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「世界史上3位」93.4m/sの強風アメリカで観測 本当か?

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
NWS出典、カークウッドの風のデータに筆者加筆

「幻の気象記録」の代表格に、世界最高気温の58.0℃というのがあります。これは1922年にリビア・エルアジジアで観測され、長いこと世界一の記録として認知されてきた気温です。

ところが2012年、観測者が未熟だったなどの理由から、世界気象機関によりこの記録が抹消されることになりました。

しかしながら、代わって一位となったアメリカ・デスバレーの56.7℃の記録も、その信ぴょう性が疑問視されています。

カリフォルニアで秒速93.4メートルの風

「出る杭は打たれる」ではありませんが、その記録がいまだかつてない規模であればあるほど、その正当性が疑われるものです。

先日アメリカで観測された風の記録も、疑いの目がかけられています。

その記録というのが、9日(日)にカリフォルニア州北部カークウッドで観測された、最大瞬間風速秒速93.4メートル(時速209マイル)の風です。カークウッド観測所は、標高3,000メートルの山の上にあります。

州気象局のデータを見てみると、朝7時45分に東北東の時速209マイルの強風が観測されているのがわかります。

この風は、カリフォルニア州の観測史上1位、アメリカの観測史上2位、そして世界の観測史上3位の記録です。

信ぴょう性は?

気象台は、この記録が出た翌日に下記のような投稿をしています。

(訳: 精査した結果、カークウッドで報告された時速209マイルの突風は疑わしい。強風時の相対湿度92%など、いくつかのエラーがある。この観測地では、過去数日間風が異常に強かった。)

つまり、測器に問題があった可能性があるというわけです。この記録は今後検証されることとなりそうです。

ただ強風があったことは事実で、サンフランシスコでは、超高層ビルのミレニアム・タワーの41階の窓が割れ、空から破片が落ちてきたといいます。

史上最速風速は?

ところで世界の風の最速記録はどのくらいなのでしょうか。

それは、1996年にオーストラリアで観測された113m/sです。サイクロン「オリビア」の目の壁に伴って、豪州北西部のバロー島で観測されました。驚くことに、こんな強風にもかかわらず、観測器は壊れなかったそうです。

世界第2位の記録は、1934年にアメリカ・ニューハンプシャー州にあるワシントン山で観測された103m/sというものです。

この値は、有人観測の世界記録でもあります。人が測ったとだけあって、当時の様子が書き残されています。観測員はこの記録を見た瞬間、「みんなこの記録を信じてくれるだろうか。いや、観測の仕方は正しかっただろうか」と心配になったそうです。

日々の努力に感謝

近年、「観測史上一位の記録」というものをよく目にする機会が増えています。そうした現在の異変を知れるのも、観測員や測器が、日々正確なデータを取り続けてくれているからに他なりません。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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