サッカー日韓戦 ”10年の謎” 2011年以来、なぜ親善試合がなかったのか――
いよいよ明日、3月25日に迫ったサッカー日韓戦。
韓国発のトピックスとしては、この時期の試合開催への反発世論の報道、ソン・フンミンが負傷により不参加決定したことなどが話題になっている。
そういったなかで紹介したいのが今回、「10年ぶりの親善試合での日韓戦」が行われるという点だ。合わせて「海外組も集まっての日韓戦も10年ぶり」。
2011年8月10日に札幌ドームで行われた「キリンチャレンジカップ」以来の対戦なのだ。さらに、海外組も招集しての”ベストメンバー”での対戦も同じく10年間行われてこなかった。最後の対戦は2011年1月のアジアカップ準決勝だった。
2011-01-25 N 2 - 2 ドーハ AFCアジアカップ
2011-08-10 H 3 – 0 札幌 キリンチャレンジカップ
2013-07-28 A 2 - 1 ソウル EAFF東アジアカップ
2015-08-05 N 1 - 1 武漢 EAFF東アジアカップ
2017-12-16 H 1 - 4 東京 EAFF E-1サッカー選手権
2019-12-18 A 0 - 1 釜山 EAFF E-1サッカー選手権
2021-03-25 H - 横浜 親善試合
まあ中国とは2000年3月以来、親善試合をしていないしアメリカとも2006年2月が最後。世界には対戦機会の少ない国などいくらでもある。ただ、日韓両国は2000年代までは定期戦形式で多くの親善試合が組まれていた。
それがなぜ10年間行われてこなかったのか。
韓国側の事情を中心に紹介する。
時代の変化…要素は複合的
そんなもん、日韓関係が最悪だからだろ。
半分くらいは正解だ。じゃあ本当に「目も合わせたくない」というほどに最悪なら2021年3月のこの時期に日本側から対戦のオファーなどしないわけで、それ以外の事情もある。
お互いスケジュールがタイトに…避けた?
日韓サッカーシーンを20年来眺めていると、近年は日韓両国は「距離的に近いから対戦する」というメリットが減っていると感じる。
双方代表の主力メンバーに海外組が多くなり、選手招集の過程が複雑になった。1990年代のように「パッと集まってパッと試合」という状況ではなくなっている。また日韓両国は世界的に見てもU-23代表の注目度が高く、両国協会はこちらの日程調整、選手招集にも忙しい。
加えて両国は近年、E-1選手権での対戦も多く(2年毎の大会では国内組中心のメンバーで必ず対戦)、まったく顔を合わせないということもない。双方、親善試合をするなら別の国と、考えるのも自然な流れだ。
さらにお互いが直接対戦するよりも、1つのチームがアジア遠征を組み、そのなかで日韓で試合を組むケースも多く見られている。最近では2019年3月にはコロンビアがそれぞれ22日に日本、26日に韓国と対戦した。
そういったなかでも…お互いとの対戦を「避けた」という面はあるだろう。何せ、同じ親善試合でも敗戦のショックが違う。特に韓国では02年W杯前には本当に「避けた」という話が韓国記者団のなかでかなり多く囁かれていた。共同開催を記念した対戦は97年5月21日、東京で行われた「W杯日韓共同開催記念試合」が行われたのが最後。02年大会前は日本がかなり好調で、韓国は01年夏にフランス、チェコに対して2度も0-5の大敗を喫する状況だった。無駄な刺激を避ける、という面があってもおかしくはない。
日本サッカーへの関心度が下がった
90年代中盤から02年W杯にかけて、韓国内での日本サッカーは「急成長する隣国」「自国のトップ選手がプレーする国」として大いに興味が持たれた。97年フランスW杯予選では川口能活に韓国での”ギャル人気”までが生まれた。日本サッカー史上、韓国サッカーファンにモテた存在は唯一無二だ。
