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食品添加物の「無添加」「不使用」表示、これからどうなる? 食品会社まかせから規制の方向へ

畑中三応子食文化研究家/料理編集者
商品表示は数ある加工食品の中から自分に合ったものを選ぶ重要な情報(写真:イメージマート)

消費者庁がガイドラインを策定

 3月30日、「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」を消費者庁が発表しました。商品を選ぶとき基準にしている人が多いだろう「無添加」と「不使用」の表示に、規制がかけられるようになります。

 食品添加物には、保存料、甘味料、着色料、増粘剤、酸化防止剤、発色剤、防かび剤、漂白剤、膨張剤、乳化剤、香料など多数があり、食品表示法では、使用したすべての添加物を商品のパッケージに明記することを義務づけています。

 逆に、添加物を使っていないことの表示に関してはこれまでルールはなく、「○○無添加」「○○不使用」と書くかどうかは食品会社まかせでした。

 今回のガイドライン策定は、無添加・不使用を強調する表示によって「添加物を使わない食品は安全で健康的」、反対に「添加物は危険」というイメージがかたまり、さらに強化されることに対する懸念や、なにが不使用かよく分からなかったり、不使用と書いてあっても実際は同じ働きをする物質を用いていたりと、あいまいで混乱していた表示を厳格化するためです。

サラミなどの食肉加工品には色を鮮やかにする添加物が使用されていることが多い
サラミなどの食肉加工品には色を鮮やかにする添加物が使用されていることが多い写真:イメージマート

食品表示法に違反のおそれがある10の類型

 ガイドラインでは、無添加・不使用表示を10パターンに分類。食品表示法の禁止事項に該当するおそれが高い表示を以下のようにまとめています。

類型1)単なる「無添加」の表示

 なにが不使用なのか書かず、パッケージにただ「無添加」と大きく表示してある食品、ときどき見ます。この場合、添加していない添加物を消費者自身が推察することになり、間違う可能性も少なくありません。虚偽にかぎりなく近く、消費者の知る権利を損なう表示だといえます。

類型2)食品表示基準に規定されていない用語を使用した表示

 典型的なのが「人工甘味料不使用」や「化学調味料無添加」。「人工」「合成」「化学」の用語を使うことで、それらに悪い印象を持っている消費者に、その商品を実際より優良であると思わせるおそれがあります。なお、食品添加物には化学的合成品も天然物も含まれ、表示に「天然」又はそれに類する表現の使用は認められていません。

類型3)食品添加物の使用が法令で認められていない食品への表示

 たとえばソルビン酸が使用基準違反である清涼飲料水に「ソルビン酸不使用」と表示している場合。本来、使用されることはないはずなのに、不使用と書くのはインチキといわざるをえません。

類型4)同一機能・類似機能を持つ食品添加物を使用した食品への表示

 「〇〇無添加」、「〇〇不使用」と表示しながら、〇〇と同じ機能や似た機能を持つ他の食品添加物を使用している食品への表示をいいます。「保存料無添加」と表示しているおにぎりに、実は日持ち向上の目的でpH調整剤を使っているのがこのパターン。トリッキーな表示なので、規制は妥当でしょう。

類型5)同一機能・類似機能を持つ原材料を使用した食品への表示

 類型4と違うのは、食品添加物ではなく、原材料が〇〇と同じ機能や似た機能を持つ場合。例として、「原材料にアミノ酸を含有する抽出物を使用した食品に、添加物としての調味料を使用していない旨を表示」「乳化作用を持つ原材料を高度に加工して使用した食品に、乳化剤を使用していない旨を表示」が挙げられています。ただ、通常なら食品添加物を使うところを材料で代替するのは企業努力です。これに関しては厳しすぎると感じました。

類型6)健康、安全と関連付ける表示

 体によいこと、安全であることの理由として、無添加あるいは不使用を表示している場合。結果として、食品添加物を体に悪く、危険であるとイメージさせてしまいます。実際、平成29年度に消費者庁が行った調査で、不使用表示のある商品を購入する理由の72.9%が「安全で体によさそうだから」でした。

 食品添加物は食品安全委員会による安全性の評価を受け、人の健康を損なうおそれのない場合にかぎり使用が認められるもの。食品添加物はそんなに危険なのでしょうか?

類型7)健康、安全以外と関連付ける表示

 おいしさ、賞味期限及び消費期限、食品添加物の用途等と関連付けている表示をいいます。例としては「おいしい理由として無添加あるいは不使用を表示」「開封後に言及せず、保存料不使用なのでお早めにお召し上がりくださいと表示」「商品が変色する可能性の理由として着色料不使用を表示」してあるもの。無添加だとおいしそうに感じてしまいがちですが、因果関係の科学的実証は困難です。

類型8)食品添加物の使用が予期されていない食品への表示

 たとえば、ミネラルウォーターに「保存料不使用」、ドライフルーツのイチゴに「着色料不使用」と表示してある場合。一般的に食品添加物を使用しない商品では特に、不使用表示がない商品よりも優れていると読み取るおそれがあります。

類型9)加工助剤、キャリーオーバーとして使用されている(又は使用されていないことが確認できない)食品への表示

 加工助剤とは、食品として完成する前に除去されたり、最終食品中にごくわずかなレベルでしか残らず影響を及ぼさなかったりするもの。キャリーオーバーとは、食品の原材料の製造・加工で使用され、その食品の製造には使用されない食品添加物で、最終食品中では微量となって食品添加物そのものの効果を示さないもの。

