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クリぼっち、クリスマスうつ、ウインターブルー、孤独感との付き合い方の心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:2019年 クリスマスイルミネーション 東京・恵比寿(写真:當舎慎悟/アフロ)

■メリークリスマス!:でも、クリスマスうつ

世間はクリスマス。明るいイルミネーション。楽しそうな音楽。たくさんのプレゼント。でも、そんな時だからこそ、落ち込む人たちがいます。

アメリカでは、「クリスマスうつ」なんていう言葉もあります。欧米のクリスマスは、日本のお正月のように、みんなが集まります。クリスマス飾りがあって、友人や家族親戚が集まって、プレゼントという愛を交換するのが、クリスマスです。

そんな時に、何にもないとしたら、それは悲しい。寂しさが身に滲みます。心が病的なまでに落ち込めば、クリスマスうつです。

■クリスマスおめでとう:でも、クリぼっち

「クリぼっち」とは、クリスマスを1人で過ごすことを表現した用語です。クリスマスのひとりぼっちが、クリぼっちですね。10年ほど前から使われるようになった言葉のようです。

「孤独は山になく、街にある。一人の人間にあるのではなく、大勢の人間の『間』にある。」(三木清)ということでしょう。

■ウインターブルーとは

季節性のうつである冬季うつ病が、「ウインターブルー」です。寒くなって、昼間の時間が長くなると、朝起きられない、だるい、寂しい、ミスが多くなる、気持ちが沈むといった症状が出やすくなります。

人間の体は上手くできていて、冬に朝起きにくくなるのは、睡眠を必要としているからです。冬は早めに寝たいですね。暖かいものが食べたくなるのも、甘いものが食べたくなるのも、それを体(と脳)が必要としているからでしょう。何となく寂しくて、人肌がこしくなるのも、それが癒しになるからでしょう。

■孤独感:ひとりぼっち

写真はイメージ(写真AC)
写真はイメージ(写真AC)

「孤独」は、今とても注目されています。イギリスでは昨年「孤独担当大臣」ができました。日本でも、NHKスペシャルや、その他多くのメディアで、孤独、孤独死、無縁社会などが話題になりました。東京23区の統計では、年間の孤独死がここ10年足らずで倍増です。

孤独は一人暮らしだけの問題ではありません。『世界一孤独な日本のオジサン』といった本も出ていますし、「育児で深い孤独や不安を感じる現代ニッポンのママたちの問題」なども、番組で取り上げられました。

ひとりでいても、心がつながっていれば孤独感に押し潰されることはありません。

古い話で恐縮ですが、世界で初めて単独ヨットで太平洋を渡った冒険家の堀江謙一さん。著書『太平洋ひとりぼっち』で有名ですが、インタービューに答えて言っています。見渡す限りの大海原に、人間は自分一人だけ。でも、みんなとつながっていると感じていたので、孤独ではありませんでしたと。

普通ひとりでいることを孤独と呼びます。その孤独は、時には孤独を楽しむこともある孤独です。音楽鑑賞や読書を一人で行うのが趣味の人もいます。そういう意味の孤独は良いのですが、悪い意味の孤独、孤立は困ります。一人が好きな人少なくないですが、ひとりぼっちは寂しいでしょう。ただ一人でいるという孤独ではなく、「孤独感」に苦しむことは避けたいと思います。

■孤独感の悪影響:ひとりぼっちって良くないよ

自分はひとりぼっちだ、みんなから除け者にされていると感じると、どうなるでしょうか。心理学の研究によると、人は自信を失っていきます。希望が消えそうになります。パフォーマンスが落ちます。弱音を人に話すことができなくなります。人を信用して、心が開けなくなるのです。さらに、攻撃的になることすらあります。

私の知り合いが、人生どん底時代の体験で、道の向こうから歩いてくる幸せそうな家族を見ると殴りたくなる、そしてそんな自分がとても情けなくなったと語っていました。

こんな孤立した生活が続くと、コミュニケーション能力も下がり、寿命も縮むという研究もあります。人との交流が少ない人は、死亡率が高まるのです。生きていれば様々な困難はやってくるのですが、その困難を乗り越える力を失っていくのでしょう。

