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パワーだけでない!大谷翔平を支える類い稀なバットコントロールがもたらした「もう一段その先」

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
3度目のMVP満票受賞が確実視されている大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【打者専念で3度目のMVP受賞を確実に】

 大谷翔平選手が、ドジャースに移籍後初のレギュラーシーズンを戦い終えた。もちろんチームはポストシーズン進出を決めており、まだシーズンが終わったわけではないが、打者に専念したシーズンで、また我々の期待を上回る活躍をしてみせた。

 史上初の「50-50クラブ」達成に止まらず、年間本塁打数、年間得点数でドジャースの球団記録を更新。さらに本塁打&盗塁を記録したシーズン試合数19や、9月19日のマーリンズ戦で1試合10打点、6安打、5長打、3本塁打、2盗塁というMLB史上初の快挙も成し遂げている。

 これまでDH選手がMVPを獲得した前例がないことから、シーズン開幕前ではMVP獲得を危ぶむ声も挙がっていたが、レギュラーシーズン終了を受け、MLB公式サイトは「オオタニのシーズンはほぼ疑うことなく、3度目のMVP満票受賞をもたらすだろう」と報じている。

【大谷選手「もう一段その先が見えた」】

 打者としてこれだけの偉業を成し遂げた大谷選手だが、レギュラーシーズン最終戦を戦い終えた後、真っ先に彼の口から飛び出した言葉は「1年間安定して出られたのが一番良かったです」だった。

 そしてシーズン終盤の神がかった打撃については、「いい打席を送りたいなと思っていたので、打撃の質でいうと、もう一段その先が見えたのが後半は良かったんじゃないかなと思います」と話している。

 以前マックス・マンシー選手が米メディアのインタビューに応じ、「ショウヘイはリハビリの投球練習以外、毎日常に同じ準備を続けていることに驚かされる」と話しているように、愚直なまでに同じルーティーンを続けている中で、安定した打撃、さらにその先の領域に足を踏み入れることができたのではないだろうか。

【スイングデータを元に大谷選手の打撃を考察】

 そうなってくると、今シーズンの大谷選手の打撃にどんな特徴があったのかを知りたくなるのは世の常だろう。

 今年4月の段階で、大谷選手の空振り率と三振率の変化を指摘し、三冠王の可能性について言及する記事を公開させてもらったが、今回は大谷選手のスイングデータを元に他の選手との違いを考察してみたいと思う。

 スイングデータに関しては、選手の各種データを専門に扱うMLB公式サイト「savant」が今シーズン途中から公開を始めたデータを元にしている。

【大谷選手の平均スイングスピードはMLB8位】

 まず大谷選手がMLB屈指のパワーヒッター、長距離ヒッターであることは誰もが認識しているところだろう。

 実際のところ前述のサイトによれば、今シーズンの大谷選手の平均打球速度(95.8mph)は、アーロン・ジャッジ選手(96.2mph)についでMLB2位にランク。また本塁打の飛距離においても、全30チームの球場で本塁打になる「no doubters」の本塁打数でジャッジ選手(31本)を上回り、32本でMLB1位に輝いている。

 速い打球を遠くに飛ばすというのは様々な要素が絡み合うとはいえ、根本的に類い稀なスイングスピードを必要とする。

 それを裏づけるかのように、同じく前述サイトで公開されている平均スイングスピードを見てみると、大谷選手の平均スイングスピードは76.3mphでMLB8位にランクしている(76.3mphに3選手が名を連ねているが、順位が分かれているので僅差がついているようだ)。

 ちなみに大谷選手を含め、平均スイングスピードが76.0mphを上回る選手はMLB全体で、わずか11選手しか存在していない。もちろんジャッジ選手(77.2mph)もその1人であり、MLB最速の平均スイングスピードを誇るジャンカルロ・スタントン選手に至っては、唯一80.0mphを超え81.2mphを記録している。

【バットコントロールの指標にできる「Squared-Up」と「Blasts」】

 また76.0mphを超える11人の打者の中には、カイル・シュワバー選手(77.5mph)や、ヨルダン・アルバレス選手(76.5mph)、ガナー・ヘンダーソン選手(76.3mph)、フリオ・ロドリゲス選手(76.3mph)ら、すでにMLBで認知されている新旧スラッガーたちが名を連ねている一方で、オネイル・クルーズ選手(78.6mph)やジョー・アデル選手(76.7mph)のように、まだ持ち前のスイングスピードを打撃に生かし切れていない打者もいる。

 それではそうした11選手の中で、なぜ大谷選手はジャッジ選手とともに三冠王を争えるような安定した打撃を続けることができたのか。そのカギを握るのが、「Squared-Up」と「Blasts」ではないだろうか。

 これら2つのデータを使い、各打者のバットコントロールの指標にできるのではと考えているからだ。

【2つのデータでトップ3に入るのは大谷選手のみ】

 まず「Squared-Up」について説明すると、投球スピードとスイングスピードから算定される理想的な打球速度を算出し、実際の打球速度が計算値の80%以上であれば、「Squared-Up」として認定される。

 MLB公式サイトの解説によれば、「Squared-Up」と認定された打球の80%以上がバットのスイートスポットで捉えたものだとしている。つまりこのデータで、しっかりボールを捉えることができているかを確認することができるわけだ。

 このデータをコンタクト率(ボールを捉えた打球の中でどれだけ「Squared-Up」だったか)で11人の打者を比較すると、大谷選手は38.5%でトップとなり、スイング率(スイングした中でどれだけ「Squared-Up」だったか)でも27.4%で2位にランクしている。

 次に「Blasts」は、「Squared-Up」の中でもさらにある程度のスイングスピードを維持した打球だけを指すものだ。つまり「Squared-Up」以上に完璧に捉えた打球のみを「Blasts」として認定している。

 このデータにおいても、大谷選手のコンタクト率は25.7%で11選手中3位、またスイング率でも18.3%で同じく3位に入っている。

 ちなみにこの2つのデータ、4つのカテゴリーですべてトップ3に入っているのは、大谷選手1人だけだ。それだけMLB屈指のスイングスピードを誇る打者の中でも、類い稀なバットコントロールを有していることに他ならない。

 「ヒリヒリした9月」を戦い終え、さらにヒリヒリするようなポストシーズンの舞台に立つ大谷選手。果たしてどんな打撃を披露してくれるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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