卓球ラケット折られた王楚欽、体操男子の張博恒、紳士的でスポーツマンシップあふれる態度に感動の声
パリ五輪・卓球男子シングルスの2回戦で、世界ランク1位の王楚欽選手(中国)がモーレゴード選手(スウェーデン)に敗れるという「大番狂わせ」があったが、試合後、王選手の冷静なふるまいがSNS上で話題になっている。
また、体操男子で日本の岡慎之助選手に敗れ、銀メダルとなった張博恒選手の紳士的で岡選手をリスペクトする態度にも「これぞスポーツマンシップの精神」「感動した」「さわやか」といった声が相次いでいる。
ラケットのせいにしなかった王楚欽選手
この前日、王選手は卓球・混合ダブルスで女子の孫穎莎選手とともに金メダルを獲得したばかりだったが、優勝の記念撮影をしている最中に、報道カメラマンが王選手のラケットを踏んで壊してしまうというアクシデントが発生。茫然となった王選手だったが、激高することなく、「折れてしまったものは仕方ない。予備のラケットでやるしかない」と静かに語り、シングルスに臨んだ。
しかし、大苦戦の末、敗れてしまったが、王選手は一切、言い訳をせず、「自分が多くのミスを犯した。負けた理由は自分自身にある」と語り、「ラケットは関係ない」と言い切った。目には涙がにじんでいるようにも見えたが、終始冷静だった。また、対戦相手のモーレゴード選手の勝利をたたえることも忘れなかった。
この姿に日本のSNS上では感動の声が相次いだが、中国のSNSでも「よくがんばった」との声が多く、責めるコメントは少なかった。中国のSNS上では、事件が起きたときの動画が繰り返し再生され、ラケットを踏んだ“犯人”と思われるカメラマンの背中にある番号が何度も表示され、中には怒りをあらわにするファンもいたが、最もつらく、悲しい思いをした王選手には、ねぎらいの言葉が多く掛けられた。
体操男子選手のリスペクトある態度
一方、体操男子・個人総合の決勝。日本の次世代エース・岡慎之助選手が大けがを乗り越えて、初出場で個人総合の金メダルに輝いた。団体の金メダルに続き、五輪初出場で「二冠」を達成するという快挙に日本中が沸いた。銀メダルは中国のエース、張博恒選手、銅メダルは同じく中国の肖若騰選手で、いずれも僅差だった。
最終種目の鉄棒で張選手の演技が終わったあと、岡選手の金メダルが確定。岡選手はガッツポーズで喜びを爆発させたが、その瞬間、張選手は拍手し岡選手の優勝を素直にたたえた。また、橋本大輝選手とも握手し、お互いに健闘をたたえ合った。この様子がテレビに映し出されると、SNS上では「お互いに対するリスペクトは本当に尊敬に値する」「スポーツマンシップにあふれた態度」「橋本選手も岡選手の勝利を自分のことのように喜んでいる」など、感動の声が上がった。
中国のSNS上でも、金メダルにわずかに届かなかった張選手や肖選手に対する不満などは少なく、「結果はどうであれ、ここまで戦ってきた中国選手を誇りに思う」などのコメントが多かった。また、日本人の岡選手に対しても、「岡選手、すばらしいね。文句なしの金メダルだ」などと称賛する声があった。
選手をたたえる声が大きい中国のSNS
パリ五輪に限らず、世界的な競技大会で日本人選手と中国人選手が対戦したり、決勝で戦う場面が少なくない。とくに卓球や体操は両国ともに、伝統的に強い競技で、互いに世界ランクも常に上位だ。そのため、ナショナリズムを誘発する機会になる可能性もあるが、王楚欽選手や張博恒選手の紳士的なふるまいを見ていて、中国人選手も変わってきたと感じる。
また、中国のSNSでも、「なぜ負けたのだ」などといった厳しい声は少なく、たとえ負けても、その努力を認め、選手をたたえる声が大きい。こうした投稿の一つひとつから、中国の世論の成熟を感じる。
しかし、日本のお家芸である柔道では、柔道女子52キロ級の2回戦で、阿部詩選手がケルディヨロワ選手に一本負けし、人目もはばからず「ぎゃん泣き」したことが、日本のSNSで「みっともない」「相手選手へのリスペクトがない」などと批判にさらされた。柔道男子60キロ級の永山竜樹選手が、対戦相手との握手を拒否したことなどもあった。とくに礼儀を重んじる武道なだけに、余計に注目された。
SNS上にはいまも賛否両論が巻き起こっているが、今後もまだ五輪の試合は続く。審判の判定を巡る議論もあるが、どんな状況になろうとも、理不尽なことがあろうとも、選手たちには冷静で、スポーツマンシップ精神を忘れないで、試合に臨んでほしいと思う。