ハリル氏会見で再注目される今、考えたい日本代表監督交代の捉え方(@0014catorce)
サッカー日本代表監督を電撃解任されたヴァイッド・ハリルホジッチ氏が4月27日午後に日本記者クラブで会見を開く。
日本サッカー協会(以下、JFA)から前監督の契約解除が発表されたのは4月9日だった。同日、田嶋幸三会長が記者会見を開き「3月27日のウクライナ戦の後、選手との信頼関係やコミュニケーションが十分に取れるような状況でなくなったこと」を解任理由として挙げた。
ハリルホジッチ前監督をサポートする立場であった技術委員長の西野朗氏が新監督に就任したことなども含め、JFAのアナウンスとマネージメントの不足からいまだ日本サッカー界では大きな議論や疑惑を巻き起こしている今回の日本代表監督交代劇。
本稿では、19日に公開した「0014catorce(カトルセ)」の 「THE OPINION #1-(1) | ハリルはなぜ解任されたのか?」で出演者が話した内容を用いてハリル氏の会見で再び注目の集まる「日本代表監督交代の捉え方」について考えてみたい。
■『(ハリル氏には)何もない』ということがわかった上で切ったとしか思えない(中西哲生氏)
まず筆者は冒頭で「ハリルホジッチ前監督のこれまでやってきたサッカーがどうだったのかという現場目線での検証とJFAのマネージメントは分けて考えるべき」と言及した。
その前提に沿って、前監督電撃解任についての筆者の理解は「ハリルホジッチ監督でこのまま(W杯)本大会に行けば、限りなくゼロに近いくらいの確率で負けると(JFAが)判断して切ったのであろう」というもの。
スポーツジャーナリストの中西哲生氏も8年間特任理事としてJFAの理事会に参加していた経験を踏まえ、日本代表監督を決める、解任するような決断、話し合いは「相当慎重にやっている」と説明する。
「僕も8年間、理事会に出ていて、監督を決める時、アギーレ監督の時は非常に決断するタイミングが難しく、“推定無罪”に則った上で法的なことを弁護士の方を入れながら検証していました。僕もハリルホジッチ監督がやって、最後のカードがどういうカードなのかを見たかったし、このタイプのサッカーで臨んでいく、つまり『相手の良さを消す』ことと『ストロングポイントを出す』というサッカーを見届けたかった気持ちはあります。でも、切ったということは、絶対的にこれは『何もない』ということがわかった上で切ったとしか思えません」
元日本代表で現在はサッカー解説者として活躍する戸田和幸氏も「監督の評価と(JFAの)マネージメントは分けて考えた方が良い」と発言した上で持論を展開。まずはJFAのマネージメントに関して「このタイミングなの?とは思いました。今のタイミングで変えたとして、ここから次の監督さんができることは何?と考えると、基本的にはなかなか見え難い。メンバーを決めた後に大会までの期間があったとしても準備する時間が少なく、『結果が出なくても仕方ない』と言われそうなタイミングになったという気はしました」と述べている。
一方で戸田氏は前監督への評価を次のように表明する。
「ハリルホジッチ監督は本大会に向けて秘策がありました、何かを用意しているのだろう、というのは我々も何となく感じてはいました。(3月の)マリ、ウクライナとの試合でいろいろな選手を使ったり、というところで『テスト』だなというところはわかります。ただ、本大会で結果が出せるのかどうかに関しては、個人的には大きな疑問は持っていました。
内部にいる人は、我々よりもっと実際のところを知っていますし、僕も結局自分の近いところでいろんな話は聞いてきました。僕自身、代表のトレーニングを見たことがあるし、ハリルホジッチ監督にインタビューしたこともあります。仕事でパリに行った時に一緒にお酒を飲んだこともあります。大体どんな方かはわかっているし、トレーニングを見た上で代表戦を見たので自分なりの意見は持っています。であれば、逆に言うと、もっと早くても良かったんじゃないかなという気はしています」
■(守備で)人がメイン、人からスタートしてしまうと大事なスペースが空く(戸田和幸氏)
実際、戸田氏は出演にあたりハリルホジッチ氏が率いた前回大会のアルジェリアのベルギーとドイツ戦、それから本大会で対戦する3カ国(コロンビア、セネガル、ポーランド)の3月の親善試合を全てフルマッチでチェック、分析した中で話を進めた。例えば、ハリルホジッチ氏の評価を世界的に高めた前回大会でのベルギー、ドイツとの2試合を見て戸田氏はこう言及する。
「あの時のベルギーとドイツのサイドバックは誰だったかというと、(ベルギーは)ヴェルトンゲンとアルデルヴァイレルト、(ドイツは)ヘベデスとムスタフィ。そういう意味では、(SBが)本職ではない。(アルジェリアが)吸収して人を掴んだ時に、外側にオプションがない。その中でボールは動かすんですけど、(アルジェリアが)奪ってカウンターというのはドイツ戦は結構多くて。ベルギー戦に関しては得点の場面だけでした。
後半(のベルギー)はメルテンスが右に張り出して、メンバーを替えて、デブライネがインサイドに入って、という中でずっと押し込まれた。クロスからの1点目、フェライニがヘディングで決めたんですけど、結局(アルジェリアは)人を決めているので。デブライネのところに対して誰が行くの?お前?お前?とやっている間に蹴られて、失点した。
試合の中でいろいろな顔が出ていましたし、人を決めるという良さと難しさというのは前回の大会でも出ていたと思いました。それがドイツ戦でハマった部分はあったんですけど、ドイツのメンツがすごく中に寄っていて、外側のオプションを使える人が、ラームも中をやっていましたのでハマりやすかったとは思います。