■孤独感を超えるために:心のつながりを

写真はイメージ)写真AC
写真はイメージ)写真AC

にぎやかな場所に行っても、孤独感が募るばかりです。私がここで慰めの言葉を述べても、ほとんど効果はないでしょう。孤独感の癒しのためには、行動することが大切です。

行動といっても、外出や運動だけではありません。心の中で自分自身に語ることも含めて、行動です。ただ無気力にひとりぼっちで考え込んだりすると、ろくなことを考えません。心にも体も、ますます寒くなるだけでしょう。

あなたが今ひとりなら、一人であることの良い面も考えましょう。

一人でいる事で、人は深く考えることができます。音楽を聴き、本を開き、星空を見上げることで、あなたの心は清められ、新しい自分も見えてきます。孤独は、時に自己成長のチャンスです。そんな風に積極的に考えましょう。

考えるといっても、暗いことばかりでは困ります。一方、明るいことばかりでも困ります。表面上明るくて、元気の良いことを考えすぎよとすると、かえって自分が惨めになることがあります。

元気な時には、威勢の良いスローガンを大声で言うのも効果的ですが、心が沈んでいる時には逆効果です。ゆっくり静かに、そしてしっかり考えましょう。

たとえば、あなたが世話になった人のことを考えましょう。心の中で「ありがとう」を言いましょう。「ありがとう」はあなたを幸福にします。これは、ポジティブ心理学の研究成果です。

さらに、この1年の感謝な出来事を思い出しましょう。どんな小さな事でも、感謝な事、恵まれていることを考えましょう。どんな人にも、きっとはるはずです。どんな人にも、クリスマスはきているのですから。

そして、あなたが愛する人、心配する人のことを考えましょう。その人のために祈りましょう。遠く離れている人でも、今はどこにいるのかわからない人でも、その人の幸福と健康を祈りましょう。

もっと積極的には、その人のためにありがとうの葉書を書いたり、誰かのために募金箱にお金を入れましょう。人のためにお金を使うと、幸福感が高まるのも、心理学が実証してることです。

こうして、人との心のつながりを感じましょう。

そうすれば、孤独感が和らぐでしょう。そうすれば、来年は現実の人との交流の輪の中にもさらに入っていけるでしょう。

■クリスマスはなぜ年末にあるのか:闇の中の光

クリスマスは、イエスキリストの誕生日ではありません。聖書には、クリスマスの日に「羊飼達が夜、野宿をしていると」とあります。こんな真冬には、羊飼達は野宿をしません。おそらく、イエスキリストが生まれてのは春から夏にかけてと思われます。

クリスマスは、イエスキリストの誕生日ではなく、キリスト誕生祭です(クリスマス=クライスト・マス:キリスト祭り)。キリスト教布教以前のヨーロッパでは、太陽が一番力を失う冬至の頃に、太陽神の祭りが行われていました。

その祭りを見たクリスチャン達が、太陽を拝むのではなく、太陽を造られた本当の神様の祭りをしたいと考え、この時期にキリスト誕生祭を始めたと言われています。

クリスマスは12月25日。クリスマスイブが12月24日。

でも、クリスマスイブは、クリスマスの前夜祭ではありません。クリスマスイブは「クリスマスの夜」という意味です。

私たちの文化では、一日は日の出と共に始まります。しかしキリストが生まれた中近東では、一日は日没から始まります。だから12月25日は、今のカレンダーの12月24日の夜から始まり、25日の日没で終わります。だからクリスマスの夜(クリスマスイブ)は、12月24の夜なのです。

写真はイメージ(写真AC)
写真はイメージ(写真AC)

イエスキリストが生まれるたころ、イスラエルの国はローマ帝国の属国となっていました。この何百年、大預言者も登場していません。そんな暗い時代に、キリストは生まれました。そして、夜が最も長い季節に、クリスマスは設定されました。そのクリスマスの一日は、日没から始まります。

クリスマスには、暗闇が似合います。クリスマスは、派手に遊び歩く人のためではなく、人生の冬、人生の真夜中にいる人のためのものです。

キルストは宮殿に生まれず、馬小屋に生まれ、祝いに駆けつけたのは、差別されていた貧しい羊飼達でした。孤独と苦しみの中にある人々に、光と希望を与える。それが、クリスマスのお祭りです。

強いものが弱いものを虐げるのではなく、神の愛の中で、互いに一年の感謝を込めてプレゼントを送り合い、心の交流を感じあう。それが、クリスマスの精神です。

クリスマスにかえって寂しくなるのではなく、本当のクリスマス精神の中で、私たちの心が癒されますように。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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