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『仮面ライダーBLACK SUN』で過酷な14歳のヒロイン。西島秀俊にもらった言葉と強くなる覚悟

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)石森プロ・東映 (C)「仮面ライダーBLACK SUN」PROJECT

昭和の終わりに人気を博した『仮面ライダーBLACK』をリブートして配信中の『仮面ライダーBLACK SUN』。『孤狼の血』シリーズの白石和彌監督、西島秀俊と中村倫也のW主演で、人種差別をテーマに据えた大人向けの作品として話題を呼んでいる。シリアスな世界観の中、14歳の人権活動家というヒロインを演じているのが平澤宏々路だ。撮影当時はリアルに14歳で、過酷な運命に立ち向かう役を悲しみを秘めながら力強く演じ切った。

役の抱えているものがとんでもなく大きくて

人間と怪人の共存が掲げられつつ、人の姿で暮らす怪人たちが虐げられる2022年が舞台の『仮面ライダーBLACK SUN』。差別撤廃を訴える14歳の人権活動家・和泉葵(平澤宏々路)が出会った南光太郎(西島秀俊)は、怪人の頂点となる次期創世王の候補、ブラックサンへと変貌。もう1人の候補、シャドームーンとなる秋月信彦(中村倫也)も動き出し、葵も戦いに巻き込まれていく。

平澤宏々路は中学3年ながら、すでに数々の作品に出演し、スタジオジブリの3DCGアニメ『アーヤと魔女』では主人公の声優を務めた。最近では、NHK夜ドラ『つまらない住宅地のすべての家』で吉行和子の孫を演じている。

――『仮面ライダーBLACK SUN』は大人向けの作品ですが、もともと『仮面ライダー』にはどんなイメージがありました?

平澤 あまり詳しくなかったです。ただ“カッコいい、憧れる”というだけでなく、根底にテーマ性があって考えさせられるシリーズ、というイメージはありました。

――オーディションでは国連でのスピーチの日本語バージョンなどのシーンを演じたと制作サイドに聞きましたが、受かって台本を読んでから「とんでもない作品に受かってしまった」と感じたと、コメントされていました。差別とか大きなテーマも描かれていたからですか?

平澤 まず白石監督の世界観があって、その中で葵も他のキャラクターもそれぞれ抱えているものが、とてつもなく大きくて。選ばれたことが嬉しかったのと同時に、この作品の世界で生きていくことに対して、覚悟がいると思いました。

ひとりぼっちになっていく悲しさはありました

――白石監督のこれまでの作品は女子中学生向けではなかったと思いますが、今回の『仮面ライダーBLACK SUN』も、出演した宏々路さんは15歳ながら「18+」になりました。

平澤 友だちに勧められないので、「大人になったら一緒に観ようね」と話しています(笑)。

――でも、そんなハードな世界で過酷な戦いに挑む役を、当時14歳で演じ切れたのは宏々路さんだけだったかもしれません。

平澤 いえいえ。でも、周りの人がどんどん目の前で倒れていって、ひとりぼっちになっていく悲しさはありました。だから葵に寄り添いたい、自分が葵の一番そばにいる……という意識はずっと持っていました。

――葵は「殺してやる」とか過激な台詞もありつつ、何ごとにも屈さない強さを感じました。

平澤 自分が信じたものを貫くことは、ずっと頭の中に入れて演じていました。和泉葵として怪人差別と闘うことも、光太郎に対する気持ちも全部貫こうと。

『レオン』のマチルダをイメージしました

――イメージした人物像もありましたか?

平澤 台本を読んでパッと思い浮かんだのは、『レオン』のマチルダです。衣装合わせのときにそのイメージを白石監督に話したら、大きくうなずいてくださいました。髪型もマチルダのように短くしたいと提案して、「いいね」と受け入れてくださいました。

――あの葵の強さは、宏々路さん自身から滲み出た部分もありますか?