そういう一定のやり方があったとして、サッカーが少し変わってきました。今回(3月)のセネガルは3バックで、ポーランドも3バックをやっていました。ポーランドの方は慣れていないからなのか、あまり良くはなかった。ビルドアップのところで引っかかってカウンターを受けていましたけれど、彼らの場合はどこからでも点がとれます。セネガルは5バックの5−2−1−2で、ボスニアのアンカーと2CBをバチンとハメて、外に出たボールにウイングバックが素早く出る、横と縦のスライドが速くボールを奪えていました。
コロンビアもフランス戦は前回も話しましたけれど、オーストラリアとの試合はボールを握れたので、動かしながらハーフスペースと外側を取りにきている。やはり(ハリル前監督の日本代表が)人をメインにしすぎると、人からスタートしてしまう部分が結構強かったので、大事なスペースが空くな、というのがウクライナだけではなく他の国もそのくらいのことはやってくるという前提で考えるべきかなと思っていたので。そういう意味では、何があるかな?という感じです」
■本大会3カ国はマンツーマンがハマりやすい(清水英斗氏)
長年、日本代表の現場を中心に幅広い取材を続けているサッカーライターの清水英斗氏は「解任はなし」、「2ヶ月前まで来たらなしで、全員をまとめる方向に舵を切るしかない」という意見を述べた上で、JFAがこのタイミングで監督交代に踏み切ってしまったことでハリルホジッチ前監督に託した約3年のプロセスや本大会で前監督が用意していたサッカーの検証ができなくなったこと自体を「損失」だと話す。
ハリルホジッチ氏のW杯本大会に向けたプランや秘策は「あったと確信している」と言う清水氏は、例えばセットプレーを例に挙げて説明する。「セットプレーがあまりにいい加減でした。アジア最終予選の中でさえも、井手口が両方蹴ったり、一番小さい選手が両方とも蹴っていた。左足と右足の使い分けすらしない。まるでやる気がない、見せる気がないというように見えたので、そういうところから相手に見せないところは徹底しているのは感じました」
続いて、本大会での対戦相手がコロンビア、セネガル、ポーランドの3カ国と決まった際、そのライバル国の試合を見た清水氏は「ハリルさんの戦略がすごくハマりそうだと思った」と話す。「コロンビアとセネガルは中心選手がはっきり固まっていますし、ウクライナみたいなポジショナルなサッカーをしてこないのでマンツーマン(の守備)はハマりやすい。(コロンビアの)エースのハメス・ロドリゲスをマンツーマンで抑えて、前からの(ボールの)出どころにも、というように相手のサッカーは行きやすいものでした」
また、田嶋会長が言及した「コミュニケーション不足」についても清水氏は「引っかかっている」と続ける。
「ハリルさん多分、(本大会のプランを)言わなかったのだと思います。技術委員会やサッカー協会からしたら、『言え』と。本当に言ってもらわなければ困るという状況だったと思いますが、就任してからの3年間、すごく(情報が)漏れていた。2010年の南アフリカ大会の時も、岡田監督が今野を(オランダ代表の)スナイデルにマンマークで付けようとしたら前日にそれが漏れて、やめました。それで阿部を使うことにした。
ああいうところから始まって、話したことがすぐに漏れる。それを考えるとハリルさんが言わなかったというのは当然です。最初就任した時はロープを結んでゾーンディフェンスの練習から始めましたが、あれもやった練習の内容が非公開にもかかわらず事細かくメディアに出ていた。ああいうところから、話すとマズイと思っていただろうし、それを『コミュニケーション不足』と言われるところは不公平だと思っています」
だからこそ、中西氏は「(JFAとして)しっかり見てきた中で、『これ以上何もカードが見えないから切るんだ』とはっきり言ってくれればいいのに、それを言わないからそこはどうなのか」と不満を口にした。筆者もそこは「JFAは説明責任を果たしていない」と認識している。
■摩擦はあって然るべき(戸田氏)
9日の会見で田嶋会長が「(ハリル氏と)協会との摩擦があったとは思っていません」と回答したことについて、戸田氏は「摩擦は逆にあって然るべき」と指摘した。
「違う文化圏から監督さんを呼んで、そこから一つの目標に向かって何かをする時に、当然意見の相違はあるわけで。ハリルホジッチ監督は自らのポリシーがあって、それもかなり強いこだわりがあって、チーム作りを進めてきました。選手とも(摩擦は)あったでしょうし、スタッフともあったでしょう。彼を呼んだ側(JFA)からすると、しっかりと包み込むじゃないですけど、言いたい事を言わせながら、自分たちとしても求めることをしっかり協議しながら、進めていかなければいけません」
こう考える戸田氏だからこそ、「摩擦はなかった」という言葉を聞いた時に、協会と前監督の「距離が遠かったのではないか」という捉え方をしている。
おそらく、本日のハリル氏の会見は「反論会見」となり、彼がW杯本大会までに描いていたプランや戦略が一定レベルで説明されるはず。(是非ともそういう会見にしてもらいたい)
そうなれば再び「コミュニケーション不足」の張本人である、JFAとその組織の長である田嶋会長に対してサッカーファンの厳しい目線が向く。
ハリル氏の会見以降、「JFAのマネージメント」への批判が一気に高まることが予想される中、改めて今回の代表監督の交代劇を「監督の評価」と「JFAのマネージメント」に分けた上で、事の発端にある「JFAとしてのハリルホジッチ前監督への評価」をきちんと引き出す機運を高めていきたいところだ。
4月19日、20日に公開した@0014catorce(カトルセ)の動画リンクは以下の通り。
THE OPINION #1-(1) | ハリルはなぜ解任されたのか?
THE OPINION #1-(2) | なぜ、この時期の解任なのか?