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“あり”か“なし”か? ライス元国務長官が女性初のNFLヘッドコーチ就任という現実味

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
NFLブラウンズの次期HC候補として名前が挙がったコンドリーザ・ライス元国務長官(写真:ロイター/アフロ)

 米最大のスポーツ専門TV局のESPNは現地18日、NFLのクリーブランド・ブラウンズが次期HC候補として元国務長官のコンドリーズ・ライス氏と面接したい意向があると報じた。

 ESPN公式サイトに掲載された記事によれば、リーグ関係者からの話として、ブラウンズは来シーズンに向けた次期HCへの選定作業に入る中、候補の1人としてライス氏を加えたいとしている。もしライス氏が面接を受けることになれば、HC候補として女性が面接を受けること自体がリーグ史上初の出来事になるという。

 ブラウンズは先月29日に成績不振を理由にヒュー・ジャクソンHCを解任し、ディフェンシブ・コーディネーターだったグレッグ・ウィリアウムス氏を臨時HCに任命した。さらに同チームのジョン・ドーシーGMが次期HCについて言及し、女性コーチ採用についても前向きな姿勢を示しており、その中で今回ライス氏の名前が飛び出したわけだ。

 ライス氏といえば、ジョージ・W・ブッシュ大統領政権時に2001年1月から4年間国務長官を務めた人物だ。最近は2013年から3年間大学フットボールのプレーオフ選考委員会の委員を務めたり、今年は大学バスケの改革委員会に名を連ねるなど、スポーツ界にも活躍の場を広げている。

 しかしライス氏の活動の場はあくまで政治家、大学教授(政治家)などのように、政治的事務・学問の専門家としてのものだ。現在もたびたび現地に試合観戦に訪れているほどのブラウンズ・ファンであることは知られているものの、いうまでもなくフットボールのコーチ歴は一切ない。そんな彼女がNFLのHC候補として名前が挙がること自体実に奇想天外なことだが、その一方でESPNという信頼できるメディアが報じているのだから決して絵空事でもなさそうともいえる。

 というのも、フットボールのHCは絶対的にコーチ経験が必要だというわけではない。技術指導は各ポジションごとのコーチが担当しているし、作戦面も攻守の責任者であるコーディネーターに委ねることができる。つまりHCとして一番必要な素養はコーチ、選手たちを1つにまとめ上げる統率力だといってもいい。そうなると国際政治を担当する国務省のリーダーとして活躍してきたライス氏の手腕は、決して見劣りするものではないだろう。

 この報道を受けドーシーGMはすぐさま反応し、「コーチ人選は慎重に継続中で現在は候補リストを作成している最中だが、そこでライス長官の名前が出たことはない」という声明を出し完全否定している。一方で当のライス氏は、フェイスブック上で以下のような機知に富んだ声明を発表している。

 「私はブラウンズを愛している。チームが経験豊かなコーチを採用し、我々を次のステップに導いてくれると信じている。

 またその一方で、NFLがポジションコーチ、コーディネーター、HCとしてさらに女性を採用するようになって欲しいと真剣に願っている。試合を理解し、選手にモチベーションを与える上で、実際に試合でプレーするという実績は必要ない。しかし経験は重要なものだ。今こそ経験を積んだ女性コーチを増やしていくことに力を注いでいくべきだ。

 ところで私はコーチする準備はできていないが、もしブラウンズが何かアイディアを必要としているのであれば、来シーズンいくつか作戦を立案してみたい。ただ“プリベント・ディフェンス(フットボールの作戦プレーの1つ)”は絶対に採用することはないだろう」

 この声明を読む限り、ライス氏のHC就任の可能性はそれほど高いものではないだろう。ただジョークにしながらも、ブラウンズでコーチすることに多少なりとも興味を抱いている気持ちを滲ませているのも事実だ。この声明に多くの人々が魅了されたようで、「2020年に大統領選に出馬して欲しい」というコメントが投稿されている。

 ただこうした報道が出ることに、現在のブラウンズの悲劇的ともいえる迷走ぶりが見え隠れしている。1996年にチーム身売りとともにボルティモアへの移転が決まると(現レイブンズ)、クリーブランド市民はすぐさまブラウンズ復活を目指して奔走。1999年に新規チームとして新生ブラウンズが誕生したのだが、2002年にプレーオフ進出を果たして以来ずっと低迷が続いている。ここ最近はAFC北地区で7年連続最下位に留まり、今シーズンも最下位から脱出できない状況が続き、遂にジャクソンHCを更迭することになったわけだ。

 ここまでの長期低迷が続くと、ファンならずとも大胆なチーム変革を期待したいところだ。ある意味ライス氏招聘はチーム内に新しい風を吹き込ませるきっかけになるかもしれない。果たしてブラウンズは本気でライス氏を候補の1人に加えることになるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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