北海道の鈴木知事、全国放送で「鉄道の魅力」伝える違和感 SNS上にも疑問の声
2023年11月18日、北海道知事の鈴木直道氏が日本テレビ系列で放送された「知事と学ぶ!『世界一受けたい北海道検定』」に出演し、その中で、ふるさと銀河線りくべつ鉄道の体験運転の魅力を紹介。鈴木知事がインスタグラムにアップした「運転席からの景色も最高」とのテロップが付いた投稿動画も放送された。
しかし、「北の鉄路を次々と剝がし続けてきた知事が何をいっているのか」など、X(旧ツイッター)上には疑問の声が寄せられている。
番組では夕張を立て直した知事として紹介
鈴木直道氏は、財政破綻した夕張市に、2008年、東京都庁から出向し、2011年に30歳の若さで夕張市長に就任した。その後、コンパクトシティ政策として、夕張の市街地を集約させる方針を掲げたほか、2016年には夕張市内を南北に貫いていたJR石勝線夕張支線を「攻めの廃線」として自らJR北海道に提案。市は鉄道を廃線とする代わりに、持続可能な交通体系を再構築するための費用としてJR北海道からの拠出金7億5千万円を受け取り、市内のバス路線網を充実するとして利便性を図るとした。さらに、2017年には、夕張市が所有するホテルやスキー場など4施設を破格の2億4千万円で中国系企業に売却。当時、この中国系企業の社長と鈴木氏によって開かれた共同記者会見では「夕張市に対して100億円規模の投資を行い、中国人を始めとした大勢のインバウンド客を夕張に呼び込む構想がある」と報道された。
その後、鈴木氏は2019年北海道知事に栄転するが、夕張市が売却したホテルやスキー場などはJR石勝線夕張支線の廃線後に倒産。旧夕張駅前に立地していたホテルは現在も営業が再開されておらず、夕張支線の錆びついた線路とともに巨大な廃墟となっている。さらに、2023年10月1日には、深刻化するバス運転手不足を背景として、夕張市から札幌市方面を結ぶ夕鉄バスの広域バス路線も全廃された。北海道新聞が報じたところによると夕鉄バス夕張営業所の現在の運転手はわずか5名。1日10往復あまりの夕張市内線のバス路線を維持するために別の営業所からの運転手の派遣や、大型2種免許を持つ夕張営業所長や事務員らが路線バスを運転し、綱渡りの状態でバス路線の維持を図っている。
富山市や宇都宮市で行われているコンパクトシティ政策については、市の基幹交通を鉄軌道系の交通機関とし、住民の公共交通機関に対する利便性を高め都心部への外出を促進。その結果、都市中心部には賑わいが戻り沿線地価が向上。結果的に、自治体の税収アップや医療費の削減につながっているという。しかし、夕張市ではこうした活性化策を講じることで税収を上げようという発想はなく、夕張市の税収は鈴木氏が市長に就任した2011年からこの10年余りで10%以上減少している。
こうした夕張市の現状について鈴木氏は「すでに関与する立場にない」として未だに説明責任を果たしていない。
バス運転手不足から小樽―長万部間の並行在来線問題は泥沼化
JR石勝線夕張支線の廃線後、北海道の鉄道路線廃止の流れが加速し、2020年5月には札沼線北海道医療大学―新十津川間が、2021年4月には日高本線鵡川―様似間が、2023年4月には留萌本線石狩沼田―留萌間が廃止された。2024年3月末限りでは根室本線富良野―新得間も廃止される。
こうした状況の中で、2022年3月には、北海道新幹線の並行在来線となる小樽―長万部間についても新幹線の札幌延伸開業時に廃止される方針が、北海道庁が主導する協議会の場において決定された。このうち小樽―余市間については、輸送密度が2000人を超える区間であり本来であれば廃止の対象とはならない路線であることから、全国に衝撃をあたえた。余市町では、余市観光協会会長を始めとした民間有志が「余市駅を存続する会」を結成し、同区間の鉄道としての存続を粘り強く模索することとなった。
輸送密度が2000人程度と小樽―余市間と同程度の富山県のJR氷見線とJR城端線では、県が主体となって財政支援することを前提に、この2路線を第三セクター鉄道のあいの風とやま鉄道に移管し、新型車両の導入や列車本数の増発を行うことが決定されたこととは対照的だ。
並行在来線で、特に問題となっているのは、沿線に路線網を展開するバス会社が運転手不足のための減便を進める中で、並行在来線の鉄道代替バスを引き受けられない状況にあることが表面化したことだ。これによりバス転換協議は中断することとなった。しかし、地元新聞などが報じたところによると、北海道庁は「一度決まったバス転換という方針に沿って、今後は鉄道代替路線の引受について、ほかのバス会社やタクシー会社にも協力を求める」という。
新聞各紙も知事の責任を追及
こうしたことから、北海道新聞などの新聞各紙も知事に対する責任追及を始めている。11月7日の北海道新聞社説では、並行在来線の「代替バス案はすでに破綻しつつある」とし、この問題は「鈴木知事に対処する責任がある」。さらに「鈴木知事の調整力を示す場面が見られない」と批判。10月13日には産経新聞からも「『攻めの廃線』なぞありえない」と、北海道新幹線の並行在来線問題について「夕張の惨状への反省がまったくみられない」と批判されていた。
こうした批判への対処か、2023年11月20には、北海道鉄道活性化フォーラムに鈴木知事が登壇するようである。しかし、全国放送での北海道の鉄道の魅力紹介について、これまでの鈴木知事の行いから、X上には「『攻めの廃線』を行う人物が鉄道の魅力を発信するのはアベコベ感しかない」といったコメントも散見される。これで北海道内の鉄道路線廃止の流れが止まればよいが、並行在来線問題では北海道の交通行政が機能不全に陥っているといっても過言ではない状態であることから、失った信頼を取り戻すことは難しいかもしれない。
(了)