C-2輸送機に言及した財務省の資料の読み方
11月15日の財政制度分科会で財務省は「近年では戦闘機は小型化が一般的」という明らかに間違った内容の資料を配布しましたが(解説記事)、3年前の2018年4月6日にも不適当な資料が財政制度分科会で配布されていました。この時の内容はC-2輸送機の調達を中止させようという意図のものです。
輸送機の貨物室大きさ比較を適切に書かない財務省の資料
出典:財政制度分科会(平成30年4月6日開催)資料一覧 : 財務省
- C-2・・・貨物室床面積63平方メートル
- C-130J-30・・・貨物室床面積53平方メートル
この資料の数字では一見するとC-2輸送機とC-130J-30輸送機(C-130Jの胴体延長型)が同じくらいの大きさの機体に見えてしまいます。しかしそれは表の一番初めに「貨物室床面積」で比べているが故の錯覚です。一体なぜ「貨物室容積」で比べないのでしょう?
財務省資料の輸送機の貨物室床面積に、それぞれの貨物室高さを掛けた貨物室容積はこのようになります。
- C-2・・・貨物室容積252立方メートル
- C-130J-30・・・貨物室容積145立方メートル
貨物室容積で比べるとC-2の方がC-130J-30よりも1.74倍ほど大きいことになります。
貨物室は箱状の体積で比べても近い値が出ますので、この単純な比較でも構いません。実際の胴体は丸い断面なので計算されていない若干余った部分もありますが、輸送機はどの機種も胴体断面形状は似通っているので大きさの比較には問題が生じません。
- C-2・・・貨物室寸法(長さ15.7m×幅4.0m×高さ4.0m)
- C-130J-30・・・貨物室寸法(長さ16.9m×幅3.12m×高さ2.74m)
なお輸送機の貨物室は容積を計算した後の数字ではなく、計算前の貨物室寸法(長さ×幅×高さ)のままで比べるのが普通です。しかし財務省は意図的に貨物室の容積の数字を使わず、機体の大きさの数字すらも出しませんでした。
- C-2・・・機体寸法(全長44.4m、全長43.9m、全高14.2m)
- C-130J-30・・・機体寸法(全長34.69m、全幅39.7m、全高11.9m)
財務省は戦闘機の資料(解説記事)では機体の大きさを「全長×全幅×全高」で掛け算した箱状の体積で比較しておきながら(箱状と掛け離れた複雑な形状の戦闘機の大きさ比較では不適当)、輸送機の資料では貨物室面積(長さ×幅)を用いたのは、意図的なものだったのでしょうか。搭載重量の方は誤魔化しきれないので仕方なく載せたのでしょうか。
輸送機の貨物室こそ箱状の体積で計算して比較してもよかったのです。
貨物室が高いC-2輸送機の優位点
C-2は貨物室の高さが4mあるので、C-130(貨物室高さ2.74m)では積めないような大きな車両や機材が運べます。C-130で運べないものを運びたい以上、C-130を選べと言われても難しいでしょう。C-2と同等かそれ以上の大きさの輸送機を提案されるなら一考の余地はあります。ただしそのような輸送機はC-2よりも高価です。
国立国会図書館Webアーカイブより「次期輸送機(C-2(仮称))の概要」:防衛省
なお現在ではこの表に掲載されている以外の車両、16式機動戦闘車も搭載可能で、パトリオットや中SAMのレーダー車などもC-2に搭載可能であることが確かめられています。
なぜA400M輸送機を比較に出さないのか?
財務省の資料にはC-2と同世代で同規模の大きさの欧州エアバス社製の輸送機「A400M」が何故か比較例として紹介されていません。C-2との絶好の比較対象にも拘らず紹介されていないのは、おそらくは購入価格と運用経費がC-2と同等以上で予算削減には役に立たないから無視されたのでしょう。
一方で機体の大きさが違い過ぎて比較には全く不適当なV-22オスプレイが財務省の資料に登場しているのは意図がよく分かりません。おそらくは垂直離着陸機のオスプレイならば大きく凸凹した不整地でも離着陸できることを強調したかったのだと思われますが、そういった能力は滑走を必要とする固定翼輸送機と比較する意味がなく、動機が不明です。
なお大型輸送機のC-17はアメリカの生産ラインが既に閉じており新造で購入することはできないので、C-17が紹介されていないのは妥当です。
C-2輸送機の不整地離着陸能力について
しかし実際にはC-2は不整地離着陸を行うことが可能です。 防衛省の当初の要求に無かったから付与していなかっただけで、能力的には問題ありません。
固定翼輸送機の不整地離着陸能力とは、他機種でもこのような舗装されていないが平らな地面での運用能力を指します。大きく凸凹した状態の地面では流石に降りられません。そういった状況では垂直離着陸が可能なヘリコプターかオスプレイを使うことになります。