加えて、韓国でのJリーグはホン・ミョンボらトップ選手がプレーする国として認知度が高かった。セレッソ、ヴィッセル、マリノス、エスパルス…韓国人プレーヤーが所属するクラブ名は、韓国でも”スラスラと出てくる”という感があった。ちなみにエスパルスは「Sパルス」と認知されている。同時に「中長期の計画性を立てて成功したリーグ」「地域密着というコンセプトをはっきりと打ち出した点が優れている」といった話も多く聞いた。
筆者自身、2015年頃までは「スポーツソウルドットコム」や「NAVER」などで日本サッカー関連の執筆活動を展開できていた。当時は担当者から「とにかく本田圭佑と香川真司の名前を出して書いてほしい」と言われたものだ。つまり、当時韓国勢よりも欧州で活躍していた日本選手の名前を挙げて、韓国の読者を煽れと。
しかしその後、「NAVER」の海外サッカー担当に企画を提案しても「日本は海外サッカーっていう感じではないんですよね」という反応に変わっていった。
2019年秋からは「NAVER」で動画の企画にチャレンジしたが、日本サッカーそれ自体の話題を話してもアクセス数はさっぱり。2020年1月の「新国立競技場オープン」などは散々な数字だった。最も多く再生されたのは「日本記者の見る韓国サッカー」という切り口のものだった。ほんの5年前までは「ホンダ・カガワで押せ」と言われていたのに。短期間で潮目が変わり、もう通じなくなっていたのだ。
Jリーグも時代が変わり、「大卒の若手が行く場所」といったイメージになっている。大物選手が在籍せず報じられる機会も少なくなっている。
揉めた…横断幕事件、大暴れ事件など
もちろん、この問題は避けて通れない。
2011年、アジアカップ準決勝での対戦時には、韓国のゴール後にキ・ソンヨンが「猿の真似」のパフォーマンス。「日本を揶揄している」として物議を醸した。
2013年8月の東アジアカップ(現E-1選手権)では「歴史を忘れた民族に未来はない」という横断幕と、伊藤博文の暗殺者である「安重根」と豊臣秀吉の朝鮮侵攻を撃退した伝説で知られる「李舜臣将軍」の巨大な肖像幕が掲げられた。KFA自ら「FIFAの政治的主張を禁ずる規定に抵触する可能性がある」とし、試合中に撤去させた。日本サポーター席からは旭日旗が掲げられた。
フル代表の試合ではなかったものの、2012年のロンドン五輪男子サッカー3位決定戦後には「竹島プラカード事件」が起きた。また2017年にはアジアチャンピオンズリーグの浦和レッズー済州ユナイテッド戦で大逆転負けを喫した済州の選手が埼玉スタジアムで大暴れするという事件も。
それでも2014年7月頃、日韓戦開催あるか? と韓国内で盛り上がったことがあった。日本側の報道から「2011年の札幌でのリターンマッチを韓国で行う」という情報が駆け巡ったのだ。
しかし、これをKFA側が一蹴した。国内最大の経済紙「毎日経済」はこう報じた。
「今年の韓日戦開催はなくなった。熟考したが、日本は除外の対象に分類された。昨年の東アジアカップでお互いの応援の応援によって雰囲気が険悪になったのも理由のひとつだ。合わせて社会的に韓日の冷たくなった雰囲気も考慮せざるを得ない」
韓国側としても懲りた、という面もあったか。
それでも本心は「韓日戦やりたい」
この「2014年に日韓戦開催説」の話には前段があった。
その1年前のことだ。2013年7月26日、ソウル郊外の韓国代表トレーニングセンター。韓国で行われていた東アジアカップ(現E-1選手権)大会開催中だった。この出来事があった際には筆者も現場にいた。
試合の空き日にKFAのチョン・モンギュ会長が「ブリーフィングを開催する」と記者団を呼び寄せた。
「韓日定期戦を復活させるよう、日本側と協議中」
わざわざ呼び寄せるくらいだから、記事にしなさいということだった。
具体的にこんな日程まで口にしていた。
「日本サッカー協会と来年10月もしくは11月のAマッチウィークに韓日戦を行えるよう協議している。今、開催日を調整中」
