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ベスト16で敗退したアメリカ代表の歴史を伝えた『ニューヨーク・タイムズ』

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
写真:アフロ  デズモンド・アームストロング

 現地時間12月2日、『ニューヨーク・タイムズ』紙が、元アメリカ代表のDFに関する記事を掲載した。

 米国代表の黒人選手として、初めてワールドカップに出場したデズモンド・アームストロングを紹介したのだ。1990年イタリア・ワールドカップにおいて、アメリカ代表は、チェコスロバキアに5-1、イタリアにも1-0、オーストリアにも2-1で敗れたが、アメリカ合衆国のサッカー界は、確かな一歩を踏み出した。

 黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンの功績は現在も称えられるのに、アームストロングやもう一人の米国代表アフリカ系アメリカンDF、ジミー・バンクスを扱うメディアはほとんどなかった。今回の記事は、流石は『ニューヨーク・タイムズ』だと唸らせるものであった。

 2019年4月26日、バンクスは膵臓癌で他界している。享年54。現在58歳のアームストロングは、テネシー州ナッシュビルで少年少女にサッカーを指導する日々を送る。

写真:ロイター/アフロ

 米国代表は12月3日に決勝トーナメント初戦でオランダに敗れ、姿を消した。だが、キャプテンのタイラー・アダムス、DFのアントニー・ロビンソン、セルジーノ・デスト、MFのウェストン・マッケニー、ユヌス・ムサ、FWのヘスス・フェレイラ、ティモシー・ウェアと先発の多くは黒人選手である。

 今や、彼らの存在が無ければアメリカ・ナショナルチームは成り立たない。

写真:アフロ デズモンド・アームストロング
写真:アフロ デズモンド・アームストロング

 次回のワールドカップで共催ながらホスト国となるアメリカ。「32年前、彼らは現在のアメリカ男子代表の道を切り開くことに貢献した。」という一文が胸に刺さった。

写真:ロイター/アフロ

 今回のキャプテン、背番号4のタイラー・アダムスは、歴史の重みを十二分に感じている。この国もまた、新たな歴史を刻むべく前進している。4年後が楽しみだ。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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