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ジェームズ・フランコが非営利映画スタジオを創設。“ビッグスターになりたくない”彼がもつ複数の顔

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
俳優、監督、作家、詩人、大学講師など多数の肩書きをもつジェームズ・フランコ(写真:ロイター/アフロ)

ジェームズ・フランコ(37)が、またもや誰も予想しなかったことをやらかそうとしている。近年、演技以外の分野でさまざまな活動をしては世間を驚かせてきたが、今度はなんと、非営利映画スタジオ、エリジウム・バンディーニ・スタジオを創設すると発表したのだ。

このスタジオは、チャリティ団体アート・オブ・エリジウムと、フランコのプロダクション会社ラビット・バンディーニ・プロダクションズの協力で生まれたもの。アート・オブ・エリジウムは、病気の子供や老人、ホームレスの人々などのために、アーティストたちが無償で何かを提供する団体で、フランコは、10年以上前から、小児科病棟の子供たちのためにクリスマスのお芝居を上演するなど、ボランティア活動をしてきた。

2012年から構想があったというこの映画スタジオは、映画監督を目指す若い人たちに作りたい作品を作らせてあげる場所を提供すると同時に、その収益をすべて寄付することで、社会貢献もするという目的をもつ。映画1本あたりの製作予算は20万ドル以下と、ハリウッドの基準ではかなりの低予算に入るが、出演者や監督を含む製作関係者の大半はボランティアで、人件費は最低限に抑える計画だ。フランコはハリウッドに強力なコネをもつ上、アート・オブ・エリジウムを支援するセレブリティも多いため、フランコ以外にも大物スターがボランティア出演することが期待されている。すでに撮り終えた映画14本の中には、ナタリー・ポートマンやジェシカ・チャステインが出演したものがあるという。

俳優、監督、プロデューサー、作家、詩人、アーティスト、ミュージシャン、大学講師、大学院生として、多くのことをこなしてきているフランコにとって、これは、新たなる肩書きだ。

「スパイダーマン」三部作(2002- 2007)のハリー・オズボーン役で世界的に知られるようになったフランコは、その後、普通のハリウッドスターとはまるで違うキャリアを積んできた。俳優を目指してUCLAを中退したことを心残りに感じていた彼は、2006年、同大学に再入学。卒業後は、大学院で学業を続けるべくニューヨークに移住し、コロンビア大学で執筆、ニューヨーク大学で映画、ブルックリン・カレッジでフィクション小説の執筆を同時に学んだ。現在は、UCLAの映画学科など、いくつかの大学で教鞭を取っている。2010年には短編小説集を出版、同じ年に、デッサン、彫刻、ビデオ、インスタレーションなどの作品を集めた個展を、ニューヨークのギャラリーで開催した。2012年には詩集を出版し、バンドとしてシングルもリリースしている。

本業のほうも、非常に幅広い。「猿の惑星:創世記/ジェニシス」(2011)「オズ はじまりの戦い」(2013)など娯楽大作に主演する一方、「Pineapple Express」(2008)「This Is the End」(2013)「The Night Before」(2015)など、セス・ローゲン主演の爆笑コメディの常連でもある。ソニー・ピクチャーズのハッキング事件の引き金となったとされる2014年の「The Interview」にも、インタビュー目的を装い、北朝鮮の金正恩を訪れ、暗殺するという使命を背負わされたテレビ番組ホストの役で主演した。また、ほぼひとり芝居状態で演技力を証明した「127時間」(2010)では、オスカー主演男優部門にノミネートされている。かと思えば、昼のテレビドラマ「General Hospital」に50話以上にわたってゲスト出演し、業界を驚かせた。ハリウッドの映画スターが、昼の主婦向け番組に脇役で出演するなど、普通ならば絶対に考えられないことだ。しかも、彼は、オスカーにノミネートされた後も、2年近く出演を続けたのである。

監督業にも、10年以上前に進出しており、主演も兼任した「As I Lay Dying」(2013)は、カンヌ映画祭の「ある視点」部門で上映された。原作は、ウィリアム・フォークナーの「死の床に横たわりて」だ。年内の北米公開が予定されている最新の監督作「In Dubious Battle」は、ジョン・スタインベックの小説「疑わしき戦い」の映画化で、ブライアン・クランストン、ロバート・デュヴァル、セレナ・ゴメス、エド・ハリス、ジョシュ・ハッチャーソンなど、豪華なキャストが揃う。UCLAで英文学を専攻し、現在もイェール大学で博士号を目指して学んでいるフランコの文学への造詣の深さは、これらの選択にも明らかだ。ペットの猫の名前も、ゼルダとサミーで、ゼルダはゼルダ・フィッツジェラルド、サミーはバッド・シュルバーグの1941 年の小説「What Makes Sammy Run?」から取ったのだという。

2007年には、視聴者の若返りを狙うアカデミーから、オスカー授賞式のホストに任命され、アン・ハサウェイと共同ホストを務めたが、評判は芳しくなかった。普段着に、よくグッチを着ているのは、彼がブランドのモデルを務めていて、「グッチが着て欲しいと言ってくるから」だ。

いくつものことにチャレンジし続けるフランコの姿勢について、「127時間」で彼を監督したダニー・ボイルは、同作品の撮影当時、「彼は強い好奇心を持っている。常に何かを読んでいるし、探索している。休むということを知らないんだ。彼は、ビッグスターになりたいのかどうか、自分でわかっていないと思う。彼は、すごく頭が良いから、ビッグスターという立場が、なんらかの形で自分に制限を加えるんじゃないかと不安を感じているんじゃないかな。彼は実験をしていきたいんだ。この映画(『127時間』)も、まさに実験だ」と語っていた。

チャリティ目的の映画スタジオは、彼が行う、最新の実験だ。それはまた、映画を作る、若い人たちに教える、演技をするなど、彼がこれまでやってきたことを、集約するものでもある。常に学ぼうとする彼は、誰もやったことのないこのプロジェクトからも、きっと何かを学ぶだろう。それはきっと、また次の驚きにつながっていくはずだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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