わがまま放題なヒロインはもしかしてわたし自身?彼女の強気な振る舞いの裏にある「弱音」を大切に
「私を判ってくれない」は、小さな町から生まれた映画だ。
鹿児島県長島町。鹿児島県の最北端に位置するこの町では、町の活性化を目指すプロジェクトで、貫地谷しほりと山田真歩とが共演した「夕陽のあと」が制作され2019年に公開されている。
今回の「私を判ってくれない」は、地元の声を受けての第二弾。新型コロナウイルスによる2度の延期を乗り越えて完成した。
町の協力のもと作られた作品は、島に戻ってきた城子と島から出たことのない由記乃という対照的だが実は似ている二人のヒロインの心模様が描かれる。
そして、互いに周囲から社会から「判ってもらえない」城子と由記乃は、この社会に「生きづらさ」を抱えている女性たちの代弁者。今を生きる女性の切実な思いが伝わってくる。
主人公のひとり、城子を演じた平岡亜紀に訊く。(全四回)
一度東京に出て、夢破れてお金も底をついて地元に帰ってきた城子。
「ハリウッド映画に出る」と言ってNYにいった自分と重なりました(笑)
前回(第一回)は出演の経緯から、脚本の印象までを主に訊いた。
ここからは演じた城子について本格的にきいていく。
最初は「わたしってこんなイメージなの?」と驚いたが、ひとつひとつ思いを寄せると「理解できるところがあった」という城子役だが、平岡井自身と重なるところもあったという。
「城子は一度東京に出て、夢破れてお金も底をついてどうしようもなくなって地元に帰ってきている。
そこが重なるといいますか(苦笑)。
わたしは以前、アメリカに1年半ほど留学していた時期があるんですけど、いろいろな人に『ハリウッド映画に出るから』と言ってニューヨークにいっちゃったんですよ。
これには前段があって、留学の前にアメリカへいったとき、ハリウッドの映画の現場の見学する機会があったんです。ものすごい大好きな映画監督の現場をみせてもらえるチャンスを得た。そこでハリウッドもそんな遠くないものではないかと勘違いした。『もうちょっと頑張ればいけるかも!』と。
それで、いつ帰ってくるかわからないけど『わたしハリウッド映画に出て帰ってくるから』みたいに、啖呵を切ったとまではいいませんけど、周囲にそう告げて旅立ったんです。もう、いま考えるとほんとうに恥ずかしい(笑)。
ただ、まあ1年ぐらいに現実を知るわけです。学生ビザでいっていて、わたしはさほど英語も話せるわけではない。
映画に出演することはそうたやすいことじゃない。どんなに努力をしても、いまの自分のやり方ではとうてい無理なことを悟ったんです。わりと早い段階で。
で、どんな顔をして東京に帰ろうかと悩んだんですよ。
『ハリウッド映画に出てくるからね。バイバイ』みたいな強気な発言をして日本を離れちゃったから(笑)。
なので、城子の気持ちがわかるところがあるんですよね。夢破れて地元の長島に戻ってきた彼女の気持ちが。
だから、まず、城子に関しては、ハリウッド映画に出ると豪語して出ていきながら叶わずに東京に戻ってきた、あのときのなんともいえないわたし自身の気持ちを重ねながら演じたところがありました」
ふてぶてしく振る舞うしかないのもちょっとわかる
夢破れて帰ってきた城子だが、あくまで強気の姿勢を崩さない。周囲のことなどどこ吹く風で、堂々とふるまい、周りに反感を買うぐらいふてぶてしい態度をとるときもある。
「あのようにふてぶてしく振る舞うしかないのもちょっとわかるんですよね。自分の弱みをみせたくないですし、変に同情もしてほしくないから。
見栄をきっていった以上、あれぐらい強気でいかないと帰れなかったんじゃないかと思います。
『ごめんなさい』と平謝りでは、なんか負け犬にみられて嫌だし。
それだったら、もう振り切って『え?わたし、ちょっと戻ってきただけですけど』みたいに、とぼけてるぐらいじゃないと自分を保てなかったのではと、わたしは思ってます」
強気だとこれがダメなら次と前を向けるところがある
この城子の強気な姿勢は嫌いじゃないと言う。
「強気でいるしかなかったところはありますけど、それでもあれだけ強気で押し通すことってなかなかできない。
そういう意味では、ある意味、城子を尊敬します。
で、彼女の姿勢は嫌いじゃないんですよね。
人間、弱気になるとどうしても後ろ向きになりがちで。ネガティブな思考におちいっていってしまう。
ただ、強気だと次にいけるというか。これがダメなら次と前を向けるところがある。
けっこう、わたしもそういうところがあるので、城子の強気は嫌いじゃないです」
特に神社で弱音を吐くシーンはすごく好きな場面です
単に強気でわがままな女性だと煙たがれる存在に映ってしまってもおかしくない。
平岡はそこをうまく中和して『強がっている』ようにみえる表現で城子を演じている。
「そう感じていただけたらうれしいです。
やはりどこかですごく城子が嫌な女性になってしまったら嫌だなと考えていたんです。
だから、城子がいくつか弱音を吐くシーンがあるんですけど、そこは『伝わってくれたらいいな』と思っていて。
わたし自身、特に神社で弱音を吐くシーンはすごく好きな場面です」
わたしに城子のような無鉄砲なところがあると、
近藤監督に見透かされていたのかも(笑)
話を聞いていくと、かなり城子という人物は、最終的に、平岡自身が投影されているといっていいかもしれない。
「いま思い出したんですけど、近藤監督に1度『アメリカから東京に帰ってきたとき、どんな気持ちだった?』と確か聞かれたような気がします。
あてがきとおっしゃっていたので、わたしに城子のような強気なところとか、無鉄砲なところがあると、近藤監督に見透かされていたのかも(笑)。
確かに共有するところは多い役ではあったんですよね。
わたし自身はわかっていなかったですけど、近藤監督が客観的にみて、『平岡亜紀という人物にはこういうところがある』というのを見抜いて、城子に反映させたのかなといま感じています」
(※第三回に続く)
【「私を判ってくれない」平岡亜紀インタビュー第一回はこちら】
「私を判ってくれない」
監督・脚本・編集: 近藤有希 水落拓平
出演: 平岡亜紀 花島希美 鈴木卓爾 今井隆文 西元麻子 ほか
鹿児島・ガーデンズシネマ、池袋シネマ・ロサにて公開中。以後、全国順次公開
メインビジュアル及び場面写真はすべて(C) 私を判ってくれない