平澤 私はあそこまで大変な経験はしたことはありません。でも、何かひとつのことに真っすぐになるのは、少し近い部分かもしれません。

――1話ではクモ怪人に襲われて、カバンで殴り掛かっていきました。怪人は間近で見ると、迫力ありました?

平澤 映像で観ると怖いですよね。現場では意外とかわいらしかったです(笑)。目がまん丸だったり、造形が細かく作られていて。動物園に行くような感覚で「今日はどんな怪人がいるのかな」って、ワクワクしながら撮影していました(笑)。

どのシーンでも感情を大きく動かして

――葵には泣いたり叫んだりするシーンもたくさんありました。

平澤 泣く芝居がここまで多い作品は、今までなかったです。どのシーンでも感情を大きく動かして、強く出さないといけない感じでした。

――両親をさらったビルゲニアに対し、「全部お前らのせいか!」と怒りをぶつけたりもしていました。

平澤 あそこはすごく悩みました。強く叫ぶのもいいけど、ビルゲニアを前にして怒りがジワッと湧いた感じでもいいかなと。結果的には、ビルゲニア役の三浦(貴大)さんやお母さん役の内田(慈)さんの演技を受けて、ああいうふうに言いたくなりました。

――宏々路さんが普段、あそこまで怒ることはないですよね?

平澤 普段は「怒っているように見えない」と言われますし、そもそも怒ることがそんなになくて。のん気な性格かもしれません(笑)。

カットが掛かっても涙が1日じゅう止まらなくて

――でも、役に入ればあれだけ怒りを露わにできると。泣くシーンの中では、光太郎が復活する場面では特に涙が溢れたようでした。

平澤 あの日は1日じゅう、ずっと泣いていました。西島さんの顔を見てはポロポロ涙が出て、カットが掛かっても止まらず、ポタポタ落ちてしまって。西島さんに「大丈夫?」と声を掛けていただきました。

――どんな精神状態だったんでしょう?

平澤 葵として生きている時間が長かったからか、すごく感情移入してしまって、気持ちが大きく揺れました。

――泣くことは普段もありますか?

平澤 現場以外で人前で泣くことはあまりないです。やっぱりのん気なのかも(笑)。大泣きしたこともたぶんなくて、あのシーンで「涙ってこんなに出るものなんだ」と自分で驚きました。ただ、劇中での関係性ができていたら、役のままでいられるので、泣くシーンを大変と感じたことはあまりないかもしれません。

想像力を必死に働かせていました

――葵の光太郎に対する気持ちは、どう捉えました?

平澤 すごく不思議な関係ですよね。家族でも友だちでもない。でも、お互いを思って信頼もあって、対等でいる。葵は助けてもらった恩も感じていて、親に向けるのと近い愛情が生まれているのかなと思いました。

――怪人にされるシーンもキツかったのでは?

平澤 参考資料もなければ、もちろん経験もないので(笑)、どんな痛みがあって、どういうふうに自分が変化していくのか、わからない状態で撮影が始まりました。だから、感情的にキツいというより、想像力を必死に働かせないといけなくて。叫んでいたので感情も動いていたと思いますが、それ以上に頭のほうがすごく回っていました。

――そうしたメンタル的にエネルギーを使うシーンを撮ると、ヘトヘトになる感じでした?

平澤 泣いたり叫んだりするから、ノドが乾きました。スタッフさんからハチミツの差し入れをいただいて、たぶんあれがなかったら、ノドを潰していたかもしれません(笑)。

画面の先にもキャストの皆さんにも届くように

――特に手こずったシーンはなかったですか?

平澤 たとえば段取りで動いてみて、自分の中でちょっとでも違和感があったら、全部監督に「こうしたいです」と相談しました。8話でビルゲニアと対峙したシーンは、葵は最初歩いている芝居だったんです。でも、実際に歩いてみたら、悲しみとかいろいろあって動けなくなって。

――その前に友だちの俊介が死んだりしていました。

平澤 監督に「座りたいんですけど、どうでしょうか?」と聞いてみたら、「そのほうがいい」と、段取りを1からやり直してくださいました。

――ヘヴィな展開が続く役で、撮影期間中に苦しくなったりはしませんでした?

