辞任を巡り対立する日大理事長と副学長 根本的に誤っている薬物犯罪への認識
日本大学の沢田康広副学長に対する辞任要請を巡り、副学長と林真理子理事長の対立が明らかとなった。9月4日の2人の会話が録音されており、そこでのやりとりを見ると、両者とも薬物犯罪の重大性や深刻さに対する認識が根本的に誤っていることがわかる。
どのような会話だった?
副学長に対する辞任要請そのものは、理事長らの自己保身や私学助成金の確保といった不純な動機によるもので、ガバナンスの欠如が明らかだが、薬物犯罪に関するやりとりに限ると、特に気になったのは次のような部分だ。
林 去年の話だって1回吸っちゃったって言ったけれど物がないんだったら犯罪にはならない。それは私はありえる話だと思うんですが、みんなは許されないとそこで言ってるわけで、私はそこで大麻なんて吸ったって犯罪にならないんだから、それ去年吸ったって言って何が犯罪になるって言ったら本当に袋だたきですよね。だから社会はそういうもんだと思う。
沢田 別に1回吸ったからなんだってそんなことを申し上げたことは私は1回もないですが。
林 犯罪じゃないんでしょ。
沢田 犯罪じゃないですよ。
(中略)
林 先生はっきり言って12日間お持ちになってた、それは大きいことだと思います。それは学長にお話になりましたか。
沢田 はい。
林 私それは学長から聞いてない。
沢田 それは私知りません。私は学長から理事長とも共有すると言われました。
林 いやいやそれは。
沢田 学長がそう言ったんですよ、だから当然学長が理事長にそう報告したと私は思うしかありませんよね。私はいちいち理事長に聞いてますかって。
林 でもそれを聞いたのは記者会見の前に部長から聞いたんです。
沢田 だから私は学長にそう申し上げてるんです。
林 先生すっごい分かるんですけど、ご自分が正しいことをしたっていうのも分かるんですけど世間がほんとに何も分かってない人たちばっかりで12日間持っていてちゃんと警察と連携取ってたって言ってもそんな風に言ってるマスコミどこにもないですよ。先生が隠蔽のために隠したってことになっちゃって。それが私たちにとってすごく大きいこと。先生が真実は違うんだっておっしゃってもそういうことになってるんですよね。
使用には所持や譲り受けが伴う
理事長も副学長も、大麻を吸っても犯罪にならないという点にこだわっており、確かに大麻取締法には通常の使用を処罰する規定はない。しかし、吸引して使用するということは、その時点で必ず同時に所持罪を犯していることになる。遡ると、その大麻を密売人から入手しているわけだから、譲り受け罪まで犯している。所持や譲り受けには処罰規定がある。
また、「大麻という現物がなければ犯罪にならない」という趣旨の発言も間違いだ。確かに、使い果たされていて残っていなければ鑑定できない。尿鑑定が実施でき、陽性の結果でも出ていない限り、間違いなく大麻だったという客観的な立証は困難だ。その意味で、大麻取締法の所持罪や譲り受け罪に問うことはできない。
しかし、規制薬物の蔓延を防止する観点から、麻薬特例法の中に大麻取締法よりも成立要件が緩和された特別な所持罪や譲り受け罪が設けられている。
たとえ譲り受けた大麻がすでに吸い終わってなくなっていたとしても、スマホで密売人とやり取りした際のメッセージや売買の記録などそれ以外の証拠があり、大麻所持といった薬物犯罪を行う意思をもって「薬物その他の物品」を規制薬物である大麻だとして譲り受けたという事実が立証できれば、麻薬特例法の譲り受け罪に問うことができる。「薬物その他の物品」ということだから、譲り受けた物が大麻で間違いなかったという立証すら要しない。
現に、2人目に逮捕された部員については、大麻という物証こそ残っていなかったものの、入手状況などに関する捜査の結果、容疑が固まったとして、麻薬特例法の譲り受け罪で立件されている。大麻取締法違反だと懲役5年以下だが、現物が残っていない分、麻薬特例法違反では懲役2年以下と軽くはなっているものの、それでも犯罪であることは確かだ。
さらに付言すると、1人目の部員は大麻だけでなく覚醒剤の錠剤の件でも逮捕され、麻薬特例法の所持罪で起訴されている。日大アメフト部の薬物汚染について、単なる軽微な大麻の事件であり、それも処罰規定がない使用についての話だから、さほど重大な問題ではないといった日大の認識は全くの誤りだ。
今後の捜査の焦点は?
日大は、理事長や副学長らの会見で、昨年から問題となっていたアメフト部員による大麻使用などの件について、事前に警察関係者に相談していたものの、本人からの申告のみでは立証が困難だと言われたなどと説明していた。しかし、警察はそうした事実は一切ないと強く反論している。警察に責任転嫁をしようという日大の態度に警察関係者が強い怒りを覚えている模様だ。
すでに別のメディアでは、大麻などの違法薬物を使用した疑いがある部員が十数人に上るとか、部の寮以外に一部の部員が自宅でも使用したと話しているとか、最初の逮捕者が出る1か月前ごろまで使用していたと話した部員がいるとも報じられている。
逮捕者が増えているところからも明らかなとおり、警察は部内や学内の一部で規制薬物がまん延していた疑いを抱き、OBを含めて幅広い捜査を進めているものと思われる。
日大側が寮内で植物片などを確認してから警察に連絡するまで約2週間も経過しているが、何らその正当性は認められないし、少なくともそれが大麻だという未必的な認識があったわけだから、大麻取締法の所持罪が成立しうる。
部員の尿から規制薬物の成分が検出される期間が過ぎるのを待っていたのではないかとか、関係者に口裏合わせや薬物破棄の時間的猶予を与えたのではないかといった疑惑も払拭されていない。単に知りながらすぐに警察に通報しなかっただけでなく、隠ぺい工作や口裏合わせなどに積極的に関与していたのであれば、犯人隠避罪も成立する。
警察が日大関係者による大麻所持罪や犯人隠避罪にまで踏み込み、新たな展開を迎えるか否かが、大きな焦点となるだろう。現に先ほどの会話の中には、理事長の副学長に対する次のような発言もある。
「あるところから、先生が事情を警視庁から聴かれるんじゃないかという情報も入ってまして、私たちは急いでいまして」
「先生は近いうちに呼ばれるという情報が入ってきている。それは非常にスキャンダルになる」
今後の捜査の推移が注目される。(了)