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「水の都・ベネチア」記録的水位で7割冠水 その理由とは

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
29日冠水したベネチアのサンマルコ広場を歩く人々(写真:ロイター/アフロ)

「水の都」であり「沈みゆく街」とも称されるイタリア北部のベネチア。特にこの時期は洪水が頻繁に発生しますが、29日(月)は発達した低気圧の影響で観測史上4番目の高さまで水位が上昇し、町の70%以上が水没する事態となりました。

浸水の状況

ベネチアは、100以上の小島が数百の橋や運河でつながれた水上都市で、ユネスコ世界遺産にも登録されています。

そもそも頻繁に洪水が発生する場所ですが、29日(月)水位が156センチに達して、町の70%以上が浸水する事態となりました。

かつてナポレオンが「世界一美しい広場」と称賛したサンマルコ広場は冠水して立ち入り禁止となり、28日(日)のベネチア・マラソンではくるぶしまで水に浸りながら走り続けるランナーの様子が見られました。

浸水の原因

ベネチアの水位 (ベネチア市のHPを参考に筆者作成)
ベネチアの水位 (ベネチア市のHPを参考に筆者作成)

11月から12月は洪水の季節です。その状態は「高水」を意味する「アクア・アルタ(Acqua Alta)」と呼ばれています。

アクア・アルタの起きる原因は、満潮と「シロッコ」と呼ばれる南風、さらに低気圧です。これら3つが重なることで潟内の水量が増え、洪水が発生するのです。そもそもベネチアはアドリア海の北端に位置しているため、シロッコ(南風)が行き止まる場所にあたり、高潮が起きやすい地形なのです。

29日の地上天気図 (出典元: イギリス気象庁)
29日の地上天気図 (出典元: イギリス気象庁)

特に、発達した低気圧が地中海に発生すると、3年に1度程度の割合で、水位が140センチ以上上昇することがあります。

今回は980hPaの発達した低気圧が接近したために強い南風が吹いて、水位が156センチまで上昇しました。この水位を記録したのは2008年12月以来のことで、また1872年の観測開始以来4番目の記録です。

なお、これまでの最高水位は1966年11月に観測された194センチで、この時は町の90%が浸水、数千人が家を失ったといわれています。(その時の様子↓)

地球温暖化と地盤沈下

ベネチアの洪水は年々増加しています。水位が110センチ超に達した回数は、1900年代初頭には10年間で10回程度だったものの、近年では40回以上にまで増えているのです。

水位と浸水面積 (ベネチア市のHPを参考に筆者作成)
水位と浸水面積 (ベネチア市のHPを参考に筆者作成)

その理由は、温暖化による海面水位の上昇と、地下水のくみ上げ過ぎによる地盤沈下といわれています。ベネチアの潮位監視予報センターによると、現在は120年前と比べて23センチも沈下しているといいます。

このように、陸地が海面に近づいて浸水が起こりやすくなっているのです。

ベネチアでは、アドリア海と潟を結んでいる水路に可動式のゲートを設置して、海水の浸入を防ごうとする「モーゼ計画」が2003年から実施されています。

しかしながら建設が大幅に遅れ、いまだ完成には至っていません。

《参考文献》

1. ベネチア市のホームページ

2. ベネチア・モーゼ計画と、ラグーンで実施されている対策事業 (財団法人 港湾空間高度化環境研究センター)[PDF]

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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