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親の電子タバコが子供の肌に悪影響?アトピー性皮膚炎との関連性を専門医が解説

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【親の電子タバコ使用と子供のアトピー性皮膚炎の関連性】

アトピー性皮膚炎は、子供によくみられる炎症性の皮膚疾患の一つです。最近の研究で、親の電子タバコ使用と子供のアトピー性皮膚炎の関連性が明らかになってきました。

スタンフォード大学の研究チームは、2014年から2018年までの「National Health Interview Survey (NHIS)」のデータを用いて、大規模な横断研究を行いました。この調査では、約4800万人分の情報が収集されています。

解析の結果、電子タバコを使用する親を持つ子供は、そうでない子供と比べて、アトピー性皮膚炎のリスクが1.24倍高いことが明らかになりました(95%信頼区間: 1.08-1.42)。この関連性は、喘息、アレルギー性鼻炎、呼吸器アレルギー、親の喫煙歴、社会人口統計学的要因などの交絡因子を調整した多変量解析でも認められました。

さらに、喫煙者と非喫煙者に分けたサブグループ解析でも、同様の傾向が見られました。非喫煙者の親における電子タバコ使用は、子供のアトピー性皮膚炎のリスクを1.37倍高め(95%信頼区間: 1.05-1.78)、喫煙者の親でも1.19倍のリスク上昇が認められました(95%信頼区間: 1.02-1.39)。また、この関連性は、親が父親であっても母親であっても変わりませんでした。

電子タバコは、通常のタバコよりも健康的だと考えられがちですが、実際には電子タバコの液体やエアロゾルに含まれる成分が、皮膚の炎症を引き起こす可能性があります。子供は特に敏感であるため、親の電子タバコ使用による間接的な曝露が、アトピー性皮膚炎のリスクを高めているのかもしれません。

【電子タバコが皮膚に与える影響とそのメカニズム】

では、電子タバコはどのようにして皮膚に影響を与えるのでしょうか?研究によると、電子タバコの液体やエアロゾルの残留物にさらされたヒトの角質細胞や3次元皮膚モデルでは、酸化ストレスが増加することが明らかになっています。

酸化ストレスとは、体内の活性酸素と抗酸化物質のバランスが崩れた状態を指します。過剰な酸化ストレスは、細胞へのダメージや炎症を引き起こす可能性があります。電子タバコに含まれる成分が皮膚の酸化ストレスを増加させることで、アトピー性皮膚炎のリスクを高めているのかもしれません。

【日本における電子タバコ使用の現状と課題】

日本でも電子タバコの使用者は増加傾向にあります。健康への影響が十分に明らかになっていない中で、電子タバコの安全性について議論が必要です。

特に、子供への間接的な影響を考慮すると、親の電子タバコ使用には注意が必要かもしれません。アトピー性皮膚炎を予防するためにも、電子タバコの健康リスクについて啓発し、使用を控えるよう促していくことが大切です。

ただし、今回の研究は横断研究であるため、因果関係を明らかにするためには、さらなる調査が必要です。また、子供自身の喫煙や電子タバコ使用など、他の交絡因子の影響も考慮する必要があるでしょう。

電子タバコと健康の関係について、まだまだ不明な点は多くあります。今後も最新の研究動向に注目しながら、適切な対策を講じていくことが重要です。

参考文献:

1. Youn GM, Sarin KY, Chiou AS, Chen JK, Honari G. Parental E-Cigarette Use and Pediatric Atopic Dermatitis. JAMA Dermatol. Published online May 22, 2024. doi:10.1001/jamadermatol.2024.1283

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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