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「北方限界線に異常あり!」 米CIA出身の北朝鮮問題専門家が「軍事衝突の可能性」を警告!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
韓国軍が固守する北方限界線(NLL)と北朝鮮が主張する海上境界線

 軍事境界線を挟んだ「相手を圧倒する」ための今年の南北の軍事演習が例年以上に激しさを増している最中、今年1月に北朝鮮専門メディア「38ノース」に元ロスアルモス国立研究所研究所長のジークフリード・ヘッカー博士と共同で投稿した文で「朝鮮半島は1950年6月25日(朝鮮戦争勃発)直前の状況にある。最も危険だ」と戦争勃発の可能性を憂慮していた美CIA出身の米ミドルベリー国際研究所のロバート・カーリン研究員が昨日(27日)ウィーンで開かれた国際セミナーで「金正恩(キム・ジョンオン)は引き続き戦争を準備しており、黄海(西海)で軍事衝突が発生する可能性が高い」と主張していた。

(参考資料:非武装地帯4kmを挟んでの南北の熾烈な軍事訓練 「攻める」人民軍に「反撃する」韓国軍)

 カーリン研究員はその根拠として金正恩総書記が今年1月に最高人民会議で「我が国家の南の国境線が明白に引かれた以上、不法無法の『北方限界線』(NLL)をはじめとするいかなる境界線も許されず、大韓民国が我々の領土、領空、領海を0.001ミリでも侵犯するならば、それは即、戦争挑発と見なす」と発言をしたことを挙げている。同時に今年1月に日本海(東海)に向け潜水艦発射戦略ミサイルの試射を視察した際に西部戦線の部隊を視察させたことも根拠の一つに挙げていた。

 北朝鮮ミサイル・核問題の専門家として知られる両人は「あまりにも衝撃的に聞こえるかもしれない」と前置きし、「我々は金正恩の祖父が1950年にそうしたように金正恩が戦争をする戦略的決断を下したとみている」と述べ、「金正恩がいつ、どのように引き金を引くかは分からない」としながらも「戦争の危険性は米国と韓国などが日常的に行ってきた警告をはるかに越えるレベルだ」と朝鮮半島の現状を憂慮していた。

 おそらく、金総書記が昨年12月の労働党中央委員会総会で「戦争という言葉はすでに我々に抽象的な概念ではなく、現実的な実体として迫っている」と述べ、「万一の場合、核戦力を含む全ての物理的手段と力量を動員して南朝鮮の全領土を平定するための大事変の準備に引き続き拍車をかけていくべきである」と発言したことから両人はそうした危機感を共有したようだ。

 カーリン研究員とヘッカー博士が「38ノース」に寄稿したのは今年1月11日頃だが、それ以後の軍事情勢をみると、確かに軽視できない状況が続いている。まず、海の軍事境界線と称されているNLLに関する南北の動きを時系列でチェックすると;

1月5日 人民軍第4軍団の西南海岸防御部隊が午前9時~11時まで白●島と延坪島の北方で200発余の沿岸砲射撃を実施。砲弾はNLL北側の7km海上緩衝区域に落下。北朝鮮が海上緩衝区域で射撃訓練を実施したのは2022年12月に東部の江原道・高城郡から日本海(東海)に向けて砲撃を行って以来1年1カ月ぶりのことである。

1月5日 韓国海兵隊第6旅団と延坪島に駐屯する延坪部隊が午前12時に島住民を退避命令を出し、午後3時から3時45分まで白●島付近で自走砲K9や戦車砲を動員し、400発発射。砲弾はNLL北側の海上緩衝区域に落下。

1月6日 人民軍第4軍団の西南海岸防御部隊が午後4~5時頃、NLLに近い延坪島の北西で砲弾を約60発発射。砲弾がNLL南側に飛んで来なかったことから韓国軍は対応射撃をしなかった。

1月7日 金与正(キム・ヨジョン)党副部長は談話を発表し「(昨日は)1発も発射せず、砲声を模擬した発破用の爆薬を60回爆発させただけだ。(韓国に)恥をかかせるための欺瞞作戦だった。それなのに韓国軍は図々しくも弾着点まで西海の『北方限界線』北方の海上緩衝区域に落ちたという嘘をついた」と、韓国の対応を嘲笑った。

1月8日 韓国軍は北朝鮮が6日に「黄海上の韓国の北西諸島付近で砲撃を実施した前後に約10回にわたり爆薬を爆発させていた」と発表。

1月15日 金総書記が最高人民会議第14期第10回会議での施政演説で「我が国家の南の国境線が明白に引かれた以上、不法無法の『北方限界線』をはじめとするいかなる境界線も許されず、大韓民国がわれわれの領土、領空、領海を0.001ミリでも侵犯するなら、それはすなわち戦争挑発と見なす」と、韓国を威嚇。

1月24日 北朝鮮が午前7時頃、黄海で新型戦略巡航ミサイル「プルファサル(火矢)―3―31」を試射。巡航ミサイル発射が確認されたのは昨年9月2日以来のことである。

1月30日 北朝鮮が午前7時頃、黄海に向けて巡航ミサイル「ファサル(矢)2」の発射訓練を実施。

2月2日 北朝鮮が午前11時頃、黄海に向け種類不明の巡航ミサイルを数発発射。

2月16日 韓国の申源湜(シン・ウォンシク)国防部長官は陸軍地上軍作戦司令部を訪問し、「北朝鮮がNLLの韓国側に挑発行為を行った場合、『即刻、強力に、最後まで』の原則に基づいて断固として懲らしめ、挑発勢力と支援勢力の両方を完全に焦土化せよ」と指示。

2月28日 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は陸軍学生軍事学校で行われた「学軍将校」任官式でのスピーチで「北朝鮮が4月の総選挙を前に、(韓国国内の)社会混乱と国論分裂を狙ってさまざまな挑発を仕掛ける可能性が非常に高い」との懸念を表明。

3月5日 北朝鮮がNLL北側地域で衛星位置確認システム(GPS)攪乱を企図。

3月7日 韓国空軍が北朝鮮の巡航ミサイルと長距離砲に対抗する射撃訓練を黄海海上の射撃訓練場で実施。

3月11日 米韓が戦闘機40機を投入し、北朝鮮の巡航ミサイルと長距離砲に対抗する射撃訓練を黄海海上の射撃訓練場で再度実施。

3月22日 尹大統領は2002年に起きた北朝鮮との銃撃戦「第2延坪海戦」の犠牲者を追悼する「西海守護の日」式典で「北が無謀な挑発を強行するなら、それ以上に大きい代価を必ず支払わせる」と警告。

 NLLでの軍事衝突の可能性については米保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」のブルース・クリングナー上級研究員も先月「北朝鮮が致命的な戦術的攻撃を再開する可能性に対するシグナルを無視するのは危険である」と指摘し、「非武装地帯や北方限界線で戦術レベルの軍事衝突が発生する公算が高い」と指摘していたが、5月になると、NLL付近でワタリガニ漁が始まる。ワタリガニ漁を巡っては南北の警備艦による衝突が過去4度あった。また、北朝鮮潜水艦の魚雷による「韓国哨戒艦(天安艦)撃沈事件」や韓国からの宣伝ビラが発端となり北朝鮮による「延坪島砲撃事件」などが起きている。

(参考資料:有事の際に「韓国を占領、平定する」訓練に明け暮れる北朝鮮)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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