として仕上がっているのです。
また、そうした写実的な描写も多いゆえに作品全体のテンションも旧アニメとはかなり違うので、その変化を考えると、新たな声と共に描かれる物語にも説得力が感じられるようになっています。※
それでも確かに、前キャストの声を知っていると、たとえ批判的でなくても、始めのうちは『麦茶かと思って飲んだら紅茶だった』かのような、構えていたものと違ったものが来た驚きを感じることもあるかもしれません。
しかしそれも、試合運びと共に物語にのめり込んでいくことで徐々に薄まり、最後には違和感も忘れて夢中になっていけるはずです。
このように、本作におけるこれまでとの“違い”は、決して作品ファンががっかりするものではなく、むしろ最高の試合を今出来る最高の魅せ方で描くために選ばれたのだな、という確かな説得力を持って、本作に落とし込まれているように思います。
- ※具体的なキャストの一新理由については井上先生からのコメントも公開されている
それでもやはり長年の人気作ゆえに、作品に思い入れがあるほど、これまでの映像作品との違いや前評判に不安を感じ、鑑賞を躊躇している方もいるかもしれません。
ただ本作に関しては、特に作品が好きな人であるほど、事前情報だけで鑑賞しないことを決めてしまうのはあまりにも早急でもったいないと思います。
もはや新旧の比較といった次元を超えて、井上先生曰く「知らない人には初めての、知ってる人には、知ってるけど初めて見るスラムダンク 」と出会える本作。
どんな感想を抱くのかはみた人の自由なので、絶賛するも批判するも未知数にしろ、まずはその“未だみぬ「スラムダンク」”を体感してみることには、きっと後悔はしないはずです。