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勝てば優勝の照ノ富士にいまこそ書こう──「大関復帰」は確実といっていい

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

高安は痛い黒星…初賜杯遠のく

翔猿には申し訳ないが、非常に残念な気持ちでいっぱいである。31歳、大関経験者でもある高安が、初めて賜杯を抱けるかもしれない。そんな期待が、翔猿の抜群の運動神経によって打ち砕かれたのだ。こんな状況でなければ、翔猿の相撲に素直に手を叩けていただろうが、昨日だけは例外だった。

立ち合いは、どことなくふわっと立ったように見えた。翔猿はもろ手で向かっていく。捕まりたくない翔猿。蹴返しも繰り出して手を出していくが、途中で高安が下手を引いて捕まえた。有利な体勢になったが、翔猿のまわしが緩んでいるからか、なかなか前に出られない。翔猿がもう一度蹴返しにいったところを一気に高安が寄る。そのまま寄り倒し――かと思いきや、寄ったときに高安の左ひざが先に土俵についてしまったのだ。確認のための物言いがついたが、翔猿がしっかりと残っており、軍配通り翔猿の勝ち。1分近い相撲に敗れ、賜杯がぐっと遠のく…。高安にとっては、今場所何よりも痛い黒星となってしまった。

照ノ富士が優勝に王手 大関復帰も確実

一方、高安と並んで優勝に向かう照ノ富士は、大関・朝乃山と対戦。過去4回の対戦は、すべて照ノ富士が制している。朝乃山は、照ノ富士をどう攻略してくるのか。

立ち合い。なんと朝乃山がもろ手突きを見せた。得意は同じ右四つの相四つではあるが、捕まりたくなかったのだろう。しかし、すぐに照ノ富士に抱えられ、左の上手を引かれてしまう。照ノ富士は、土俵際での朝乃山の下手投げに耐えると、朝乃山の上手を巧妙に切って、一枚まわしのまま力強く寄っていった。立ち合いで作戦を見せた朝乃山だったが、照ノ富士のうまさと強さに倒れてしまった。

照ノ富士は、2大関を破っての単独トップ。すでに11勝を挙げている。大関昇進の目安とされる「3場所33勝」という基準が一人歩きしていることには、筆者は反対の意見をもっている。今回、9勝の時点で「大関復帰」という報道が一部でなされており、それはないだろうと強く反発していた。だからこそ、照ノ富士には二桁勝利、ひいては11勝以上してほしかったし、彼なら必ずできると思っていた。満を持して、いまここに書こう。照ノ富士の大関復帰は、確実といっていい。

勝利の女神は誰に微笑む

照ノ富士は勝てば優勝。大関返り咲きに花を添えることができるか。その絵は十分浮かんでくる。ただ、本日の結果次第では、3人による優勝決定戦という展開もあり得るのだ。照ノ富士の相手は、大関・貴景勝。自身も優勝争いに絡んでいる上、昨日の正代戦は見事なまでの突き押しで完勝した。現役大関として、そうやすやすと負けるわけにはいかない。

高安は同じく4敗で優勝戦線に残る、平幕の碧山との直接対決。プレッシャーをはねのけ、大きな連敗の雪辱を果たすことができるか。照ノ富士の結果次第だが、二人も白星を挙げて可能性を少しでも残しておきたいところだ。

本日、いよいよ千秋楽。勝利の女神は誰に微笑むのか。かたずをのんで見守りたい。

<参考>優勝争いの行方

▽11勝3敗 照ノ富士

▽10勝4敗 貴景勝 高安 碧山

・照ノ富士が貴景勝に〇 → 照ノ富士の優勝決定

・照ノ富士が貴景勝に● 高安が碧山に〇 → 貴景勝、照ノ富士、高安の三つ巴優勝決定戦

・照ノ富士が貴景勝に● 碧山が高安に〇 → 貴景勝、照ノ富士、碧山の三つ巴優勝決定戦

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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