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「スキルの使い方がわがまま」日本で一番プロ選手を育てた大学監督が指摘する日本の育成の問題点

小澤一郎サッカージャーナリスト

10月26日、味の素フィールド西が丘で開催された関東大学サッカーリーグ戦【後期】1部リーグ第19節の慶應義塾大と流通経済大の一戦は、0-0の引き分けに終わった。試合後、大学サッカー界きっての名将で日本で一番プロ選手を育てた監督でもある流経大の中野雄二監督にアジアで勝てず危機に瀕する日本の育成について話しを聞いた。

■「全体として過保護すぎる」

サッカー界だけのあり方ではなくて、社会全体の今の若い世代の子どもたちが全体として過保護すぎますよね。やりたいことだけをやらしてしまっている。理想としてやりたいことをやって勝てればいいですけど、理想通りいかないのがスポーツですから、やりたいようにできない時にいかに勝つ方法を選択するかという教育を日頃の生活からしていない。

何か自己主張ばっかりさせちゃって、「権利だ、権利だ」と。環境がいいに越したことはないんだけれど、一昔前って土のグラウンドでグラウンド整備をしたり、ボールを磨いたり。必ずしもそういうのが良いと言っているのではなく、恵まれた環境ではないけれど工夫をしてきたと思うんですよ。それから我慢もしてきた。

今は全部与えすぎて主張ばかりになり、フィールドの中でも自分のやりたいことはこれ、という主張と主張のぶつかり合いになってしまっている。そこに組織やチームが勝つためにどういう意見を持つべきかという考えはない。チームが良くなるための意見であればいいんですけど、「俺はこうなんだ、これがやりたい」という選手が多すぎる。

■スキルの使い方がわがまま、ゴールを目指さない

だから、せっかくスキルを上げたのに、そのスキルの使い方がわがままになってしまっている。それと、ゴールを目指さない。「やり直せ、ポゼッションだ」と聞こえはいいですけど、それってある意味で自分たちの満足感、自己満でしかない。余計なパスが1本入ることによって相手に守備陣形を整える時間を与えているということになるわけです。常にやり直すということは、時間をかけて相手を整えさせてしまっているので、今度は突破というか崩しに入るクオリティをもっと高めないといけないのに、意外とまた足下、足下でつなぐから、結局ボールを受ける選手とボールが守備側の1つのアングルに常に入っていることになり、強いフィジカルでコンタクトプレーされてしまう。

そうすると特に世界の戦いでは、フィジカルの差が出やすいんですよ。ポゼションするにしても、一人の選手の動きによって相手のディフェンス、例えばセンターバックとサイドバックの間が開いたなとか、センターバックがマンツーマンでついているな、ゾーンになっているな、ということを見る力がない。ボールと味方を見て、ボールを動かしているだけで、相手がどう動いているのか、スペースがどうできているのかという捉え方を今の日本の若手はできていないと思います。ただスキルが高いからボールをコントロールする、ボールをパスすることが良いと思ってしまっている。

■バルサを理想としたポゼッション志向の弊害

ちょっと言い方悪いんだけれど、「バルサのサッカーが良い」と思いすぎている指導者も多いんじゃないでしょうか。それが大胆さに欠けたり、決定力不足に関わっていると思います。海外と比較してもあれですけど、シュート打てるのに日本人は打たないことが多いですよね。その辺も日頃からの教育というか育成の仕方の問題で、指導者がちょっと勘違いしているんじゃないかと思います。

例えば、流経の選手もパスをつながせたら上手いですよ。でも、そういう選択をしていないだけです。海外の選手も同じで、下手だから蹴っているわけじゃなくて、勝つために対戦相手との力量の中でどういう選択をした方が勝つ確率が高いかを考え、割りきって蹴っている。

日本人って何でも理想的な考えの中で勝とうとするし、日本の形と言うけれど、日本の形を貫いて(ブラジル)ワールドカップに行って1回も勝てなかったわけだから。日本の形を貫かないで岡田さんの時(2010年南アフリカW杯)は守って、守ってかもしれないけれど、ベスト16になったわけです。だったらどっちがいいんだという議論になる。

ただ、毎回それだけでもダメでしょうし、日本のサッカーってどうなの?という問われ方もするし、これは難しい問題です。どっちが正しいとは言えないですよ。ただ、やはり求めることは勝つことなんです。勝てるチームは理想的に勝ちたい。でも、勝つまでは理想的じゃなくても、勝ちたいんですよ。そこが逆になっている感じがします。日本の形を作れば勝てると思っちゃっているのかもしれない。

僕は今の日本のやり方で必ずしも勝てるとは思いません。でも、日本の形を作り出そうとするのは反対じゃない。でも、それを作り出したからと言って日本は世界チャンピオンになれるのか?というのは皆さんもクエスチョンマークを持っていると思います。

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

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