平澤 撮っている間は葵として生きているので、むしろだんだんとその世界に馴染んでいきました。作品の大きなテーマや感情を画面の先の皆さんにも、目の前のキャストの方たちにも届けないといけない。そういう意識がずっとありました。

――終盤のクライマックスでもまた、号泣シーンがありました。

平澤 あれもすごく悩みました。台本では台詞以外は何も書いてなくて、監督も「自由にやっていい」と言ってくださって。段取りでは呆然と立ち尽くすパターンも試しました。でも、あそこで本当に1人になってしまう葵が、このあとどう動くのか考えたとき、あれが自分の中で一番納得できる形でした。

英語のスピーチはあとから長いと気づきました

――国連での英語のスピーチはだいぶ練習したんですか?

平澤 たくさんしました。撮影前から英語の先生が付いてくださって、オンラインでレッスンを受けたり。毎日あの台詞を聴いて声に出して読むことは、撮影中も常にしていました。

――その成果が本番で発揮できたようですね。

平澤 英語の長文の台詞は初めてでした。撮っている最中は、とにかく伝えることと発音を間違えないことに集中していたので、あまり長いと気づかなくて(笑)。あとから読み返してみて、「結構長かったんだな」と思いました。

――9話ではスマホからのさらに長い演説がありました。「あなたはどうして怒らないの? これはあなたが生きてる世界に起こってることなんだよ」といった訴えは、たぶん監督的には物語を超えたメッセージを託されていたと思いますが。

平澤 私はあのときは葵だったので。葵が経験して感じたものをすべて乗せたいと思っていました。画面を真っすぐ見て話すのは、すごく伝えたいことがあるんだなと感じました。

――この作品のテーマになっている差別の問題について、宏々路さんが中学生なりに考えたこともありました?

平澤 撮影に当たって、デモに関する資料や国連で演説している方の映像を見ました。差別はなかなか難しい問題で、作品の世界観的に重要なことでもあって。自分1人で考えるというより、現場で西島さんや中村さんを通じて伝わってくるものがあったので、そこを手掛かりにしていきました。

カマを手に付けたり特殊なアクション練習をして

――葵が光太郎に「戦い方を教えて」と言って、アクションもありました。

平澤 体を動かすのは好きです。でも、護身術は経験なくて、カマキリのカマが手に付いた状態でのアクションは、もっとやったことがありませんでした(笑)。

――そうでしょうね(笑)。時間も掛けて練習したんですか?

平澤 たくさんやりました。撮影前に時間をいただいて、基礎の動きやパンチ、キック、あと、光太郎に教わる護身術も習いました。受け身のアクションは過去にもやりましたけど、自分から攻撃を仕掛けるのは新しい体験でした。

――楽しくなってきたり?

平澤 ワクワクする高揚感がありましたね。カマを付けた練習のときは、アクション部さんが段ボールでカマを作ってくださって。手に持てる形でリーチの感覚を掴んで、どうやったら安全にカッコ良く見えるか、研究しました。

――ゴルゴムから天井裏を這って逃げるシーンは大変でした?

平澤 俊介役の木村(舷碁)くんと2人で、体力をたくさん削りました(笑)。でも、1人だったら寂しかったと思うので、良かったです。ライトが熱くてムシムシしたサウナみたいな状態だったので、扇風機を回しながら、待ち時間に2人でいろいろな話をしました。

変身シーンは力と共に感情も込めました

――葵の変身シーンも見せ場になりました。

平澤 台本をもらった時点では自分が変身するとは知らなくて、撮影の中盤に現場で「変身シーンがあるから、よろしくね」と言われました。最初は冗談かと思いましたけど(笑)、だんだん撮影する日が近づいてきて。ポーズは当日に監督が指導してくださるということで、どんなふうになるのかワクワクしながら、昔の『仮面ライダーBLACK』の倉田てつをさんの変身シーンを観たりしました。

――準備はしていたんですね。

平澤 西島さんの変身ポーズは直接見られなくて、「キレがいい」「声もカッコいい」と聞いていたので、私も気合いが入りました。どうやったらカッコ良く、力強く見えるか、ずっと考えていました。

――何かコツは掴めました?