 原材料には保存料を使用しているのに、加工時に使わなかったことから「保存料不使用」と表示するのが、これに当たります。

類型10)過度に強調された表示

 無添加、不使用の文字が過度に強調されている表示を指します。なにが過度かは受け取る側によりますが、具体的には、パッケージの多くの箇所に、過剰に目立つ色で、〇〇を使用していない旨を記載したり、保存料、着色料以外の食品添加物を使用している食品に大きく「無添加」と表示し、その側に小さく「保存料、着色料」と申し訳程度に書いてあったりするもの。どちらも、よくあるパターンです。

買物するとき食品表示と添加物の有無を選択の動機にする人は少なくない
買物するとき食品表示と添加物の有無を選択の動機にする人は少なくない写真:イメージマート

根深い「自然=善」「人口=悪」の図式

 全体を見ると、かなり厳しいガイドラインになっています。消費者庁は、パッケージの切り替えなど、食品会社がガイドラインに基づく表示の見直しをするのに2年程度の期間を設けていますが、これまで不使用をキャッチフレーズにして人気を得てきた食品会社、不使用食品の販売に力を入れてきた食料品店、消費者団体の反発や戸惑いは大きいようです。それでも今後、無添加・不使用表示は確実に減っていくでしょう。

 そもそも、このガイドライン策定にいたった背景には、消費者の食品添加物に対する根深い嫌悪感や不信感があります。

 食品添加物は第二次大戦前から使われていましたが、種類と使用量が増えるのは戦後。まだ貧しく食料が欠乏していた頃は、危険な化学物質が乱用されて死亡事故も起こっています。

 1948年に食品衛生法が制定され、最初に認可された食品添加物は61種類。食中毒で大勢の人が死んだ時代なので、食品の腐敗や酸化を防ぎ、品質を保つ防腐剤や保存料、酸化防止剤、防カビ剤、殺菌剤、殺虫剤などは、認可された種類を定められた基準量で用いれば、リスクを低減してくれる救世主になりました。

 問題は、見た目をおいしそうに見せるために使われた添加物。もっとも多かったのが、オーラミン(黄色染料)で真っ黄色に染めたたくあん漬けや、マラカイトグリーン(青緑色染料)染めの緑茶やワカメなど、食用には禁止されている紙・皮革・繊維用の有害色素で色づけた事例です。その後オーラミンは主婦連合会(主婦連)の粘り強い運動で使用全面禁止になり、添加物に対する消費者運動の最初の成果として記録されています。

 さらに、高度経済成長期から70年代にかけては食と農の工業化が進み、大量投与された農薬、化学肥料、食品添加物などの化学物質が、国民にさまざまな健康被害をもたらしました。その結果「化学物質は危険」で「自然、天然なら安心・安全」という考え方が社会に広く共有されるようになったのです。

以前はのせたご飯が黄色く染まったたくあん漬けだが、現在は自然な黄色に
以前はのせたご飯が黄色く染まったたくあん漬けだが、現在は自然な黄色に写真:イメージマート

食品表示は消費者の選ぶ権利を保障する大切な情報

 こうした負の歴史を経て、国は食品の安全性と消費者の権利を重視するようになりました。現在、食品添加物はさまざまな検査を通し、国が安全性を認めたものだけが使われ、使用量は目的のための最低限で、健康に影響を及ぼすことがない量に定められています。

 それでも、食品添加物がなんとなく健康に悪そうなイメージは根強く心の中に残っていて、頭では理解していても避けている人は少なくありません。わたしも実はそうで、あえて不使用表示の食品を選択はしませんが、パッケージの裏側を見てあまりにも多くの添加物が記載されていると買うのをやめてしまうことがあります。

 食品表示は、消費者が自分の食べるものを正確に知る権利と、自分にとって安全な食べ物を適切に選ぶ権利を保障する、とても大切な情報。パッケージの表側に表示されなくなっても、裏側の表示を読めば、なにが使ってあり、なにが使われていないかを正確に知ることができます。

 無添加・不使用表示が抑制されることが、自分の思いこみや偏見を見直すと同時に、あらためて消費者の権利や食品の安全性を考えてみるよい機会になるかもしれません。そのうえで、食品添加物を使わない食品を選ぶ、選ばないを自由に決めていけばよいのです。

食文化研究家/料理編集者

『シェフ・シリーズ』『暮しの設計』(ともに中央公論社)編集長をつとめるなど約350冊の料理書を手がけ、流行食を中心に近現代の食文化を研究・執筆。第3回「食生活ジャーナリスト大賞」ジャーナリズム部門大賞、Yahoo!ニュースエキスパート「ベストエキスパート2024」コメント部門グランプリ受賞。著書に『熱狂と欲望のヘルシーフード−「体にいいもの」にハマる日本人』(ウェッジ)、『ファッションフード、あります。−はやりの食べ物クロニクル』(ちくま文庫)、『〈メイド・イン・ジャパン〉の食文化史』『カリスマフード−肉・乳・米と日本人』(ともに春秋社)など。編集プロダクション「オフィスSNOW」代表。

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