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弁護士に記者会見を任せてよいか?Colabo問題に見る危機対応の教訓

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
一般社団法人コラボのサイトより

 広報担当者の代表的な仕事3つといえば、プレスリリース、記者会見、取材。言葉選びとタイミングを見計らって設計できるようになれば一人前。このような広報の仕事はPR会社がサービスとして提供していますが、記者出身者や弁護士が個人で担うケースもあります。誰がやっても構わないとは思いますが、世論を味方にするという広報・PR(パブリック・リレーションズ)の基本的役割の要素が抜け落ちてはいけません。今回は弁護士にありがちな残念な失敗をしてしまった一般社団法人Colabo(コラボ)を考察します。

Colabo問題はなぜ炎上したのか

 Colabo問題とは何か。困難を抱える10代の少女達へシェルターや食事提供といった支援活動をしている一般社団法人Colaboが、不正会計を指摘した住民監査請求を起こされた問題です。住民監査請求は2022年11月2日に起こされました。それに対してColabo側は住民監査請求をした相手を提訴。「合法的な嫌がらせ、リーガルハラスメントでデマの犠牲になっている」と11月29日の記者会見で訴えたのです。しかし、2023年1月4日、Colaboの会計報告の一部に不正があることが東京都から公表されました。都の監査委員は「請求人の主張には理由がある」とし、2023年2月末までに再調査をせよと勧告したのです。

 この問題をいち早く取り上げたSAKISIRUの新田哲史(にった・てつじ)編集長はColabo問題が炎上してしまっている原因についてこう述べています。「住民監査請求が通るのは、2016年の舛添前知事以来で非常に珍しいこと。うちでは12月10日頃から様子を見ながらちょくちょく取り上げてきて、本格的に報道したのは住民監査請求が通ったことがわかった12月29日です。当然、年明けにはマスメディアでも報道されると思ったらなかなか出てこない。このことへの不満がかえって募り、ますますネットでの炎上が加速したように見えます。住民監査請求をした方(ツイッター名:暇空茜)はゲーム開発者で、資料分析が鋭いだけでなく、情報発信の頻度が高く、見せ方も非常にうまいこともあるでしょう」。

 住民監査請求を起こした個人が頻繁に情報発信していること、めったに通らない住民監査請求が通ったこと、マスメディアが取り上げないことが話題増幅作用として働いていることはわかりました。

<動画解説>

SAKISIRU編集長とColabo問題を広報視点からトーク(リスクマネジメント・ジャーナルより)

記者会見の場は法廷ではない

 では、Colabo側の初動はどうだったのでしょうか。私がSAKISIRU記事をきっかけにこの問題を知って追いかけたところ、Colabo側の11月29日の記者会見がとんでもない内容だったことが炎上につながったのではないかと分析しました。

 まずは記者会見の出席者名と人数。弁護士6名理事4名(うち、司会1名)で総勢10名。理事より弁護士の方が多い。出席者は通常代表者が最初に掲載されますが、弁護士がずらずらと掲載されて代表者の仁藤夢乃氏がなんと一番下で最後。主役は弁護団で仁藤氏は脇役に見えたのです。これだけで仁藤氏が弁護士から甘く見られている印象を持ちました。

 1時間半に及ぶ記者会見では、代表の仁藤氏の挨拶は開始してからなんと48分後。一体いつになったら仁藤氏の言葉が聞けるのかすっかり待ちくたびれました。司会者役の稲葉副代表が会見主旨、Colabo活動説明の後、神原弁護士(主な発言内容:提訴内容と記者会見の目的)、太田弁護士(誹謗中傷に関する資料の説明)、角田弁護士(絶対に勝つという決意表明)、斎藤理事(女性に対する暴力を許さない)、細金理事(女性達全員に対する攻撃を跳ね返したい)、中川弁護士(安易なリツイートへの注意喚起)、堀弁護士(大企業ではないから攻撃を受けても問題をすぐに解決できないことを理解してほしい)、永田弁護士(フェイク問題、女性、弱者を排除する社会の流れが問題)、さらに司会をしている稲葉副代表が女性達の声紹介。そしてようやく代表者仁藤氏にマイク。しかし話をしたのはたったの3分。これほど代表者が軽視される記者会見を見たことがありません。

 主役の存在感が薄いこんなめちゃくちゃな記者会見ないなあ、と愕然としてしまいました。弁護士のあからさまな売名行為としか見えません。記者会見は世論に訴えかける場。Colaboの活動を正確に理解し、信頼し、応援してもらえるような情報を提供する必要がありました。弁護士が怒り、戦うメッセージを出す場ではありません。怒りや悲しみであってもそれは仁藤氏の声として発信される必要がありました。重要なステークホルダーを見失っていたのではないでしょうか。彼らが見ていたのは訴訟相手だけなのです。明らかに記者会見の場と法廷をはき違えています。結果として多くの敵を作ってしまったのではないでしょうか。失敗会見として記憶すべき内容でした。

<参考サイト>

Colabo問題、東京都監査委が「本件精算には不当が認められる」

これまで“ガン無視”のマスコミどうする?(SAKISIRU 12月29日)

https://sakisiru.jp/39887

「Colaboとその代表仁藤夢乃に対する深刻な妨害に関する提訴記者会見」に関するご報告(一般社団法人Colabo 公式サイト11月29日)

https://colabo-official.net/kaiken2211/

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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