横浜市の水道料金の値上げが他人事ではない理由
ネット上には「全国的には水道料金が減免されている」の声
横浜市が打ち出した水道料金の値上げ方針が批判を浴びている。
毎日新聞「横浜市民「なぜコロナ下で水道を値上げ?」 市の方針に疑問の声」
新型コロナウイルスの影響で家計への負担が増しているなか、ネット上には「全国的には水道料金が減免されている」、「なぜいま値上げなのか」などの声が多い。
まず、「全国的には水道料金が減免されている」は事実だろうか。
水道料金の減免を実施する自治体は今年7月末で250(その後も増加中)ではあるが、全水道事業者の19パーセント程度(日本の水道事業者数1346、2019年度末)。財政事情によって減免できるところとできないところがあって「全国的に」というわけではない。
次に「なぜいま値上げなのか」について。
横浜市は、今年3月、水道料金を来年2021年4月から平均10~12%値上げすると発表した。横浜市の水道の基本料金は、2か月分で1738円(使用水量0〜16立法メートル)。毎月15立方メートルを使用する世帯が最も多いので、多くの人が基本料金内ですんでおり、値上げ後は、約1912円〜1947円となる。
だが、新型コロナ禍での値上げに批判の声が多く、2021年4月から2021年6月への延期を発表した。
水道料金の値上げは全国的な傾向
今年4月には、茨城県水戸市、結城市などで10~20%程度の値上げが実施された。また、横浜市同様に値上げを延期した自治体もある。埼玉県川口市だ。今年9月1日から水道料金の値上げを実施することになっていたが、「新型コロナによる市民生活や地域経済等への影響を踏まえ」(同市水道局)、来年1月1日に延期することになった。
では、水道料金の値上げはなぜ起きるのか。水道料金は以下のような分数式で決まる。
分子は水源から家庭までに水が取水、浄水、給水されるコスト、分母は利用者だ。この式を見れば、分子が増えたとき、分母が減ったときに水道料金が上がるとわかる。
この状況は、自分が住む自治体の「水道事業概要」「水道ビジョン」などを見ればわかる。
「令和元年度横浜市水道事業概要」には、こんな記述がある。
「水道料金収入(平成30年度)は給水水量の減少により、前年に比べ1億円減少し698億円となりました」
「浄水場や市内約9200kmを超える管路をはじめとした水道施設は、施設の拡張期に建設したものが多く、こうした水道施設の更新需要は増加しており、今後もこれらの施設の更新や耐震化など、必要な設備投資に大きな資金需要が見込まれます」
つまり、料金収入は減ったが、更新にかかる費用は増えるということだ。
こうした傾向は全国的なものだ。横浜市の水道料金値上げは他人事ではない。
自治体の多くは、人口減少や水道設備の老朽化対策などのため、現在の水道料金では事業を維持できなくなる。
水道は高度経済成長期を中心に整備され、現在の普及率は98%。しかし、水道管が古くなっている。法定耐用年数40年を経過した管路(経年化管路)は15%あり、法定耐用年数の1.5倍を経過した管路(老朽化管路)も年々増えている。管路だけでなく浄水場などの施設の老朽化も大きな問題だ。今後は値上げを選択する自治体が増えるだろう。
料金高騰をおさえるために減らすのは人か? 施設か?
では、値上げをなるべく抑える方法はないのだろうか。
水道事業に携わる人の数を減らせば良いという政治家は多い。しかし、すでにギリギリまで人を減らされ現場は限界だ。「小さな政府」「官から民へ」という政策のもと地方公務員の削減が進んだ。水道については、業務の民間委託が進み、水道現場を担う職員の削減が加速している。1980年に全国に7万6000人いた水道職員は、2014年には4万7000人になった。度重なる災害や新型コロナに最低限の人数で対応しているため現場は疲弊している。
水道職員が減ったことで、水道事業から地域に根差した専門性の高い技術も失われつつある。たとえば、災害などの深刻な事態に即応できない状況も生まれたり、水道専門の職員をおかず、異職種間の人事異動を実施している事業体では、さまざまな問題の先送りという事態も起きている。
つまり、現在の値上げ騒動以上に、将来にはより大きな課題が待っている。
中期的に考えると、むしろ見直すべきは設備だ。水道は装置産業で多額の固定費がかかっている。現有施設を有効活用すること、大事に長く使うこと、無駄な設備を廃止していくこと、計画中の施設でも今後有効に使えないなら中止にすることだ。
前述の「令和元年度横浜市水道事業概要」には、「宮ヶ瀬ダム本格稼働に伴う神奈川県内広域水道企業団からの受水費の大幅な増加などの財政需要に対応するため、平成13年4月に料金改定を行いました」という記述がある。
横浜市は、人口が増加すると見込んで宮ヶ瀬ダム事業に参画し、そこから水を買っている(受水費を支払う)のだが、実際には水使用量は少なくなっている。
1日当たりの平均給水量のピークは、1992年(平成4年)の132万5789立法メートル(1人当たり405リットル)だったが、2018年(平成30年)には112万8378立法メートル(1人当たり302リットル)に減少した。
人口が減少し、1人当たりの水使用量も少なくなっているので、施設をそれに合わせたサイズにしていくことが肝心だ。
同じような例はある。昨年岩手県の奥州市、金ケ崎町では、水道の供給事業を行っている「事務組合」が、奥州市と金ケ崎町に求める水道料金を引き上げることになった。人口の増加を見込んで国内最大級の胆沢ダムを建設したが、実際には人口も給水量も予想を大幅に下回った。
いきなりダムをなくすことはできないが、浄水場を減らす、管路をより効率的に配置する、人口減少地域に代替手段を考えるなどの工夫はどうしても必要だ。そうでなければ前述の分数式の分子は据え置かれたままで、分母はどんどん小さくなる。水道料金はどんどん上がっていくだろう。
まちの水道の持続を考えると、水道事業を中長期で考える人材が必要だ。