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子供の火傷事故に潜む意外な原因 - ネイルグルーなどのシアノアクリレート接着剤の危険性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【シアノアクリレート接着剤の危険性】

みなさんは、家庭でよく使われている「瞬間接着剤」や「ネイルグルー」に危険が潜んでいることをご存知でしょうか?これらの製品には、「シアノアクリレート」という成分が含まれています。シアノアクリレートは水分と反応して硬化する性質があり、接着剤として優れた性能を発揮します。その利便性から、DIYや補修、ネイルアートなど、幅広い用途で活用されているのです。

しかし、その反応は発熱を伴うため、特定の条件下では火傷のリスクがあることが分かってきました。特に、綿などのセルロース繊維と接触すると、急激な発熱反応を起こし、高温になることがあります。米国の研究では、最高で68度、12.2秒間持続する熱が発生したと報告されています。皮膚に接触した場合、Ⅱ度からⅢ度の深い火傷を引き起こす可能性があるのです。

日本でも、シアノアクリレート製品は、ホームセンターや100円ショップなどで手軽に入手できます。しかし、その危険性について、消費者に十分な情報が提供されているとは言えません。製品のラベルには、「皮膚や目に触れないようにする」などの注意書きはあるものの、火傷のリスクについては明記されていないことが多いのです。

【子供の火傷事故の症例報告】

2021年に、ポルトガルの小児外科から、シアノアクリレート接着剤による子供の火傷症例が報告されています。症例1は、2歳男児が誤って「スーパーグルー」を綿製の長袖シャツに着用したまま手首と手に垂らしてしまったケースです。母親が速やかに衣服を脱がせ、水道水で洗浄したため、軽度の火傷ですみました。

症例2は、5歳女児がネイルグルーを綿製のレギンスに着用したまま太ももと手首に垂らした例です。その結果、Ⅱ度の火傷を負ってしまいました。幸い、適切な処置により、両症例とも後遺症なく回復したとのことです。

文献によると、これまでに18例の小児シアノアクリレート火傷が報告されており、そのうち半数はⅢ度の深い火傷だったそうです。シアノアクリレート製品の危険性について、消費者への情報が不足しているのではないでしょうか。

【シアノアクリレート火傷の応急処置と予防策】

もし、シアノアクリレートが皮膚に付着してしまった場合、石鹸水で患部を洗い流すのが基本です。アセトンは、火傷のある皮膚には使用せず、火傷していない部位の接着剤除去にのみ使いましょう。火傷部は、他の熱傷と同様の処置が必要です。

事故を未然に防ぐためには、以下の点に注意が必要です。

- シアノアクリレート製品は、子供の手の届かない場所に保管する

- 綿などの繊維に触れないようにする

- 換気の良い場所で使用し、皮膚や目に触れないようにする

皮膚疾患の多くは、日用品との接触により引き起こされるため、皮膚科受診の際は、日常の生活環境のヒアリングが重要となります。「何かおかしい」と感じたら、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。

参考文献:

Carvalho C, et al. Pediatric Burns With Cyanoacrylate Glue: An Inconspicuous Danger. J Burn Care Res. 2021 Sep-Oct

01;42(5):1047-1049. doi: 10.1093/jbcr/irab063.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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