平澤 振りでなく実際に力をガーッと込めることと、何を思ってこうしているのか、感情も入れることを意識していました。

自分の役でもみんなで作っていく感覚に

――これから長く続く宏々路さんの女優人生の中でも、『仮面ライダーBLACK SUN』はひとつ大きな作品になったのでは?

平澤 二度とできない大切な経験になりました。他のキャストの方々の演技を間近で見て、役に対する向き合い方が変わったり、本当にたくさんの刺激をいただきました。

――役への向き合い方がどう変わったんですか?

平澤 これまでは自分で考えて作り上げた芝居を現場で披露しようとしていたんです。今回は西島さん、三浦さん、木村くん……と他のキャストの方から感じたものを受け取って、その場で役を作っていくことができました。自分の役ではあるけど、みんなで作っていく感覚になったことが、一番変わったところです。

――葵のような強い役を演じて、自分自身も強くなったりもしませんでした?

平澤 たくさんの方の強さや想いがこもって、ああいう役になったのかなとは思います。現場で西島さんが「娘のように接するから」と言ってくださったんです。そんな形でお芝居をするからには、こちらも普通の準備だけでは足りない。西島さんの演技に負けないようにするためには、自分も強くならなければいけない。そういう覚悟ができたのは大きかったかもしれません。

体を自由に動かせたら表現の幅も広がるので

――現在、中学3年生ですが、この1年で学校での思い出もできました?

平澤 大きなイベントより、友だちとの何気ない時間が一番好きです。休み時間にゆったり話をしているような日常が、あとで振り返ると特別なものに感じるのかなと思います。

――仕事もしながらだと、テスト前は大変ですか?

平澤 正直、大変です。友だちと電話を繋ぎながら勉強したり、わからないところを教え合ったりしています。1人でやっていると行き詰まってしまうので、「今、何をしているの?」「課題は終わった?」とか話しながら、楽しくできるようにしています。

――年末年始はどう過ごすんですか?

平澤 家族みんなでゆっくり過ごしたいです。どこかに出掛けるより、家でペットのチンチラと遊べたら(笑)。

――来年、高校生になったら、楽しみなことはありますか?

平澤 友だちと遠出して、日帰り旅行ができたらいいなと思います。放課後に原宿とかも行ってみたいです。

――仕事も広がりそうですね。

平澤 やりたいことはたくさんあります。でも、何かひとつやり続けて、習慣を作ることも心掛けたいです。今回アクションをやって、体作りをしたいなと思いました。もっと体を自由に動かせるようになったら、表現力の幅も広がると思いますし、演技をするうえで重要なことなので。そこは継続していきたいです。

(C)石森プロ・東映 (C)「仮面ライダーBLACK SUN」PROJECT
(C)石森プロ・東映 (C)「仮面ライダーBLACK SUN」PROJECT

Profile

平澤宏々路(ひらさわ・こころ)

2007年9月21日生まれ、東京都出身。

2019年に研音に所属。主な出演作はドラマ『わたし旦那をシェアしてた』、『浦安鉄筋家族』、『生きて、ふたたび 保護司・深谷善輔』、『つまらない住宅地のすべての家』、映画『貞子3D2』、『ミックス。』、『水上のフライト』、『アーヤと魔女』(声優)など。配信ドラマ『仮面ライダーBLACK SUN』(Prime Video)に出演。

『仮面ライダーBLACK SUN』(Prime Video)

監督/白石和彌 出演/西島秀俊、中村倫也、三浦貴大、平澤宏々路ほか

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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