本心はやりたいと思っているのだなと思ったものだ。しかし前述の通り、このブリーフィングの日韓戦後に「横断幕事件」が勃発。この件もあって試合開催は頓挫した。
関係者どうしもプチ揉め
韓国側の報道によると、こういった出来事もあった。2010年10月に決定した2022年W杯の開催地。スイスのFIFA本部で行われた投票の際、「日韓どちらかが先に脱落した場合、次の段階の投票では日本は韓国に、韓国は日本に投票するようしよう」と口頭で約束が交わされていたという。
実際には日本が1次投票で脱落し、韓国が2次投票まで進んだが…日本は別の候補国に投票した。「東亜日報」など有力メディアが「韓国の関係者がため息をついていた」などと報じた。
「KFAを含む韓国誘致委員会側には残念がる雰囲気はありましたよ。ただ口約束がどんな雰囲気のものだったかまでは明らかになっていません。口約束ですから、日本を責めることはできない。それにたとえ日本が韓国に投票していても、最終的には誘致には成功しなかった、と国内メディアは見ています」(韓国サッカーメディア記者)
筆者自身、この問題は意外と尾を引いているのではないか、とも見ていたが…もう解決済みのようだ。2018年10月にJFA田嶋幸三会長が韓国の「ジョイニュース」のインタビューに応じ、こう答えている。
避け、忙しく、揉め、時代が変化し… これが10年来、日韓両国が自らの意思で親善試合を汲んでこなかった背景だ。
いっぽうで、「欧州組を招集しての対戦」が行われなかった背景は…
W杯予選、アジアカップでの対戦がない…東アジアでは幾度も対戦
W杯予選での対戦は、97年フランス大会時のアジア最終予選時が最後。
近年のW杯予選では、日韓両国はFIFAランキングなどによってシード分けされることとなり、同組に入る可能性が減っている。
直近の2018ロシアW杯アジア最終予選では、アジアでのFIFAランキング順が、イラン・豪州・韓国・日本の順となり日本と韓国は「第2シード」に。早々にお互いがA組・B組に分かれることとなり、「毎日経済新聞」などが「日韓戦はなし」と報じた。
そういったなかでも、2014年ブラジルW杯予選時には当時のFIFAランキングにより韓国がトップシード、日本は第2シードとなった。抽選結果により同組の可能性があった。KFA会長も「日韓戦はむしろ歓迎」と話していたが…両国は別組となった。
一方、アジアカップでも対戦がない。2015年のオーストラリア大会では日本が準々決勝で敗退。韓国はファイナリストとなった。2019年UAE大会では逆に韓国が準々決勝で敗退。ファイナリストとなった日本との対戦は実現しなかった。
それでもやっぱり”韓日戦”は”腐っても鯛”
かつては「ブラジル戦よりも盛り上がる」と言われた韓国にとっての日本戦。時代や状況とともに変化しているのだが、このコロナ禍でも「やっぱりすごい価値なのだな」と思わせる一幕があった。
2019年末から2020年2月中旬まで放映された、超人気ドラマ「愛の不時着」でも、「サッカーの日本戦」のシーンが出てきた。北朝鮮から忍び込んだ兵士が、ソウルの飲み屋で「チキンにビールを片手にみんなで日本戦を応援」という場面に出くわした。韓国社会を描く象徴的なシーンに「サッカー韓日戦」が含まれたのだ。
また、韓国側では「対戦時が来ればプレッシャーがかかる」という状況に変わりはない。2019年にU-20代表W杯準優勝の実績を残したチョン・ジョンヨン監督は、ベスト16で対戦した日本戦をこう振り返っている。
「プレッシャーは200%でした」
勝ち上がりがかかった一発勝負、しかも「相手が日本だったので」と。韓国のテレビに出演し、こんなエピソードも明らかにしている。
「試合前、息子と電話で話したら、こちらの緊張が伝わったか、彼は思わず”1ゴールごとに1万ウォンあげる”といい出したんです」
その子は当時小学校4年生だったのだという。
(了)