阪神甲子園PV無料チケットの高額転売 規制の穴と球団が有料にできないワケ
阪神タイガースが甲子園球場で日本シリーズの試合映像を放映するパブリックビューイング(PV)を巡り、先着順で無料配布され、15分で配布を終えた入場チケットが、配布直後に転売サイトに出品されたうえ、数万円で転売されているという。
「不正転売」とは
このチケットは、球団の同意なく第三者への有償譲渡が禁止されているものだ。ファンは怒り、「転売ヤー」を逮捕すべきだといった声も上がっている。しかし、これは「チケット不正転売禁止法」による規制の穴をついた転売にほかならない。
すなわち、この法律で処罰される「不正転売」は、有償で販売されているチケットを入手し、定価よりも高く転売した場合に限られる。たとえ球団が転売を禁止していても、無料配布のチケットだとこの法律で転売を規制することはできない。
こうしたダフ屋行為は都道府県の迷惑防止条例でも処罰されるが、球場周辺といった公共の場所などでの取引に限られ、ネット空間における転売には使えない。
そうすると、最初から入場料をとり、チケット不正転売禁止法の網にかけるべきだったのではないかと考える人もいるだろう。チケットが無料だと転売できなくても損失がなく、「転売ヤー」の格好のエサになってしまう。
なぜ有料にできない?
しかし、球団としても、ファンサービスの面以外で有料にできない理由がある。PVで放映される試合映像の著作権は試合の主催者や放送局などに帰属しているし、通常のテレビではなく球場に設置された大型ビジョンで放映する場合、放送局の伝達権を侵害しないように注意する必要もあるからだ。
こうしたPVを巡る法的問題については、2002年のサッカー日韓ワールドカップの際、FIFAが開催都市2か所以外のPVを認めないといった方針を示したことが契機となり、以後、高額なライセンス料の妥当性などと併せ、様々な議論が進められてきた。
この結果、営利を目的とせず、かつ、入場者から入場料金も徴収せず、事前に主催者や放送局の許諾を得ていれば、PVを実施しても問題はないとされている。東京五輪でも組織委員会は有料のPVを禁止していたし、いまでもNHKなどでは放送局の映像を使ったPVは非営利かつ無料のものに限るとされている。
本気の転売対策を
ただ、そうした無料配布のチケットであっても、転売は球団が定める規約や試合観戦契約約款に反する。転売目的を隠し、嘘をついて球団側からチケットをだまし取ったということで、「転売ヤー」を詐欺罪で検挙することが可能だ。
この理屈を前提とすると、転売サイト側の認識によっては、彼らも共犯として捜査の対象にできるし、購入者も出品のタイミングなどから転売目的で入手されたチケットだと認識しているはずだから、盗品等有償譲受罪に問うことができる。
現にコンサートチケットでは、「転売ヤー」が詐欺罪で逮捕され、有罪になった例や、チケット転売サービスの運営会社幹部らが共犯として書類送検された例もある。
それでも、こうした刑罰法規には限界があるし、事件化には警察の「やる気」も不可欠だ。ファン離れを防ぐためには、まずは球団による本気の転売対策が重要となる。例えば、入場時に本人確認を実施するほか、転売が判明したら売買の両当事者を将来にわたって「出入り禁止」にするといったものだ。
今回の騒動を受け、球団の担当者は、PVだけでなく公式戦でも転売があったことから、来年以降の課題にしたいと話しているという。すでにヤクルトスワローズはネット上で転売されているファン感謝イベントのチケットを特定し、取引停止を求め、その座席番号を公表するといった厳しい措置に出ている。他球団も参考にすべきではないか。(了)