コロナ禍で約2倍になったインフルエンザの家庭内感染リスク 理由は?
受験シーズンが本格化する中、インフルエンザの感染者数が増加してきました。学級閉鎖もじわじわと増えています。コロナ禍前のインフルエンザと比べ、コロナ禍のほうがインフルエンザの家庭内感染リスクが高いという研究結果が報告されました。これらについて解説したいと思います。
学級閉鎖の数は3年ぶりの水準
現在、子どものインフルエンザが多く、全国で学級閉鎖が相次いでいます。
4年前と比べるとまだましなほうですが、2023年第5週(1月30日~2月5日)における学級閉鎖の数は1,821と、2020年2月以来、3年ぶりの数を記録しています(図1)。
現在、インフルエンザは子どもの感染が主で、西高東低の流行を示しています。沖縄県と西日本の都市部で流行している状況ですが、いずれ東日本もさらなる流行に入ることが危惧されます。
コロナ禍と比べてインフル家庭内感染リスクは約2倍
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)から、コロナ禍前(2017~2020年)とコロナ禍(2021~2022年)におけるインフルエンザの家庭内感染率を比較した研究結果が報告されました(2)。
基本的に同じウイルスですから、感染性もそう変わらないのなら、「コロナ禍で感染対策ができているから家庭内感染率は上がらないはずだ」と予想されます。
しかし蓋を開けてみると、インフルエンザの家庭内感染率は、コロナ禍前が20.1%、コロナ禍が50.0%という結果で、コロナ禍で家庭内感染リスクが2.31倍高くなることが示されました(図2)。
なぜ、コロナ禍ではインフルエンザの家庭内感染率が高くなるのでしょうか?
高いインフル家庭内感染率の理由
家庭内感染率が高い1つ目の理由として、インフルエンザウイルスに対する抗体価が低いことが挙げられます。
インフルエンザウイルスの感染によって得られた抗体は、1年以内に約14%低下することが示されています(3)。その後ウイルスに曝露されなければ、さらに低下する可能性があります。
3年間、国全体でウイルスの曝露がなかったため、抗体価がかなり低い状態で流行が始まりました。
今回のインフルエンザが流行する直前の2022年7~9月に採取された3,367人の血液検査によれば、現在流行しているA型インフルエンザ(H3N2)に対して、感染リスクを50%に抑える目安である抗体価(1:40以上)が、低年齢層で非常に低いことが示されています(図3)(4)。
インフルエンザはもともと子どもで流行しやすいのですが、こういった抗体価の低い集団から感染が広がっている可能性もあります。
家庭内感染率が高い2つ目の理由として、インフルエンザワクチンの接種率が高くないことが挙げられます。
新型コロナワクチンとは異なり、インフルエンザワクチンは、もともと接種率が3割程度と決して高くありません。
さらに、「コロナ禍に入って一度もインフルエンザは流行していないから、今年も大丈夫だろう」とたかをくくっている人も多かったと思います。
まとめ
私もインフルエンザに何度かかかったことがありますが、家庭内の感染はなかなか防げません。
コロナ禍前と比べるとインフルエンザの家庭内感染リスクは高い状態ではありますが、手洗いなどの手指衛生を心がける、湿度40~60%を狙ってしっかりと加湿する(5)、といった対策が効果的です。
(参考)
(1) インフルエンザに関する報道発表資料 2022/2023シーズン(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou01/houdou_00010.html)
(2) Rolfes MA, et al. JAMA. 2023 Jan 26. doi: 10.1001/jama.2023.0064
(3) Tsang TK, et al. Nat Commun. 2022 Mar 23;13(1):1557.
(4) インフルエンザ抗体保有状況 -2022年度速報第2報-(2023年1月6日現在)(URL:https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/253-idsc/yosoku/sokuhou/11746-flu-yosoku-rapid2022-2.html)
(5) 新型コロナが感染しにくい最適な湿度は何%ですか?(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20221227-00328216)